若人たちの焦燥~J2第15節 ファジアーノ岡山 VS Vファーレン長崎~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

画像1

前からの守備は機能していた岡山

 開幕当初の監督であった吉田孝行氏が解任され、2試合前の北九州戦から長崎の指揮を執っているのは、日本サッカー界屈指のゾーンディフェンスマイスターである松田浩氏。「人を中心にした」マンツーマンディフェンスではなく、全体のブロックをひとまとまりにして「ボールを中心にした」守備というのが松田監督の言うところのゾーンディフェンス。北九州戦、そして前節の千葉戦を見たところ、2試合にしてゾーンディフェンスにおけるディシプリン(⇒チームとして守らなければならない規律)はかなりチームに叩き込まれている印象を受けた。攻撃の作り、そして得点するというところに難のある現在の岡山がどうやってこの守備から得点の機会を見出だすのか、この試合の最大のポイントはそこになるのだが、その前に主に前半の長崎のボール保持攻撃に対する岡山の振る舞いについて見ていきたい。

 ボールを持ったときの長崎は、基本的にオリジナルフォーメーションとなる4-4-2をあまり動かしてきていなかった。CHのカイオセザールと加藤が最終ラインに列を下りる動きはほとんど見られず、最終ラインの4枚で横にボールを動かしつつ、SBの米田や毎熊からのダウンザラインの縦パス、またはCBの江川や新里から前線の都倉やエジガルジュニオを狙ったロングボールというのが主なボールの前進手段となっていた。昨季の手倉森氏の体制や開幕当初の吉田氏の体制ではCHが積極的に列を下りる動きを起こしてボールを引き取り、そこから前進させようとしていたのだが、松田監督のチームではそういったのはあまり求められていないようである。それよりはミドルゾーンでのセカンドボールの回収だったり、機を見て高い位置に飛び出したりするタスクを求められている感じであった。

 このように長崎のビルドアップが中央(⇒CHの比重が高い)を経由することをあまり優先しておらず、外→外のボールの動きが中心だったこと(⇒プレス耐性の非常に高いカイオセザールがボール保持時にあまり顔を出して来なかったこと)を差し引いても、試合開始から立ち上がりの20分の岡山の第一ラインからの守備、プレッシャーのかけ方と連動は非常にアグレッシブで良かったと思う。積極的に行ったことだけが良かったのではなく、高い位置からプレッシャーを仕掛けてきちんとボールを回収できていたことが良かった。

 後方でボールを持つ長崎のCBに対して、岡山は第一ラインの山本と川本がいつも通り段差を付けて(⇒自分の背後にポジショニングしている相手のCHをチェックするため。横並びで行くと外されたときにボールを前に付けられるリスクが非常に高い)、相手ボールホルダーをサイドに向かせるようにプレッシャーに向かう。狙い通りにサイド(⇒SBにボールが渡ることが多い)にボールが出れば、ボールサイドのSH(上門か木村)が最初のプレッシャーに連動する形でスライドする。ここまで行けば後はボールサイドのSB(河野か徳元)の縦スライド、CH(白井と疋田)の横スライドで長崎の近場を抑えてパスミスを誘う形や、縦に蹴らせて最終ラインで回収する形に繋げることができる。岡山としてはやや懸念された岡山のCB(井上と阿部)と長崎の前線とのマッチアップであったが、特に高い位置からのプレッシャーがかかって前向きに守ることができているときには簡単に裏返されるということもほとんどなく守ることができていた。

 前述した立ち上がりの20分は特に顕著であったのだが、この試合の岡山は4-4-2でセットしたときのSHの立ち位置がなかなか面白かったように思う。当然自分たちのブロックの高さにもよることなのだが、最初からCHと同じ高さで構えるのではなく、やや上がり目の高さ(⇒完全に第一ラインと同じ高さというわけでもない)を取ることで、第一ラインの脇のスペースからのボールの持ち出しを警戒しつつ、「サイドにボールが出たらいつでも行きますよ」というような姿勢を長崎のビルドアップに対して見せることができていた。中盤に目掛けた江川の縦パスを上門がカットしたシーンがあったが、これはまさにSHのポジショニングが上手く効いたシーンだったと思う。またSHが敢えてスペースを開けることで相手にそのスペースにボールを出させて、白井や疋田がパスカットしたり、山本や川本のプレスバックでボールを引っ掛けたりするのも狙っていたように思う。

 20分を過ぎるとさすがに体力面も考慮してか(⇒この日の最高気温は29度だったとか)、岡山の第一ラインからのプレッシャーが落ち着くようになる。そうなると岡山は4-4-2でセットして中央を閉じることを優先するのだが、外→外の循環でボールを運んでいこうとする長崎にとってはあまり難しい展開にはなっていなかったと思う。SBからの縦パスを受けたSHの澤田やウェリントンハットは、カットインからのシュートやクロスを入れるだけでなく、一度時間を作ってのSBやCHのオーバーラップを促すこともしていた。岡山は中央を固めていた分、マークさえ外されなければそれだけで決定的なシーンになるわけではなかったが、どうしてもサイドからボールを運ばれる形になるのでその分長崎にCKを与えてしまうシーンは目立つようになっていた。そんな長崎のCKはもれなくほとんど決定機になってしまっていた。CKの流れから、阿部が都倉をペナ内で倒してしまったシーンはPKでもおかしくなかったと思う。

 長崎の前線の都倉とエジガルジュニオは、長崎がボールを持っているときはそこまで目立つ感じでもなかった(⇒都倉が最前線でデコイのようになって、その周囲でエジガルジュニオがボールを収めて起点を作る形は見られていた)が、カウンターからの流れでは岡山のCBに大いに脅威を与えていた。特にエジガルジュニオは、ボールを奪い取ろう、カウンターを阻止しようと身体をぶつけに来る阿部に対して腕を使ったドリブルで相手の力を逆に自分がボールを持ち運ぶ力に使って前進させていた。カウンターとは少し違うが、37分の澤田の先制点に繋がったエジガルジュニオのドリブルも阿部との1対1でマイボールにしたところが都倉に渡って左足シュート、徳元のシュートブロックのこぼれ球を澤田が詰めた形であった。確かに阿部にとってはこのシーンはアンラッキーだったかもしれない。だが、前線とのマッチアップになった際に素直に当たりに行って結果として危うい対応(⇒手の使い方や死に体になってしまうタックルなど)がいくつか見られていたのも事実。試合全体を通してみると井上との連携を含めて上手く守れているシーンは多かったので、伸びしろとして捉えたい。

敵陣で起点ができないのは誰の問題?

 ここからは長崎の4-4-2ゾーンディフェンスに対する岡山のボール保持に関して見ていく。まず長崎の4-4-2は、岡山のように第一ラインから積極的に相手ボールホルダーにプレッシャーをかけに行くわけではない(当然、体勢の悪い状況でバックパスをしたら詰めに出ることはする)。まずは4-4-2の3ラインを形成し、縦横のコンパクトを維持する、中央のエリアを閉じて岡山のボールを迂回させることが最優先となっていた。吉田氏の体制とは違う守備の規律を仕込むためにまずは4-4-2の形から仕込ませるという事情もあるのだろうし、長崎の第一ラインが都倉とエジガルジュニオという、積極的に相手を追い回すのに向いているタイプではないためという理由もあると推測する。

 中央を動かさない長崎の守備に対してボールを持ったときの岡山が最初に行ったのは、前線の山本や川本を長崎の最終ラインの背後に走らせるような長いボールを入れることであった。前述したように長崎は第一ラインから積極的にプレッシャーをかけてきたわけではないので、後方でボールを持つ井上と阿部には、長崎の第一ラインの脇のスペースに白井が下りてボールを引き出していたこともあって比較的時間とスペースの余裕は与えられていたのだが、最初からゆったりとしたボール保持を行うのではなくまずは縦に速い展開から試合を進めていこうとしているようだった。この展開がメインとなっていたのは高い位置からのプレッシャーを積極的にかけていた時間帯とも重なるので、前線がボールを失ってもすぐに後方からプレッシャーに行くことができるという側面もあったのだろう。

 ボールを持ったときの岡山は縦への長いボールだけではなく、横というか対角への大きな展開も意識しているようであった。縦に速く攻めきれない、ボールを出すスペースが消されてしまっている場合は一度CBやCHがボールを引き取って、そこからの逆サイドへの展開を狙っていた。ミドルゾーン付近のサイドエリアでボールが詰まってしまったとき、ここでは長崎はかなり強めのプレッシャーに向かうのだが、ここでSHの上門や木村が簡単にボールを失わずにキープすることができていたので、逆サイドに展開し直す時間を作ることができていた。長崎のCH(カイオセザールと加藤)がなかなか中央から動かないので、それならば前線を走らせるロングボールで最終ラインを裏返そう、逆サイドへの大きな展開を入れて横スライドを繰り返させようという岡山の大まかな狙いは理に適ったものではあったと思う。

 岡山のボールの動きを考えると、敵陣に入ってからの起点はどうしても大外にできるようになるし、ボールのレンジが長いので前線の山本や川本がどこかでボールを受けてキープする必要が出てくる(⇒味方がボールを受けるポジションを取る時間を作るため)。起点が上手く出来たときには、そこから上門や木村がボールを受けてからの大外~内側に向かう形での打開かSBが上がってきてのクロスを狙っていく。こういった相手に大外から木村あたりが打開する形が見られれば、1枚ずつ外にズレる展開を目論むこともできるのだが、長崎もさすがにそれはさせまいと毎熊とウェリントンハットが2枚で木村を見る形を取ることで簡単に前に進ませないようにしていた。

 ただ前半の岡山のボール保持の問題は外から進めることがなかなかできていなかったよりも、そもそも敵陣に入ってからの起点を作ることがほとんどできていなかったことにある。特に長崎が外→外でボールを運べるようになってきた前半の中盤以降は、岡山が後方からボールを運びきれずに前に出してしまって前線が孤立した形でボールを受けないといけない状態が多かったことはあるが、それにしても長崎のCB(江川や新里)の寄せを受けてイージーにロストしてしまう、中で持ちきれずに外に出てしまうシーンが目立っていた。イージーなボールロストは、長崎に重量感のあるカウンターを仕掛けさせるスイッチになってしまっていた。ただこれは前線の山本や川本だけの問題ではなく、長崎のカウンタープレスがそこまで激しいものではなかったにも関わらず回収したボールを簡単に前に出していた後方の選手たちの問題でもある。

 前半は澤田のゴールで長崎が1-0で折り返すこととなった。

定石は知っているが決定打が無い岡山

 長崎の先制点以降、試合はボールを持って攻めようとする岡山とそれを受ける長崎という構図が完全に出来上がった。そんな岡山だったが後半のスタートは、相手のプレッシャーがそこまで来ている状況でもないのに変な方向にボールを置いてカットを許したり、逆に相手が迫ってきているのに変にゆっくり持って案の定奪われてしまったり、チーム全体で目も当てられないようなイージーなロストを連発していた。何を浮き足立っていたのかは知らないが、明らかに判断の部分でミスを連発してしまっていたのは間違いない。岡山はこのボールロストから長崎にいくつか決定的に近いカウンターの形を許してしまっていたが、井上と阿部の対応で難を逃れるとどうにか平静を取り戻すようになる。

 後半から、というよりはスコアが動いてからの岡山は、長崎がよりはっきりと中央を動かさないように4-4-2のブロックを形成したこともあってか、徳元と河野を横幅の高いポジションに取らせてボールを前進させようとしていた。長崎が第一ラインから追ってこないこともあって後方からボールを動かしていく岡山はCB-CHの4枚からボールを運んでいこうとするのだが、この4枚からサイドの高い位置を取る徳元や河野に展開する形をスタートに敵陣への攻略を進めていこうとしているようだった。サイドに広げてからの岡山の狙いとしては、シンプルにサイドからクロスを上げるというよりは内側にポジショニングしている前線とSHの4枚に一度パスを入れて起点を作っていこうとしていた。山本に代わって宮崎幾が入ったこともあってか、岡山の前線とSHのポジショニングは内側~中央寄りに4枚が近い距離を取るようになっていた。この選手交代によって上門は川本と前線を組む形になっていた。

 長崎の4-4-2はゾーンディフェンスの基本に非常に忠実なので、いくら中央を優先的に固めていてもサイドにボールが出ればきちんとスライドするし、ミドルゾーンから自陣ではボールサイドにプレッシャーをかけるようにしていた。岡山は長崎の守備が基本に忠実がゆえにプレッシャーに出たときのスライドが間に合わなかった時に発生する内側のスペースを狙っていた感はあって、川本だったり木村だったり、宮崎幾だったりが内側のスペースでボールを受けてそこから前を向く形を何度か作ることはできていた。大外からボールを運び、一度内側にボールを入れることで長崎の守備の目線を外→内側に動かし、再度大外に展開し直すことでよりボールを前進させることができるようになるということだろう。宮崎幾は少し中央に入り過ぎる傾向もあったが、右サイドの内側でボールを受けてそこからドリブルを入れてタメを作って逆サイドに展開する形を作ることができていた。

 飲水タイムを挟んで、疋田→喜山、木村→宮崎智と2枚のカードを切ったのは岡山。ポジショニングでボールを落ち着けられる喜山を完全にアンカーにすることで白井をより前線に飛び出せる形を作り、宮崎智の左SB、徳元の左SHで左サイドを起点にクロスの本数を増やしていく狙いがあったと思われるのだが、特に後者の狙いはなかなか上手く行っているとは言いがたかった。サイドに展開しても詰まってしまって必要のないやり直しを強いられて、中の上げたいタイミングでクロスを上げられず、クロスが上がったとしてもブロックに引っ掛かってしまう場面がよく見られていた。

 クロスを上げる形ができなくても、サイドに展開してそこからセットプレーを増やすことができればまだ良かったのだが、そういうシーンもほとんど作ることができなかった。富澤に阻まれてしまったが、白井のFKから井上が合わせた決定的な形をもっと作り出したかったところ。長崎が必要のないファールをしなかったというのは、岡山が打開を試みる形を作り出せなかったということでもあり、長崎の守備の規律が最後までしっかりと守られていたということでもあったのだろう。

 試合は前半の得点を守りきった長崎が1-0で勝利。松田監督の体制になって3試合負けなし。一方で岡山は2試合続けての無得点試合となってしまった。得点できるときは失点が多く、失点を抑えられているときは得点できない、何とも噛み合わない状態が続く。

雑感

・特に後半、岡山がボールを持ったときに中央を固める長崎の4-4-2を動かしきれなかった理由についていくつか考えてみる。

・一つはCB-CHでのボール出しの問題。長崎の第一ラインの脇にできるスペースがあったにも関わらず、そこを積極的に利用して長崎の第二ライン、いわゆる中盤を縦に引き出す形を作ることができていなかった。中央を固める相手にサイドからボールを運んでいくのは理に適っていて全く問題ないのだが、後方からボールを持つ以上はイージーにサイドに出すのではなくもう少し引き付けて、ズレを作る工夫が欲しいところ。

・もう一つは内側~中央での前線とSH(+CH)のポジショニングの問題。長崎の4-4ブロックの間で受けたいというのは分かるのだが、横並びになってしまっていてあまりにも凹凸が無さ過ぎる印象である。サイドでボールを受けて、いざ斜めにパスを入れようとしても、平面のポジショニングでは何人並んでいても実質意味があるのは一人だけということになってしまう。それならばなかなかボールを入れるという形にはできず、必要のないやり直しをしてしまうということなのだと思う。宮崎幾が長崎の最終ラインの背後に飛び出すオフボールの動きを繰り返していたが、この動きはヒントになるだろう。

・そしてやはり敵陣でボールを受けたとき、そこで相手のプレッシャーを受けたときに安定してキープしきれない、何とかマイボールにできてもバタついてしまってしまうことが多過ぎるという問題である。そこで受け手と出し手のタイミングがズレてしまうという展開になってしまうので、スピードアップしたいところでスピードダウンを強いられる。ラスト1/3の展開がどうしても詰まってしまうのは、チームとしての形の問題以前にこの個人の技量の問題が非常に大きいのではないかと個人的には感じる。形がしっかりしていれば技量が足りなくてもオートマチックにボールを動かせるのでは、ということも否定できないが。

試合情報・ハイライト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?