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プランAができないとき~J2第12節 ファジアーノ岡山 VS FC町田ゼルビア~

スタメン

両チームのスタメンはこちら。

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スライドを許さない町田のレシーバー

 ホームの岡山もアウェイの町田も、立ち上がりからお互いに様子見の趣を感じさせないテンションで始まった試合。特に岡山の立ち上がりは、最終ラインの井上と阿部から球足の速いロングボールで前線の山本や川本を町田のCB-SB間に走らせて、サイドの深い位置で起点を取り、そこから河野や徳元のクロスでゴール前に迫る回数を増やそうとしていた。岡山の攻撃から自陣でボールを回収したときの町田は、簡単にロングボールを蹴るというよりは最終ラインの高橋と深津を中心に一度ボールを落ち着けようとする。試合の立ち上がりから最初の飲水タイムまでの時間帯は、ボールを回復して、そこからボールを前進させたい町田と高い位置でプレッシャーをかけたい岡山、それぞれの意図を巡る攻防が中心となっていく。

 自陣でボールを持ったときの町田は、CBの高橋と深津の最終ラインにCH(高江か森下)のどちらかが列を下りて3バックを形成。岡山の第一ラインとなる山本と川本の背後にCHの片割れがポジショニングするというのがベーシックな形であった。こういった形でビルドアップを行うチームに対して岡山としては、まずは第一ラインの2枚で中央のエリアを閉じつつ町田のボール出しをサイドに追い込み、ボールサイドのSHが詰めに出る流れで高い位置からのプレッシャーをかけていきたいところであった。実際に岡山は町田のビルドアップに対して、山本が最初のプレッシャーに行って、そのプレッシャーに川本が続くことで段差をつけた第一ラインのプレッシャー、そしてサイドに出たボールに対してはSHの上門や木村が詰めるという形での守備を行おうとしていた。

 相手のビルドアップに対して第一ラインのプレッシャーを起点にサイドに追い込もうとする岡山の高い位置からの守備の肝になるのは、ボールサイドへのCHの横スライドと、ボールサイドのSBの縦スライド。ボール局面の密度を高めることで相手のボール保持に対する時間とスペースの余裕を奪うのが狙いになるわけだが、この試合では特にCHの横スライドで問題を抱えることとなった。これは白井と疋田がサボったとかそういうことでは全くなく、町田の2トップの位置から岡山のCH脇に移動する長谷川アーリアジャスールと、第一ラインの背後にポジショニングする町田のCHの片割れが判断の問題を突きつけたためである。

 岡山はボールサイドのSHが予定通りにポジションを上げてプレッシャーに向かうのだが、CHが思いきったボールサイドへのスライドに行けないためにどうしてもSH-CH間にスペースが発生してしまっていた。 町田はこうしてできたスペースを長谷川なり内側に絞ったSH(平戸や太田)なりが使ってボールを受ける、叩くというワンタッチプレーを繰り返すことで岡山のプレッシャーを外し、サイドからボールを運ぶことに成功した。大外にポジショニングする町田のSB(奥山と三鬼)に対してボールが入ったときに岡山は徳元や河野が付いていくので、ここで取り切る形が作れればまだ良かったのだが、ここもワンタッチプレーで外されることが多かった。このため立ち上がりの岡山は狙いと反して、町田のボールをサイドに追い込むはずが逆に町田にサイドに引き寄せられる格好となっていた。

 敵陣にボールを運んでからの町田が主に狙っていたのは、近い距離での高速ワンツーから前を向けるフリーの選手を作り出して局面で優位を作ることであった。そのためワンツープレーの起点となるべき前線の中島と長谷川、SHの平戸はそれぞれが近い距離でポジショニングするようにしていた(⇒右SHの太田はこのタスクから免除されているようで、右サイドのオープンスペースを突くのが主な役割っぽかった)。町田の先制点のシーンは前述した前の3枚がワンツーに関わっているわけではないのだが、左サイドでのキープから奥山がサイドチェンジを行うと、右サイドで大外の太田と内側にいた三鬼でワンツーをしたところで一気にスピードアップして太田が徳元を振り切り、ダイレクトでゴール前に折り返したところに逆SHの平戸が詰めての形であった。ワンツーからのスピードアップ、抜け出した太田の迷いなく折り返したプレー、逆サイドから平戸が侵入した形、おそらく町田のなかでパターン化された崩しだったのかなと思う。

 三鬼→太田のワンツーへの注意が不足しているように見えた徳元-木村の左サイドの守備対応、絞ってはいたが簡単に平戸に前に入られた河野の対応、自分の背後の状況を確認しきれなかった阿部と河野のコミュニケーションの問題など、岡山の守備の問題もあったが、どちらかというと町田のプレーを褒めるべき得点だろう。

プランAの前提は自分たちのボール保持から

 町田の先制点からほどなくして入った前半の飲水タイム。この飲水タイムを境目に、ボールを持つ岡山とそれに対応する町田というように試合の構図が変化するようになる。プレッシャーをかけていくというよりは4-4-2でセットしてまずは中央のエリアを閉じようとする町田に対して岡山は、最終ラインでボールを持つこととなる井上と阿部のCB2枚が簡単に前に蹴り出すのではなく、ショートパスを増やしての地上戦によるビルドアップを試みるようにしていた。岡山は金山へのバックパスを使いつつCB-CH間で前を向ける形を作り、町田のプレッシャーが遅れやすい大外への展開をメインにして、サイドからボールを運ぶ形を増やそうとしていた。

 町田の最終ライン(特にCB-SB間)を引っ張るようにしてボールサイドに流れて起点を作れる山本と、山本の動きで押し下げてできた手前のスペース(⇒町田の最終ラインの前のスペース)でボールを受けてそこでボールを簡単に失わずに時間を作ることができる川本と、サイドからボールを前進させることをメインにしていた岡山にとっては非常に好都合な2トップの関係性であった。またこの試合では前述したように後方からボールを運んでいく意図が強く見えたため、2トップが後ろの選手と孤立するようなシーンがあまりなかった(⇒失ってもすぐに後ろの選手が回収できるようなポジションを取れていた)のも、2トップで時間を作ることができた大きな要因だったように思う。

 サイドの高い位置までボールを運んだときの岡山は、2トップの関係性に加えて、左サイドでは木村がボールを運ぶことで、右サイドでは上門が運ぶというよりはボールをキープすることで後ろをさらに高い位置に押し上げる時間を作れていたこともあって、ボールサイドの大外~内側のエリアで人数をかけてサイドを攻略、ペナ角付近からの崩しまたは奥を突いてからの折り返しを狙うことが多かった。特に見られたのが、一度パスを前に入れてのレイオフプレーなりボールをキープしての追い越しなりで前向きのフリーの選手を作ろうとしていたことであった。町田の4-4-2のブロックは自陣深くでもボールホルダーに食いつく傾向があるので、このような一度相手を引き付けてからその周辺で味方を前向きにするようなプレーは非常に効果的だった。

 岡山が同点に追い付いた27分の川本のゴラッソも、左サイドで川本が時間を作ったところから始まっているのだが、白井がペナ角に走り込んだことでスペースを広げたことで徳元の縦パスを促し、縦パスを受けた白井がワンタッチで落とすレイオフプレーで川本をペナ角から右足を思いっきり振ることができるオープンな状態を作り出したことから生まれたプレーであった。

 このように岡山は前半の途中からボールを持って攻撃していく時間が長くなっていったのだが、ボールを持ったときの岡山の振る舞いとして非常に好印象だったのがパスの長短と緩急を意識してボールを運ぼうとしていたことであった。具体的には、サイドで詰まったときに中央のCHを経由して逆サイドに展開したり、最終ラインへのバックパスで最終ラインからやり直したりすることで再びサイドからボールを運び直して、急ぎすぎずに一度落ち着けようとしていた。逆に後方でボールをゆっくり動かしていく中で、前線やSHが町田の最終ラインの背後に飛び出そうとする動きに合わせて長いボールを入れようとしたり、町田のライン間が空いたところに縦パスを入れようとしたりすることでスピードアップを図ろうとしていた。

 こういったメリハリのついたボール保持を意図しようとするプレーがチーム全体で見られていたのは、やはりCBの井上と阿部の2枚を中心に個人個人がボールに関与することを恐れずに、自らボールを引き出す動きを積極的に行うことで、ボールホルダーを孤立させないようにしていたのが大きかった。特に先に名前に挙げたCBの2枚は、CHとのパス交換を行いつつ、味方が詰まったときのバックパスや横パスを受けることができるポジションを素早く取り、機を見てのロングパスや縦パスを打ち込んで相手の背後を狙おうとすることでビルドアップに対して非常に積極的に関与しようとしていた。味方に出すときにもう少し相手を引き付けることができればなお良かったかもしれない。

 メリハリのついたボール保持を行うことで全体のポジションバランスを良くして前進を図れていた岡山。そのため町田がボールを回収したときも、素早く複数でプレッシャーに行くことができていたので、町田に対して立ち上がりほどボールを落ち着かせることなく時間とスペースの余裕を奪うことができていた。プレッシャーを受けた町田は前に蹴り出す形が多くなり、そのボールを岡山の最終ラインが回収することで再び岡山が攻め直す展開を作り出すことができていた。

崩れたプランAの前提

 追い付いてからは試合の主導権をほとんど町田に渡すことなく試合を進めることができていた前半の岡山。後半も同じように試合を進めていきたいところであったが、ハーフタイムを挟んで仕切り直しになったところで町田が後方でのボール保持の形を修正するようになる。最終ラインでのボールの動きをよりサイドに広げる形にして、GKの福井に下げる回数も増やすようにすることで後方でボールを落ち着かせるようになると、前半の立ち上がりに見られた岡山の高い位置からの守備が上手く行かない問題が再びピッチ上に姿を表すようになった。

 前半の勢いを駆ってCBもできるだけ高いポジションを取って町田の選手を掴まえようとする岡山だが、町田は岡山のそういった守備の狙いを逆用することでボールを前進させることに成功する。サイドに岡山の選手を誘導してのワンツーで白井と疋田の周囲に出来上がったスペースに長谷川や平戸あたりが入ってきてボールを受けると、プレッシャーがかかりきらない中で高いラインを取っていた岡山の最終ラインの背後を狙っていく。吉尾やドゥドゥが入って前線でのキープ力が上がってからは、SBの奥山や三鬼が大外のより高い位置を取るようになったことで、押し返そうとする岡山に対して逆に岡山を押し下げることに成功していた。

 逆に前半途中からの良いサイクルを回すことができなくなった岡山。ここで一度高い位置でプレッシャーをかけるのではなく、4-4-2のブロックを敷いて中央を塞ぎつつミドルゾーンでのボールの奪い合いに持ち込んだり(⇒町田の攻撃のキーが長谷川や平戸への縦パスであったので)、ボールを回収したときに落ち着かせることを意識的に行ったりすることで展開を変えるプランを持っていれば良かったのかもしれないが、メンバー構成的に見てもなかなか試合の中でプランを変えられるような状況ではなかったのは間違いない。上手く行かないながらも律儀に当初のプラン通り、前からのプレッシャーを継続し、攻めの人数を増やしてきた町田に対して裏返すような縦に速い展開を増やしたことによって、選手交代で強度を保てる町田にとって好都合な行ったり来たりのオープンな展開になっていった。

 それでも良くない流れならば良くない流れなりに、自陣ゴール前で町田のボールホルダーに対して寄せることでコースを限定させたり、身体を張ってシュートブロックをしたりすることで失点を防ぎ、少ない攻撃機会で川本や途中出場の宮崎幾が決定的なシュートシーンを作るなど、勝つか負けるかの五分五分の展開に持ち込むことはできていた。しかし、終了間際の90分、金山のゴールキックからバランスを崩して高い位置で相手を掴まえようとしたスペースを裏返されての形で右サイドからボールを運ばれると、クロスのこぼれたところに詰めていた長谷川に決められて町田に勝ち越しを許す。その後はスコアが動くことはなく、試合は1-2で町田が勝利した。

雑感

 平均年齢の若いチームがしっかりと自分たちの色を出して勝負できていたのは本当に良かった。悪いなりに粘ろうとしていた後半の振る舞いについても、チームとして崩れそうで崩れない(最後は崩れちゃったけど)意志を見せてくれたのでその点については非常に良かったと思う。状態の良い町田相手に見応えのある試合展開を作れたのは大きな収穫と言って良いのではないだろうか。

試合情報・ハイライト





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