山口戦の備忘録

スタメン

前半

 少なくとも岡山で行われるJ2リーグは屋外で行われるのだから、気候環境が試合展開に関わらないということはあり得ない。この日(6月15日)の岡山は朝から雨が降り続いていたのだが(結局試合終了まで降り続くことになった)、その雨が試合にどういう影響をもたらすのか。アップを見る限りはどうもピッチの一部に水が浮いているようで、どうやら「田んぼサッカー」通称「田ッカー」になりそうな予感を覚えた。

 その予感を選手たちも感じ取ったのか、それとも試合当初のプランだったのかは分からないが、立ち上がり10分間は岡山も山口も、リスクの発生しやすい後方でのボール保持はほとんどなく、ダイレクトに前線(岡山はヨンジェ・赤嶺、山口は山下)をターゲットにした蹴り合い、そこからのセカンドボールの拾い合いに終始。山口はこういう戦い方をするチームではない印象なので、前者の意味合いが強かったのかもしれない。岡山はどんな試合でも立ち上がりは蹴って入ることがほとんどなので、後者の意味合いもかなり含まれていそうである。

 しかし10分を過ぎると、こんな雨でも今日の試合はそれなりに繋げるピッチなのではないかという情報が選手たちの中に入ってくる。特に岡山は、それまで迷わずに蹴っていた濱田や田中を中心に後方でボールを保持する意思を徐々に示すようになっていった。岡山の後方でのボール保持の形はCB2枚にCH2枚のスクエアを中心にして、SBが適宜下りてきてボール保持をヘルプするという、可変しない442でのボール保持ならばオーソドックスな形。ここ最近の試合でメキメキ伸びている武田がボールを引き出し、そこから展開していこうとする意欲を見せていた。

 ただ岡山のボール保持への意思が効果的であったかといえばそうではなかった。山口のボール非保持時は523で岡山のボール保持に対してマンツー気味にプレッシャーをかけに行く形。後方はプレッシャーに合わせて迎撃する。特に山口の第一ライン3枚(山下・池上・高井)のプレスバックの意識が高く、岡山のCH(武田と関戸)にボールが入った時はCH(三幸・佐藤)と挟んで自由にプレーさせないようにしていた。特に前半は、意欲的にボールを引き出そうとしていた武田が狙われるシーンが目立っていた。なお、岡山のSB(椋原・廣木)がボールを引き出しに下がった時にはWB(高木・瀬川)が付いていくことが多かった。

 山口のプレスに対して、結果的に岡山は後ろに下げて蹴ってしまうという形が目立ち、ターゲットになるヨンジェや赤嶺も菊池を中心に山口の最終ラインに迎撃される場面が多くなっていた。またボールが転がるとはいえスリッピーなピッチで踏ん張りが効かないゆえのタッチミス、トラップのミスも目立っていた。前半の岡山は山口にゾーン3まで運ばれてからの仲間によるロングカウンターという、意図しない形からのチャンスの方が多かった。

 一方で山口のボール保持からの攻撃はWBを高いポジションに取らせる5トップ気味のシステムによる後方からのロングボールで展開していくことが多かった。山口の後方の選手たちはGKの吉満も含めて蹴ることができるので、前から掴まえに行きたい岡山のプレスを空転させて各ラインの間延びを誘っていた。特に15分~30分は左大外の瀬川への大きな展開から、岡山の第二・第三ライン間で高井が受けて引き付けた所で、瀬川がサイドの裏を突いて押し込む形が多く見られた。

 ボール保持・非保持の展開ともに徐々に山口に流れが傾く中で、30分頃から岡山は前からプレッシャーをかける形を一度あきらめる。第一ラインのプレスはもちろん、SH(仲間・久保田)も山口の最終ラインに詰める回数を減らし、一度442でセットする形に修正した。まずは非保持から修正していこうとするのは極めて常識的。これによって岡山の各ラインでの間延びは解消。山口がボールを保持する時間は増えるが、山口のロングボールによる大外への展開、そこから第二・第三ライン間をシャドーに使われ、サイドの裏を突かれる回数を減らすことに成功した。

 岡山の守備の修正に伴って後方でのボール保持が増えるようになった山口は、ポゼッションによるビルドアップを増やしていく。岡山はボール保持の場面では怪しさを見せる菊池のサイドでボールを追い込んで奪いたいところ。33分には菊池がボールを持ったところから久保田と椋原で前へのパスコースを限定して、関戸が詰めて武田がパスカットする理想的な守備も見られた。

 しかし山口も楠本のドライブであったり、前の展開のパスであったりで右サイドから前進を図る。右HVの前が高い位置を取れるときには、池上や三幸と近い距離間でボールを運び、そこに右大外の高木が絡むことでペナ内に侵入する形ができていた。

後半

 序盤はともかく前半の中盤以降は山口の対応に追われることの多かった岡山。しかし後半は、立ち上がりから3バックの泣き所であるWBの裏・HVの脇スペースをシンプルに利用。そこに前線を走らせるボールを多用することで攻勢に出る。ヨンジェや赤嶺はもちろんだが、後半は久保田も積極的に大外に流れる動きを見せていた。

 シンプルにサイドの裏を使うことで機先を制し、山口を下げさせることに成功した岡山は、守備面でも前半一度頓挫した、高い位置からのプレスを復活させる。ゾーン1で山口がボール回収から保持に入ると第一ラインのプレッシャーはもちろんのこと、SHもプレスの強度を高めて山口に自由を与えない。山口は意図せず長いボールを蹴る回数が増えてしまい、そこからのセカンドボールでも岡山のCHと最終ラインが高い位置を取って拾う回数が増える形となっていた。山口は61分に高井→吉濱で個人による打開強化を図るも単発攻撃の流れは変えられない。

 押し込む形を作れるようになった岡山は、山口の523迎撃守備の裏を突いていく。右サイドは椋原、左サイドは仲間が横幅隊となることでサイドで高い位置を取る。山口のWBを食い付かせて、よりサイドの裏スペースを狙いやすくするという魂胆である。またサイドで高い位置を取るだけではなく、前線をターゲットにしたロングボールでも競った裏に走りこむ形、後方からのボール保持でも受けに下りた選手の裏を使う形を徹底。後半はネガトラ含めてボール非保持の段階で後手を踏む山口を尻目に完全に主導権を握った岡山。66分には赤嶺→中野で裏抜けを強化する。

 主導権を握れるようになった後半の岡山の中でひときわ目立つようになっていたのが久保田。前述のように右サイド裏に走りこんで起点になったのはもちろんのこと、59分にはスローインからの流れで仲間がカットイン、仲間からバイタル中央で受けてのシュート(吉満がセーブ)、63分には山口のCHの背後を取り右HSで受けてからのターンプレー(もっともこれはトラップミス)、67分にはミドルゾーンからのカウンター気味のプレーでヨンジェへのスルーパスと決定的な形を演出するプレーを見せていた。セットプレーでも徐々に岡山の選手が触る形になるなど、オープンプレー、セットプレー含めてスコア手前のチャンスを複数作れるようになっていった岡山であった。

 523迎撃守備の裏を突かれるようになって主導権を握られる山口だったが、それでも守備の大きな修正を施すことはなかった。その理由は最終ラインの楠本・菊池の奮闘。前半からヨンジェや赤嶺とのエアバトルでも後手を踏んでいなかった2人だったが、再三裏を突かれる場面が目立った後半でも最後の局面で粘り強く跳ね返すことができていた。特に64分、一森のパントに抜け出したヨンジェに対して振り切られることなく最後までシュートコースを限定した菊池のプレーは象徴的だった。

 岡山の攻め疲れもあってか、70分過ぎから山口も反撃の形を作れるようになり、74分からは後半ほぼ初めてとなる山口のボール保持からの攻撃。三幸が最終ラインに落ちて3バック化、前が右HSでビルドアップの出口となる動きから岡山の第二・第三ライン間で受けて、池上や三幸のコンビネーションで右サイドから打開し岡山ゴール前に迫る形を作る。これに対して岡山の守備はライン間の圧縮と中央を割らせない守備を継続。ブロックの外から右サイドは高木、左サイドは吉濱からボールを入れられる形はある程度許容することで、ペナ内で混乱する事は少なかった。それでも山口は81分、瀬川→パウロ投入で左サイド攻撃を強化を図る。

 山口の攻勢を凌いだ岡山は84分に歓喜の瞬間が訪れる。左サイドのスローインから仲間が最終ライン裏に抜け出したヨンジェにロブパス、パスを受け取ったヨンジェが吉満をかわして折り返し、折り返しが流れた所に武田が左足でミドルを突き刺し先制に成功。山口の迎撃守備の裏を突くことでボールを運べるようになり、前線守備で押し込む。そこからヨンジェと中野で山口の背後を執拗に突き続けることでとうとう決壊に持ち込んだ。

 1-0となって岡山は久保田→下口で守備固め。一方山口は佐藤→工藤でシステムを352に変更。山下と工藤の2トップに吉濱と池上の2シャドーのような形となった。これに対して岡山はタックルラインを自陣まで下げ、また仲間がWBのようにプレーする事で4バックをペナ幅で守らせて、何とか凌ごうとした。

 しかし凌ぎ切れなかった岡山。89分に許容していたはずのブロック外からの吉濱のクロスで失点。直前まで外に逃がす、中を使わせない守備の形は出来ていただけに、一瞬エアポケットに入ってしまったようになってしまったのがもったいなかった。

 1-1になってからのAT含めた約5分間は完全にオープンな状態。両者ゴール前に迫る形は作ったもののそれ以上スコアが動くことはなかった。

雑感

・またも試合終盤に失点する形となってしまった岡山。ラスト15分での失点はなんと10!こういうチームは普通下位に低迷するようなものだがそれなりの(POを窺えるような)順位に収まっているというのはある意味すごい。

・勝っていないのであまり言うべきでないのかもしれないが、有馬監督のHTをはさんだ後半に向けての修正の手腕は見事だなと改めて感じる。前半の相手の出方を判断した上で有効な手を打つことができるということだが、チームとして攻守にハッキリとした自分たちの形があるからこそできることだろう。

・攻守どの局面でもゲームに関わり続けることができるようになっている武田しかり、ディストリビューション能力の高さをゲームの中で活かせるようになっている一森しかり、試合を重ねるごとに個人個人がどんどん成長しているのがうかがえることが、試合を見ていて楽しいし頼もしい。

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