橋を渡ったホーム最終戦~J2第38節 ファジアーノ岡山 VS アビスパ福岡~

スタメン

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ミドルゾーンのどつき合い、優位に立てない攻撃

 試合の立ち上がり、岡山は右サイドからイヨンジェや斎藤を走らせるボールを使って奇襲のような形で攻め込んでいく。福岡は前半も後半ともに、序盤は特にリスクを冒さないセーフティなプレー選択(⇒最終ラインに出された際どいボールに対してタッチラインの外に蹴り出す選択)をすることが多いので、岡山としては前線へのボールがクリーンに通らなくてもそこから得たスローインを使って敵陣深くにボールを運んでいくことを考えているようであった。そんな岡山の奇襲は立ち上がりの5分ほどまで。福岡がこれをやり過ごすと試合は落ち着き、試合は似たようなタイプ同士のにらみ合いに移行するようになっていく。

 似たタイプと書いたようにお互いにシステムが4-4-2で噛み合い、なおかつ前線を目がけたダイレクトなロングボールを蹴ることをあまりいとわないチーム同士ということで、試合としては「ロングボールを蹴る→競り合う→セカンドボールの落下点での局地戦」というシーンが繰り返し見られるようになる。そうなると特にミドルゾーンでの岡山の上田とパウリーニョ、福岡の前と重廣のCHのポジションでは否応なしにセカンドボールの優先権を争う肉弾戦は避けられず、そこにSHがボールサイドに絞ってきてのフォローだったり、前線のプレスバックだったり、最終ラインの押し上げだったりでどこまでミドルゾーンでの奪い合いに厚みを持たせることができるか、ということがポイントになっていたと思う。

 その点(⇒ミドルゾーンでのセカンドボールをめぐる攻防)で見ると、岡山は完全に優勢だったわけではないが少なくとも五分以上で試合を進めることはできていた。特に最終ラインの田中と濱田は、ミドルゾーンでの厚みを作ってセカンドボールをより回収できるようにするために、全体のラインを押し上げてプレーしようとする狙いがうかがえるようなポジショニングが見られていた。

 ミドルゾーン付近でのセカンドボールの回収に成功した後の岡山の攻めの狙いは主に2つ。1つはセカンドボールを回収してから早いタイミングでイヨンジェを走らせる長いレンジのボール。具体的にはイヨンジェと福岡の最終ライン、特にCBの上島もしくはグティエレスとの走り合いに持ち込むようなボールを入れること。もう1つは、一度CB-CH間でボールが落ち着いたとき、SBの徳元と下口から同一サイドに上門や斎藤を走らせるボールを入れて、サイドの深い位置で起点を作ることであった。どちらの狙いの攻めも、前半は主に右サイドからのボールになることが多かった。岡山の左サイド、言い換えれば福岡の右サイドになるサロモンソンや上島のサイドから攻めるよりは、逆サイドの湯澤やグティエレスのサイドから攻めた方が上手く行くと考えたからだろう。

 前者の攻撃、スクランブル気味にイヨンジェを走らせる形は、ペナ外に飛び出したセランテスのキックが怪しいところを再度回収するシーンがあったように、何度かボールが上手くイヨンジェに通ればというようなシーンを作ることはできていた。しかし後者の攻撃に関しては、発射点となる下口や徳元がボールを持ったときにはマッチアップする田邊や福満が既に寄せていることが多く、蹴り出そうとしても相手に引っ掛かってしまうので、上手くサイドを走らせることに成功したシーンは数少なかった。

 サイドで追い込まれる形が多くなる岡山だが、徳元や下口は何とか奪われることは避けてバックパスをすると、そこから再びCB-CH間にポープが加わるような形で後方でボールを持つことになる。後方でボールを持ったときの岡山は4-4-2のブロックを敷いて中央を固める福岡に対して、有効な策を見つけることはあまりできていなかった。SBが低い位置を取ってそこから福岡の第一ラインと第二ライン間だったり、第二ラインと最終ライン間だったりにボールを入れて上田や赤嶺、斎藤あたりで起点を作ろうとするのだが、そこに入るボールに対しては福岡がしっかりとプレッシャーをかけてケアをしているので、岡山は狙いとするエリアで起点を作ることができずに、不確定要素の強い攻めになってしまっていた。福岡のプレッシャーに屈して仕方なくボールを蹴り出すことが多くなってきた岡山は、福岡にボールを回収される回数も徐々に増えていくことになった。

効率よく攻め込んでくる福岡

 福岡がボールを持ったときの攻撃は、岡山と比較しても後ろから運んでいくような色気をほとんど出さずに、前線のファンマや山岸がサイドに流れる形からダイレクトな展開で組み立てていくようにしていた。岡山としてはロングボールのターゲットになるファンマや山岸がボールを受けてキープに入れば、競り合ったところで粘って時間をかけて攻撃を遅らせるようにできるのだが、福岡が厄介だったのは前線の選手がボールをダイレクトで散らすようなプレー(⇒フリックに近いプレー)をしてきたこと。そのプレーにボールサイドのSH(福満や田邊)やSB(サロモンソンや湯澤)が飛び出すことで一気に前進させることができていた。

 福岡のダイレクトな組み立てに対して岡山は、4-4-2のブロックを下げて対応するというよりは最終ラインができるだけ高い位置で跳ね返す狙いを示していた。ロングボールの落下地点で決着をつけようとする守り方だが、このやり方は最終ラインの濱田や田中が跳ね返すことができたときは良かったのが、福岡の選手に先に触られたときにはカウンターを受けた時のように全体が一気にひっくり返される形でボールを運ばれることが多かった。

 福岡は回数自体は少なかったものの、ファンマと山岸を起点にボールを前進できたときには高確率で岡山のゴール前まで運ぶことができていた前半であった。自陣深くに運ばれたときの岡山はCKを中心にサロモンソンのキックからセットプレーが多くなっていたが、ポープを中心に福岡の選手よりも先に触ることを徹底しており、セットプレーからの危ない場面はそこまで作らせてはいなかった。前半は0-0で折り返すことになった。

打ち消したジンクス、流れを手放した交代選手

 前半の立ち上がりと同様に、後半の立ち上がりも岡山が押し気味に試合を進めていく。前半の途中(35分あたり)から主にセットプレー、特にスローインでの流れで、ボールを受けようとする選手(主にイヨンジェ)の前に赤嶺が入ってきて福岡の選手を引き付け、赤嶺がスルーする形でイヨンジェだったり別の選手だったりがある程度福岡のプレッシャーから逃れる形で前を向く展開を作れるようになっていたのだが、左サイドのスローインからの展開で斎藤が枠に向かったシュートを打つなど、前半よりも福岡のゴール前に迫ることのできる後半の立ち上がりとなっていた。

    しかし先制したのは福岡。前述した斎藤のシュートから程なくしての53分、今度は福岡の左サイドのスローインから。重廣の縦パスを山岸がフリックして田邊にボールが渡る。そのボールを田邊がワンタッチで山岸に落としてゴール前のファンマに折り返す。ファンマがワンタッチで落とした先には縦パスを発信した重廣がゴール前に走り込んでおり、そのままダイレクトで打ったシュートがゴールイン。それまでのプレーの毛色とは違うが、ワンサイドで少ないタッチを駆使して一気にゴール前までボールを運んでいくというのは、福岡が前半から狙っていた攻撃。岡山としては下口が縦パスを潰し切れずに遅れ気味に田邊にアプローチしてしまったことで、かえって山岸を走らせるスペースを与えてしまう格好となってしまった。

    それでも岡山も、福岡の先制点のほぼ直後と言っていいタイミングで同点に追い付くことに成功する。58分、上田の左CKからこぼれ球を斎藤がシュート。このシュートはセランテスが正面で弾くのだが、弾いた先にいたのはイヨンジェ。頭で押し込んで岡山が1-1のタイスコアに。岡山としては、対長谷部監督のチームから、7試合目にして初めての得点となった。

    後半になってからの岡山は、福岡が少し攻守のバランスを前傾よりにしたからなのか、単純に寄せが遅れてきたからなのかはイマイチ分からないが、前半にはあまりできていなかった福岡の4-4-2のブロックの中間でボールを受けて起点になろうとするプレーを行えるようになっていた。前半はボールを受けようとしても中盤や最終ラインに潰されていたエリア、福岡の第一ラインの背後で上田やパウリーニョ、途中出場の白井がボールを受けたり、福岡の最終ラインの前で赤嶺やイヨンジェあたりがボールを受けたりすることが前半と比べてできるようになった。これによってSBの徳元や下口が高い位置を取ることができるようになり、サイドからクロスを上げたり、内側にパスを入れてそこから斎藤や上門あたりが仕掛けたりする形を増やしていこうとしていた。押し込む展開を形作ることができるようになったことで、ペナ内に侵入する人数も増えて、相手に与える圧力の高い攻撃は前半と比べて明らかに増えたと言える。

   後半になって押し込める展開が作れるようになっていたからこそ、岡山にとって勿体無かったのが、ベンチから投入された選手の差だったと言える。上田に代わって入った白井はボールを引き出す動きやきちんとボールを捌く動きでさすがの存在感であったが、赤嶺に代わった清水であったり、イヨンジェに代わった山本だったり、パウリーニョに代わった関戸だったりは、「そこでボールを収めてほしい」というところでボールロストを繰り返してしまっていた。後半になってできていた流れが選手交代によって徐々に減退していった岡山に対して、福岡は選手交代と時間とともにオープンになっていく試合展開で岡山のゴール前に迫る動きを増やしていった。特に遠野や増山あたりはスピードに加えて馬力のある動きで、カウンター気味の攻撃から何度も岡山の最終ラインに仕掛けていた。

    岡山にとっては殴り合いのような展開から押し切られた栃木戦が若干よぎる試合展開だったが、ペナ内、バイタルエリアでとにかく身体を張ってかき出したり、相手より先にボールに触ったりすることを徹底することで、同じ過ちは繰り返さなかった。福岡が栃木のように中央を攻める手筋を繰り出すのではなく、サイドからの攻め筋に徹してくれたのも助かった部分ではある。試合はそのまま1-1の引き分けで終了した。

総括

・福岡としては、特にボールサイドでは縦横のスライドを多用して前から捕まえに動く岡山の守備の特徴を逆用して、サイドに人数をかける攻めとロングボールに対してターゲットがボールを受けると見せかけてのワンタッチで流すプレーを併用してきたのかなと思う。実際岡山は、重廣の先制点のシーンを筆頭に、一度パターンに入った福岡のサイドでの崩しに対しては最後まで有効な捕まえる手段を見いだすことはできていなかった。終盤のオープンな展開は致し方ないとして、そういう意味でも、CHの前寛や重廣にミドルゾーンでセカンドボールを支配されて、そこから連続的に福岡の攻撃を許す展開に持ち込ませなかったのは岡山にとっては大きかった気がする。

・岡山は90分間、試合を通してミドルゾーンでのセカンドボールをめぐる攻防で福岡よりも先にボールに触る、福岡の選手に前を向かせないように寄せるプレーを中盤の選手、特にパウリーニョが中心となって意識的に行うことで、試合としてはある程度岡山の想定していたような展開(⇒ミドルゾーンでのプレッシャーのかけ合いに持ち込んで福岡を消耗させ、徐々にできてきたスペースを利用して押し込む流れを作る)で運ぶことができていたと思う。先に取られたのは痛恨と言える展開ではあったが、その直後と言える時間帯でイヨンジェのゴールで追い付き、実質タイスコアが続いた状態にできた、想定する展開から大きく外れる状態にならなかったのも大きかったのではないだろうか。

・だからこそ足りない、大きな不満と感じるのが、個人レベルでのボールを持ったときの技量の問題。それは対面の相手を剥がす力の不足とか、キックのレンジの不足とかではなく(⇒もちろんそこの問題も今後この路線を進めていけば確実に当たる壁になるのだが)、ここで言いたいのは「相手がプレッシャーにきたときのショートパスの精度」であったり、「そのパスを受けたときのボールコントロール」であったりする、前述した技量の前にある問題。プレッシャーを受けるとパスがズレ、そのズレたパスをコントロールできずに、ボールを持って落ち着かせるはずがこれらの連鎖から全くボールが落ち着かずに不確定要素の強い攻めになってしまうというのは、この試合だけでなく今季は特に目立つ印象である。昨季に比べて絶対評価では下手になっているとは思えないので、J2全体の強度が上がっている中で相対的に上手くなっていないということなのかなと思う。正直この連戦下なので、なかなか技量の向上というのは難しいところではあるのだが・・・。

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