底はどこにある~J2第41節 ザスパクサツ群馬 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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曖昧なプレッシャーは群馬を利する

 蹴り合い&ミドルゾーンでの奪い合いに終始していた、互いに落ち着きのなかった立ち上がりの10分程度を除いて、岡山にとってはこの試合もともかく上手く行かない前半となってしまった。ボールを持つときも持っていないときも上手く行っていなかったのだが、それぞれの場面で特に問題になっていたことを考えてみようと思う。

 まずは岡山がボールを持たないとき、言い換えれば群馬がボールを持っていたときの岡山の振る舞いについて。岡村と川上で後方からボールを運んでいこうとしていた群馬は、宮阪か岩上のどちらかが最終ラインのヘルプに入ることが多かった。このとき群馬は2枚のCH(宮阪と岩上)が縦関係を取ることになるのだが、岡山は群馬のCHにプレッシャーをかけることができずに展開を許してしまうことが多かった。

そうは言っても第一ラインの山本と斎藤は、群馬の最終ラインでボールを持つときには最後尾の松原にまで追っていくようにしていた。にもかかわらず、なぜ岡山は群馬の中盤にプレッシャーにかけられなかったのか。特に前半、岡山の高い位置からの守備は、どこでボールを奪いたいのか、どのように群馬のボールを制限したいのか、その目的が非常に曖昧だったように思う。群馬が後ろでボールを持つと、岡山はとりあえず第一ラインから追いかけようとするのだが、どこで奪うかの判断基準が曖昧なので、山本と斎藤が2人同時に同じ高さで同じ相手に寄せに行くような、相手にとっては特にストレスにも感じないプレッシャーになってしまっていた。

相手のパスコースを制限できないようなプレッシャーでは、パウリーニョや白井を中心とした中盤の選手もなかなかそのプレッシャーに連動して行くのは難しい。その結果岡山の守備は第一ラインと中盤のスペースが広がってしまい、そこでできたスペースを群馬のCHに利用され、サイドチェンジを飛ばされてしまっていたということである。

 岡山の中盤が第一ラインに連動できなかったのは、前述のように第一ラインのプレッシャーのかけ方の問題も大きかったが、群馬のポジショニングにも原因があった。群馬は、前線の大前が頻繁にミドルゾーンに下りて来る動き、そしてSHの田中や加藤が内側に侵入する動きを増やすことで、ミドルゾーンの中央エリアでの起点を増やそうとしていたのである。狭いエリアでボールを持てる選手が多くなったことで、これによって岡山の中盤4枚は中央エリアの警戒を解くことができなくなり、パウリーニョや白井だけでなくSHの上門や関戸も第一ラインのプレッシャーに合わせて列を上げることが難しくなっていた。多少強引に上門がプレッシャーに向かう場面もあったが、そうなったときには上門の空けたスペースを群馬に使われてしまっていた。

 岡山の曖昧な第一ラインからのプレッシャーによって逆に中央で起点となるスペースを使うことができた群馬。中央で起点を作ったボール保持の出口は横幅で高い位置を取る飯野や舩津への展開が中心。横幅への展開から基本的に2枚(主にSBとSH)のタンデムでサイドをえぐっていくのだが、敵陣での群馬の攻撃は、サイドチェンジのタイミングとそこから2枚でサイド深くを攻略していく形がかなりパターン化されている印象を受けた。相手にかけるプレッシャーがプレッシャーになっていない岡山としては、ハーフラインまで4-4-2のブロックを一旦敷くことをしても良かったと思うのだが、あくまでも第一ラインから追っていくのは止めていなかった。結局ミドルゾーンを明け渡すことが多かったわけで、それならばもう少し第一ラインはプレスバックもしてほしいところであった。

目を背けたくなるような爆弾ゲーム

 岡山がボールを持つとき、群馬の守備は山形ほど第一ラインからのプレッシャーがそこまでキツいわけではなかったので、CBの濱田と阿部、CHのパウリーニョと白井を中心にある程度後ろでボールを持って落ち着かせるようにしていた。GKがここまでフルタイム出場していたポープに代わって金山が入っていたのだが、ポープほど高いポジションを取る訳ではないにせよ、岡山のFPたちは金山に下げてボール保持を行っており、ポープがいたときとそこまでやり方を変えているわけではなかった。

 やり方を変えないのは別に良いのだが、問題だったのは自分たちがボールを持っていたときの振る舞いである。ボールを持っていないときも問題が多かったのだが、前半の岡山がもっと悲惨だったのは、自分たちがボールを持っているときであった。ピッチ状態がそこまで良くなかったというのもあるのだろうが、ボールを持ったときにまだそこまで相手が寄せてきているわけでもないのに、慌てたように近くの味方にパスする、というよりはボールを自分以外の誰かに押し付けるようにしか見えなかった振る舞いはさながら、自分のところで爆発だけはしてほしくないと願う爆弾ゲームのようであった。

 ボールを持ったときの濱田と阿部、そしてバックパスを受けた金山は群馬の第一ラインである大前と青木のプレッシャーが来る前から早くボールを離してしまうので、岡山は結果として群馬の守備ブロックを動かすことができずに、4-4-2のブロックの前でボールを動かすことしかできていなかった。ボールを前に進めることができずに手詰まりになって苦し紛れに近くの選手にボールを渡すと、それが群馬のプレッシャーのスイッチとなってしまい、それが苦し紛れのパスの連鎖を生むことになってしまっていた。無理やり前に出したボールでは、前線の山本と斎藤との意図が上手く繋がらずにパスの手前で群馬にカットされたり、空中戦では準備の整った岡村や川上に跳ね返されてセカンドボールを回収されてしまったりしていた。

    群馬の先制点は、まさにそんな岡山の爆弾ゲームのようなボール保持から生まれた得点であった。サイドに広げるも、そこから前に起点を作れずに苦し紛れのバックパスが金山まで渡った結果、金山がパスミス。金山のパスをカットした田中から大前、大外を走った加藤のクロスにファーサイドで青木が頭で合わせたゴールだった。

 最終ラインからなんとか中盤のパウリーニョや白井に預けて、そこからサイドの徳元や下口に展開する形を作ったとしても、今度は前線やSHの選手が前にボールを運ぶためのポジションを取る準備、具体的には群馬の4-4-2のブロック間でボールを受ける体制ができておらず、群馬のボールサイドへのスライドが間に合ってサイドで手詰まりになって結局後ろに戻すという流れになってしまっていた。群馬のボール保持が一度中央で起点を作ることができていた、しようとしていたのに対して、岡山のボール保持は中央で起点を作ろうとする動き自体に欠けていたということでもある。中を使えないならどうにか群馬の最終ラインの背後に仕掛けてブロックを縦に広げたいところだが、前線の山本と斎藤は自分たちで群馬の最終ラインの背後を取りに行くというよりは、レンジの長いボールが出たから裏に動くというようなリアクションになっていることが多かった。

報われない修正策

    後半になってからの岡山は、ボールを持ったとき、持っていないときの両面で手当てをして試合に入ることに成功した。岡山にボールを持たせる形にシフトしたのかは分からないが、群馬が第一ラインからのプレッシャーが弱まったこともあって、後半の岡山はボールを持つ時間が長くなったのだが、特にボールを持ったときの振る舞いでは、前半と比べていくつか明確な変化が生まれていた。

    まず前半は2枚とも張り付きがちだった前線(⇒背後に仕掛けるわけでもない、相手CBの前に留まっていることが多かった)が、縦関係で段差を取るポジションに変更。この場合は前線で群馬の最終ラインと直接駆け引きする山本と、山本から少し離れて下がり目のポジションを取る斎藤という役割分担になることが多かった。岡山がボールを持つ上で効き目が見られたのは、下がり目のポジションを取る斎藤。中央のエリアでCB、CHからの縦パスだったりサイドからの斜めのパスだったりの中継点になることで、岡山は前半よりも中央で起点を作ることができるようになっていた。

    岡山の最大の決定機であったシーンも、一度斎藤が起点を作る動きをすることで全体を押し上げる時間を作り、そこから上門→徳元と繋いでクロス、そのクロスに斎藤が頭で合わせてあわや1点もの、というシーンを作ることに成功した。

    もう一つの変化として挙げたいのは、群馬の選手の近くでボールを持つこと、群馬のブロック間でボールを受ける体制ができるようになったことである。最後尾の金山もそうだったのだが、特に最終ラインの濱田や阿部は、前半のように相手が来る前からすぐにボールを離すのではなく、相手が寄せてくるのをある程度待ってからなるべくパスを出すようにしていた。これによってパスを受けた先の選手、パウリーニョや白井、徳元や下口あたりも、前半と比べると多少余裕を持って(⇒前を向いたりキープしたりができる状態)ボールを持つことができるようになっていたと思う。特に後半のパウリーニョは、ボールを受けて群馬の選手のプレッシャーが来たところでキープ、そこからターンして展開する形を作ることができるようになっていた。

   また前述したような、中央で起点を作ろうとする斎藤のように、SHの上門や関戸といった前目の選手も前半よりも内側のポジション、群馬のプレッシャーのかかるポジションを取って、群馬のブロック間でボールを受けることで群馬の選手を引き付け、そこから徳元や下口といったサイドの攻め上がりだったり、パウリーニョや白井といった中央の選手の押し上げだったりを促すようにしていた。特に大外の選手が高い位置を取ることができるようになったことで、岡山は中央~内側で起点を作って、サイドで押し込む流れを作れるようになっていた。

    後半になって、ボールを持って前進する流れはできるようになった岡山だが、こうなると今度は別の深刻な問題がやってくる。もう何度も書いたと思うが、「パスを受けたあとスムーズに次のプレーに移るようなタッチができない問題」、「パススピードが一定、というか遅いので、ある程度運ぶ形を作れてはいるが相手の中央の準備が間に合ってしまう問題」の出現である。ボールを持ってなんとか前進しようとするが、良いポジションを取ってそこでボールを受けても前者の問題でどうしても次のプレーに時間がかかってしまう。また群馬のようにサイドチェンジ→ボールを受けて外側or内側を上がって数的優位を作る、というようなこれといったパターンを仕込んでいるという感じではないので、ボールを持ってもなかなかスピードアップする形を作れずに目詰まりになってしまう。目詰まりを個人で打開できるタレントのいない岡山にしてみると、後者の問題は得点というよりは、その前段階のチャンスの成否に直結するきわめて深刻な問題として浮かび上がることになる。

   中を崩す有効策を打ち出せずにいた岡山。赤嶺や上田の投入や白井のSB起用など、選手交代によるテコ入れも功を奏さずに時間だけが経過していくと、とどめを刺す次の得点が生まれたのは群馬であった。なんとか自陣深くからボールを運んでいこうとした濱田のサイドチェンジが群馬にカットされると、カットしたボールは中央の大前に。大前が引き付けてできた背後のスペースに抜け出した林が決めて2-0。現役引退を表明している林はホーム最終戦で惜別のゴールとなった。

総括

    最終節、甲府戦の振る舞いには注目。結果という実を取りに行くのかどうか。

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