初日~J2第10節 ファジアーノ岡山 VS ギラヴァンツ北九州~
スタメン
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北九州の呼吸を許さない岡山のプレス
未だ未勝利のホームシティライトスタジアムはピッチを縦断する形で強風が吹いていた。岡山としては2試合続けて風を無視できない、風の影響を考えてプレーしないといけなくなったのだが、岡山は前節の群馬戦と同様に、前半に追い風のエンドを取って試合を進めていくことになった。ここで、前半に追い風のエンドを取って戦うことについて少し考えてみる。追い風というのは心理的に前に前に行きやすいというのがあって、岡山としては序盤から前に行く姿勢を見せることで相手に主導権を渡したくないんだろうなと推測できそうである。サッカーというは90分あって、しかも体力的に落ちる後半にスコアが動きやすいスポーツであることを考えたら、前半は向かい風のエンドで試合を動かさないで、後半に追い風のエンドを取って攻めるというのが合理的な気がするが、岡山だけでなくどこのチームもそういう選択はあまりしないというのはなかなか面白いなと思う。閑話休題。
試合の流れ、展開に影響を与えかねないような風の吹き方ではあったものの、試合としては後方からボールを保持して前進させていきたい北九州と、その北九州のビルドアップをできるだけ高い位置で捕まえていきたい岡山という、戦前に予想される構図で始まっていくこととなっていった。前半の北九州のビルドアップは、CBの村松と河野からボールを運んでいこうとしており、GKの吉丸の関与はあまり多くなかった。このとき中盤の針谷だったり永野だったりが列を下りて3バックを作る形は前半はあまり見せず、それよりはSBの乾や生駒が下がってボールを引き取るような形が多かった。小林監督としては、向かい風ということを考慮して、あまりポジションの可変をしたくなかったというのがあったのかもしれない。
北九州のボールを保持しての攻撃の狙いとしては、岡山の第二ラインと最終ラインの間(⇒内側~中央のエリアが望ましい)で2列目の選手(高橋、前川、野口)が後方からの縦パスを受ける形をスイッチに、レイオフやワンツー、ドリブルを使っての中の打開と、横幅の高い位置を取るSBへの展開を組み合わせて、中と外を意識させて相手の守備ブロックのスペースを広げてを攻撃していく、いわゆるポジショナルプレーというやつである。これを上手く成立させるには、北九州のビルドアップ隊がしっかりと2列目にボールを届ける必要があり、相手チームとしてはビルドアップ隊を妨害するか、2列目の受け手を潰すか、2つの選択肢があると言って良い。前半の岡山が選んだのは前者、北九州のビルドアップ隊を妨害する、出し手を潰しに行くやり方であった。
CBの村松と河野から始まる北九州のビルドアップに対して岡山は、第一ラインの山本の動きをスイッチに高い位置からの縦へのプレッシャーを発動させる。山本は自分の背中のスペースを消しつつ、相手ボールホルダーの方向を制限させるような寄せ方ができるので、第一ラインからのプレッシャーを連動させるのにうってつけな存在であると言える。こうして北九州のボールの動きをどちらのサイドに追い込んでいくのか、グループとしての共通理解を得た岡山の選手たちは、山本のファーストチェックに呼応する形で第一ラインの相方である川本、SHの上門や木村がプレッシャーの二の矢、三の矢を飛ばしていく。特に前半は、ここのプレッシャーの強度、粘りが非常に良かった。ボールを受けた北九州の選手をヘッドダウンさせる(⇒遠くを見せないで、近場でのパスを余儀無くさせる)ような速いプレッシャーをかけて、ドリブルで剥がそうとしても簡単に剥がされないようにプレッシャーに行くことができていた。
後方での北九州の時間と余裕を奪うことができた岡山。北九州としてはそれでもCHの針谷や永野、列を下りてきた前川あたりがボールを引き出して展開しようとするのだが、ここまでの第一ラインとSHによるプレッシャーで十分に方向を限定できている岡山は、CHの白井と疋田、またボールサイドのSB(徳元や河野)が後ろから強く当たりに向かうことができるので北九州にミドルゾーンからの展開を許さない。ミドルゾーンでも北九州の時間を奪うことに成功した岡山は、さらに第一ラインとSHのプレスバックで挟み込むような形から北九州の中盤でボールを奪い、高い位置でマイボールにする展開を作ることができていた。
岡山の縦へのプレッシャーでなかなかボール保持で時間を作ることができない、運ぶこともままならない北九州。前線の富山へのロングボールでプレッシャーを回避しようにも、強い向かい風の中では蹴ったボールが押し戻されることになってしまってなかなか有効な形とはならなかった。北九州の前に蹴ったボール、無理に出したような縦パスに対して岡山は、CBの井上が積極的に縦に行って潰しに向かい、濱田がカバーする形を取ることが多かった。岡山の最終ラインはボールが押し戻されることを認識してか、かなり強気の最終ラインの設定をしていた。それでも自分たちのエラーで北九州に背後のスペースを与えることはほとんどなく、これもまた第一ラインからのプレッシャーを強めさせる要素となっていた。
この試合の特に前半、岡山が北九州に対して前からプレッシャーをかけに行く一連の流れが良かったと言えるのは次の二点から。一つは、第一ラインから高い位置で追っていく中で4-4-2の3ラインがバラけず間延びせずに縦横にコンパクトな形をある程度保てていたという点。もう一つは、北九州から意図通りにボールを奪えたときに、そこからの攻撃のスタートとなるべきSHの上門と木村が前を向く形を作れていたという点である。特に後者ができていたのは大きく、敵陣でボールを引っ掛けた木村がそのまま運んでシュートに持っていったシーンは、まさに今のチームの目論見の一つが可視化されたシーンだったのではないだろうか。
サイドから運ぶ形に光明が見えた岡山
北九州に意図した試合運びをさせないことができていた岡山。そうなると必然的に自分たちがボールを持つ時間も生まれてくるのだが、ボールを持ったときの岡山のファーストチョイスは、水戸戦や群馬戦のような相手SBの背後を狙う縦のボールであった。群馬戦と違ったのはボールを落とすエリアの明確さと、それに伴った前線の山本や川本のアクションの鋭さであった。前者については後述するとして後者については、後ろからボールが出てきたからではなく、完全に意識的にサイドに流れる動きを起こすことで、大外のエリアから起点を作って北九州の最終ラインを押し下げようとしていた。特に山本は、もっぱら大外でのポストプレーヤーかと言わんばかりのサイド(特に右サイド)に流れての身体の張りぶりであった。
前線がサイドに流れたところにボールを運ぶことで一度敵陣で起点を作ろうとする岡山。ここで発信基地となる長いボールを蹴るのはCBの濱田や井上、そしてGKの金山であることが多かったのだが、縦に、そしてサイドの深い位置にボールを運ぶことを第一優先としながらも、ノータイムで前に蹴り出すことが非常に多かった群馬戦とは違って、とにかく前に蹴るというのではなく、前線の選手、特に山本の動きを見てその動きからボールを落とすエリアを決めてボールを蹴ることを意図しているように見えた。どのエリアにボールを運んでいくのかをある程度認識できていると、前線のターゲットだけでなく、そこからボールを受けようとする選手も意図を持って動くことができる。前半の岡山は、山本のサイドで奥行きを作って起点となる動きに合わせて後ろの選手がサイドでボールを受けたり、北九州に弾かれてもそのセカンドボールを回収したりすることができていた。
山本の起点から、サイドでボールを運んでいこうとしていた岡山。特に右サイドが出発点になることが多かったのだが、大外のエリアで密集しがちな中で右SHの上門と山本の一列下に下りる形を取っていた川本がボールを失うことなく時間を作ることで、河野の攻め上がりだったり、白井の飛び出しだったりを促すことができていた。ボールを持ってキープなり運ぶなりできていたという意味では、左SHの木村も同様の働きをこなしていた。特に川本はボールを受けたときに北九州の選手が複数いる中でもバタバタすることなく前を向いてそこからパスを散らすような、落ち着きのあるプレーが随所に見られていた。右サイドが詰まったらバックパスなりキープなりでもう一度やり直すようにしていたのだが、その点では上門が(特にミドルゾーンで)意図的にボールを落ち着けようとしていたのが印象的であった。
群馬戦では意図的ではなく単発的に映った左サイドからの攻撃が、木村や徳元のドリブルやランニングでの攻撃参加として、右サイドで時間を作った中で左サイドで仕留めるというような、一つの狙いとして映るようなシーンがこの試合ではいくつか見られていたのは良かった。先制点となった木村のJリーグ初ゴールも、右サイドで時間を作った中で左の木村と徳元がペナ内に侵入しての形であった。
①右サイドで川本が一度ボールを落ち着けて、上門と河野の動きを整理する
②河野から右サイドの奥を取った山本に縦パス、そこから河野は内側を走る
③山本がキープして、内側からペナ角の奥を取った河野にパス
④河野の折り返しに左サイドから走り込んだ木村がニアで合わせてゴール
得点の取り方としても、そこに至る形としても、今後の岡山の参考になる、いや絶対に参考にしないといけない、そんなゴールであった。
局面を変えた5バックシフト
攻撃の形を作ることができなかった前半の北九州は、後半開始から本村と新垣を投入し、CHに高橋が入る形に変更する。後半の北九州は選手の並びだけでなくビルドアップの形も修正を加えるようになり、針谷がハッキリと最終ラインに下りて3バックを形成、中盤で高橋が岡山の第一ラインの背後にポジショニングする形を取るようになった。3バックになったこと、狭いエリアでボールを受けてもキープできる高橋が中盤に入ったことで、岡山の第一ラインからのプレッシャーを牽制することに成功した北九州は、特に高橋発信のパスから、2列目のレシーバー(永野、前川、新垣)が縦パスを受けてそこからのターンからのドリブルによる中央打開、一度中に岡山の守備を引き付けてから大外を取ったSBに展開してのサイド攻撃と、前半と打って変わって北九州の狙いとするボール保持攻撃を展開するようになっていった。
4-4-2のままで何とか第一ラインからのプレッシャーを維持していきたかった岡山であったが、前から行こうとすれば針谷や高橋のところで外され、受け手にチェックに行こうとすれば後手に回って剥がされる展開となっており、スペースを埋めることも困難になっていた。ここで有馬監督は川本に代えて阿部を投入。残り30分以上残っている中で、濱田、井上、阿部の3CBとなる3-4-2-1(守備時5-4-1)にシステム変更を図った。このシステム変更について、最初は全体のライン、5-4-1のブロックを下げて守ることが狙いなのかなと思ったが、実際は北九州の受け手を潰すための狙いであった。
岡山の5バックシフトは第一ラインからのプレッシャーの開始地点を4-4-2のときよりも下げることになるのだが、その代わりに前の5枚(第一ラインの山本、SHとなる上門と木村、CHの白井と疋田)で北九州の3バックから高橋への展開を制限。また、ボールを受けようとする北九州の2列目の選手に対しては5バックの選手がポジションを上げて迎撃に向かうようにしていた。右サイドCBに入った阿部はこの迎撃の役割をイキイキとこなしているようであった。岡山の最終ラインの迎撃で、北九州の2列目の選手に前を向かせないで北九州の攻撃をスローダウンさせると、前の5枚のプレスバックで北九州のボールホルダーを複数で囲んでボールを奪う、というのが一連の狙いであったと思う。第二ラインの4枚、特に高橋へのパスを警戒しながら北九州の3バックにチェックをかけつつ、プレスバックで北九州のレシーバーにプレッシャーに向かうというSHの上門と木村のタスクは非常に重要で、この2人はそのタスクをしっかりとこなしていた。
大外、内側、中央の5レーンを使って攻撃する北九州の攻撃のやり方に対して、岡山は5バックにすることでまず5レーンを埋める、そこから迎撃に向かうことができるこのシステム変更がある程度ハマる形になった。ただ岡山のシステム変更は中央の守りを固める5バックというよりは、レシーバーへの迎撃を狙った5バックであったので、この迎撃が外されたときには食いついたことでスペースを与えてしまって北九州に中央を割られるようなシーンが散見されたのは間違いない。ただそれでも、そのまま4-4-2のままで凌ぐよりは、主導権を相手に渡さないという意味でも遥かにマシな選択だったと思う。
5バックシフトで北九州の攻撃をある程度止めることに成功した岡山。後半のマイボールで時間を作っていたのは左サイドの木村と徳元であった。70分から80分あたりの時間帯、個人でキープができるこの2枚を中心に敵陣でボールを持つ時間を作れていたのは、最終盤を凌ぐのに非常に大きなプレーであった。この時間帯、セットプレーの流れで生まれた上門や白井の決定機を決め切れていれば最高の試合運びだったと思う。
80分を過ぎての残り時間は流石に5バックが迎撃に向かうというよりは、単純にゴール前で中央を固める守り方にシフトした岡山。北九州のシュートに対して最終ラインの選手がしっかりと正面に立って守ることができていたので金山を焦らせるようなシーンはほとんどなく、1-0のスコアを守り切ることに成功した岡山。これで岡山は2021年ホーム初勝利となった。
雑感
勝負の常道である、相手の嫌がることをやる、それをやり切る姿勢が見えたことが何より良かったと思う。
大卒ルーキーに対してあまりに期待値を上げすぎるのは良くない。良くないのだけれども、10試合目にしてここまでの伸び率を示した選手に対して期待をしないのも間違っている気がする。ここまで来たら「夏の引き抜きを心配されるレベル」にまで突き抜けていってほしい。