ボールの取り上げ方~J2第5節 愛媛FCVSファジアーノ岡山~

スタメン

 両チームのスタメン、ベンチ入りメンバーはこちら。

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※記事作成中に森谷の背番号が間違っていたことに気づく。19と書いてありますが、実際は11です。

岡山なりのボールの取り上げ方

 クラブOBでもある川井氏が監督になってからの愛媛は、J2をちょっとでもかじっているような人ならほぼ誰でも「ああボールを持つチームだよね」という認識を持っているのではないだろうか。他者に認識できる形でクラブのアイデンティティを定着できている時点で、地方クラブの監督としてとても優秀な監督なのだと思っている。個人的にはフレッシュな顔だちから若監督と呼びたい。なお岡山の有馬監督も、顔のフレッシュさでは負けていないと思っています。(有馬監督の方がちょっと濃いめ)

 後方からボールを保持して前進していこうとする愛媛に対して、岡山が試合を優位に進めていくには、愛媛ができるだけ長い時間持っていたいボールを取り上げることが必要になる。そのための解決策としてこの試合で岡山が行ったのは、第一ラインからできるだけ高い位置で守備を行うことであった。自分たちが長くボールを持つという保持時の観点ではなく、相手に余裕を持ってボールは持たせないという非保持時の観点による問題解決策である。

 そんな岡山の非保持時の振る舞いは立ち上がりから見られた。まずは2:50、岡本からのゴールキック、愛媛としては最終ラインに繋いで運んでいこうとするのだが、岡山は第一ラインのイヨンジェと山本が愛媛の3バック(前野・西岡大輝・茂木)にプレスをかけに行く姿勢を見せることで結果的に前野にロングボールを蹴らせる。
 次に6:30、岡本へのバックパスをスイッチに高い位置からの守備を開始したシーン。山本は西岡大輝に対して、中へのコースを消しながら寄せることで、左サイドにパスコースを制限。愛媛は前野-清川でワンツー打開を図るが、そこに関戸と椋原が囲んで、最後に山本のプレスバックから白井がパスカット。上門に繋いで、ボール奪取からシュートにまで持ち込むことに成功したシーンであった。

 具体的に挙げた上のシーンのように、非保持時の岡山は第一ラインの2枚+SH(上門・関戸)の4枚が愛媛の3バックに対して中へのコースを切りつつパスをサイドに誘導。相手がサイドに展開したら詰めに行けるポジションを取るようにしていた。特に前半は愛媛のパスを左サイドに誘導しているように見受けられた。これはおそらく、愛媛の左WB(清川)と岡山の右SB(椋原)ならば、椋原に分があると踏んでのことなのではないかと推測。逆サイドの徳元vs西岡大志の元琉球対決よりは勝ちを計算しやすいのは確か。

 立ち上がりの10分辺りまでは、CH(上田・白井)とCB(田中・濱田)のがその前線のプレッシャーに連動して詰めきれず、愛媛に空いたスペースを使われてターン~逆サイドに展開されるシーンも散見。しかしそれ以降は、CHを縦関係にすること(⇒1枚がボールサイドの愛媛CHをチェック、もう1枚が中央スペースを埋める)、CBを中心に最終ラインが積極的に前のスペースを潰しに行くことで解決させていた。特にCHの2人はどちらかが詰めに出てどちらかがスペースを埋めるか、これを入念に行っていたように思う。白井の出ていくタイミングとステイするタイミングが非常に絶妙だった。
 再開後初スタメンとなった山本や関戸を中心に前の4枚が、上手く背後のスペースを消しながら相手に寄せることができており、「このプレスを無駄にしないためにも自分たちがしっかりそれに連動しなければ!」という覚悟が後ろの選手に生まれたのかもしれない。

 10分以降は岡山の第一ラインからの高い位置での守備が機能したことで、愛媛は本来行いたい、「外周でボールをじっくり動かしながら外→中のボールの出し入れを行いつつ、自分たちのペースで背後を取る」ボール保持を行えなくなっていった。プレッシャーに我慢できず、最終ラインから前線の西田や藤本にボールを入れようとするが、満足に前を向ける回数が少なく、セカンドボールを岡山に回収される形が増えていった。

原点回帰~ヨンジェで勝負だ!~

 セカンドボールを回収してからの岡山のボール保持攻撃は、基本的にイヨンジェと山本を愛媛の最終ラインと勝負させるようなダイレクトな展開が多かった。北九州戦のように足元にパスを入れるというよりは、方向はややアバウトでも浮き球で前線を走らせたり、競らせたりする意図を持ったロングボールであった。特にイヨンジェが相手の背後に抜け出すタイミングを計っているようであり、イヨンジェが背後狙えるタイミングでは少々精度的に難しくても優先的にボールが送られていた。17分には上田から背後を取ったイヨンジェにロングパス、抜け出してシュートを放ったが岡本に防がれた。

 岡山は精度のあるロングボールを入れるために後方でオープンな状態(=前を向ける時間のある状態)の選手を作りたいので、積極的にGKのポープが最終ラインとCHで行われる低い位置でのパス交換に参加。岡山が後方でボールを持ったときの愛媛は第一ラインの2枚と森谷がプレッシャーに行くようにしていたが、ポープの参加によって岡山の数的優位は保たれる状態。また愛媛の最終ラインは、岡山の前線とのロングボール勝負で後手を踏んでいた(⇒思惑通り走られる、競り合ったらファールを取られる)ので、CH(渡邊・田中)が最終ラインのプロテクトのために低いポジションを取ることが多かった。

 これによって愛媛の前と後ろのラインに間延びが発生。結果として岡山はロングボールを入れた後のセカンドボールを回収しやすくなり、それだけではなく愛媛のCHの周囲のスペースで上田や白井、そしてインサイドに絞った関戸がパスを受けてキープする形も作れるようになっていた。

 これに対して愛媛は30分を過ぎたあたりからロングボールで最終ラインが下がり過ぎないように修正。最終ライン~前線の各ライン間をコンパクトにすることで、岡山にクリーンな形でセカンドボールを回収されないようにする意図があったと思われる。そしてこれの副産物としてオフサイドを取れるようになっていった。
 愛媛はボール保持でも修正箇所が見られるようになる。CHがサイドの低いポジションに流れることで、岡山のボールサイドにかけるプレッシャーに人数を増やして対抗。本来は岡山がサイドの低い位置でチェックしておきたいWB(西岡大志・清川)が浮く形で高い位置でボールを受けるシーンも見られるようになった。

 閉塞感の目立つ愛媛が何とか光明を見出しかけた前半の終盤だったが、ピッチ状態があまり良くなく、全体的にボールタッチのズレが両チームともに目立ち、それによってパス成功率もあまり高くない中で決定機はあまりなく、前半はスコアレスで折り返し。

得点は良い流れのままに~上門覚醒前夜・・・?~

 後半立ち上がりの岡山は、前半上手く行った第一ラインからの高い位置での守備を継続。第一ラインとSHの4枚がサイドに追い込んでロングボールを蹴らせて、CB中心にマークしてスペースを潰す。岡山は相手ボールホルダーが後ろ向きになるとすぐに詰めに行ける準備を取れていて、加えて愛媛はボール保持時のパススピードが上がらない。前述したボールサイドに人数をかける修正も結局岡山のチェックにすぐに捕まってしまう状態が続いていた。

 プレッシャー→セカンドボールの移行時、各選手のリアクション速度で愛媛を上回る岡山。中4日の岡山と中3日の愛媛という中1日の差は思った以上に大きいのかもしれない。特に上門のセカンドボールへの反応は前半から際立っており、ボールを奪ってからのキープで愛媛のファールを誘うだけでなく、後半になるとゴール前に飛び込む形も増やしていくようになっていった。特に後半の立ち上がりの上門のパフォーマンスは、現19番に先代19番の影を見た人も多そうなパフォーマンスであったと言ってもいい。

 そんな上門のプレーによって岡山に先制点が生まれたのが55分。セットプレーの流れから上田が上門に繋ぐと、上門はターンしてシュート態勢。正面にいた茂木がシュートブロックに向かうと、これによってマークの外れた山本にスルーパス。飛び出した山本が岡本の肩口を抜くようなループシュートでゴールに沈めて0-1。(下動画1:15より得点シーン)

 縦からの映像を見ると、上門がシュートモーションを見せることで山本のマークがフリーになってスペースが発生、それに合わせて山本も動き出しているのが分かる。今まで上門がこういう位置からシュートの選択をしていたからこそ生まれたスペースだったと言える。

若監督の悪手と良手

 スコアが動いた段階で、愛媛は一気に三枚替え。清川→長沼、藤本→丹羽、そして西田→有田と変更。川井監督得意のベンチワークで事態の打開を図る。この交代によって愛媛は352(3412)から3421にシステムチェンジ。
 またこの時間帯辺りから、愛媛は前野よりも茂木がボールを持つようになったことで、左サイドメインだったビルドアップを右サイド起点に変更。アイソレーション(孤立状態)を左サイドで作り、左WBに入った長沼の推進力で椋原と勝負させる意図があったのだと思う。

 しかし愛媛の打ったシステム変更という最初の手は裏目に出ることになる。愛媛は前線の選手を入れ替えたことで前から3枚でボールに行こうするが、その前の守備がハマらず、加えて中盤が2枚になったことでCH周囲にスペースができる。これによって岡山は、上門や関戸、さらに白井がインサイドレーンの高い位置でボールを受けて、前を向いてプレーできる回数が増えることになった。

 65分に愛媛は次の手を打つ。渡邊に代えて川村を投入。これで田中をアンカーに、森谷と川村がIHに入る形の352(3142)にシステムを再変更。なお岡山もこの交代と同時に山本から斎藤に交代させている。

 愛媛の最初のシステム変更は、愛媛視点で言うと逆に岡山に利を生む悪手であったが、この3142へのシステム変更は良手となった。中でボールを持てる川村が入ったことで、IHの森谷が右サイドに流れて起点となることができるようになった。これによって愛媛はようやく本来やりたかったであろうボール保持の形ができるようになる。78分には右サイドの展開から西岡大志のクロス、有田が頭で合わせるもわずかに枠外。

 岡山は、75分過ぎから高い位置での守備を控え、ハーフラインに第一ラインを置く形で442のブロックを作って守る時間帯が増える。上門→野口、関戸→パウリーニョと交代カードを使い、とにかく中央を使わせないように守る岡山。これによって敵陣には運べる愛媛であったが、外→中のパスワークが少なく、結局ゴール前に張り付く選手にロングボールを入れるような攻撃が目立った。

 最後まで集中を切らさなかった岡山が1-0で逃げ切り。岡山は4ヶ月半ぶりの2勝目&J2通算150勝を達成した。

総括

・中1日の差は大きかったのか最後まで運動量が上がりきらなかった愛媛。運動量が上がらなかった一つの指標としてファール数の差がある。岡山が6だったのに対して、愛媛はその4倍となる24。またそのファールの内容も、出遅れて思わずアフター気味でやってしまうような形のファールが多く、DAZNの解説から苦言を呈されることが多かった。
 川村が中央に入って、森谷がボールサイドに寄るフリーマンの役割になってからの形はなかなか興味深かった。あの時間帯は茂木や西岡大輝が神出鬼没に飛び出す、本来の愛媛の形が見えた気がした。

・ハイプレスで愛媛のボール保持を取り上げる、ボール非保持の振る舞いで主導権を握ることに成功したこの試合の岡山。ある意味「ボールを持たないでも相手を攻撃することはできるんだぞ」というのを見せた試合でもあった。本文でも書いたが、山本の前線からの相手への寄せ方が実に上手く、背後のパスコースを消しつつ相手のコースを限定するような寄せを見せていた。第一ラインの守備が上手くできると、後方も勇気を持って高いポジションを取り、スペースを潰すこともできる。これだけ守備での貢献が高かったのだから、ファインゴールという褒美で報われるのは当然である。

・この試合では、原点回帰したようにイヨンジェを走らせるダイレクトなロングボールを増やして戦ったが、現在特に取り組んでいるポゼッションによるビルドアップとどう折り合いを付けていくのか。CB発信でのボール保持があまり安定せず、ボール保持時のポジションが前掛かりになり過ぎて崩れがちな現状では、ロングボールメインで行った方が失ってからのプレスに行くスムーズさでは上な気がするが。どういう展開でも主導権を握れるような万能型への道程は道半ばというか、道五分の一というか。

試合情報・ハイライト


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