新年の所信表明演説~J2第1節 ファジアーノ岡山VSツエーゲン金沢~

スタメン

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開幕戦はこんなもの?

 「一年の計は元旦にあり」という言葉のように、開幕戦は特に変なミスをしたくないという緊張感が漂うもの。岡山も金沢も、スタメン図で見て分かる通り4-4-2同士でマッチアップする。下手にリスクを冒したくないということもあって、岡山はイヨンジェ、金沢はルカオと両者とも最前線にロングボールを入れていくマッチアップゲームにありがちの固い立ち上がりとなった。

 試合開始から5分程度、岡山はそのリスクを回避する狙いのロングボール⇒即時奪回を狙ったハイプレス絡みの流れでいくつかチャンスを作れていた。恐らく有馬監督から、「立ち上がりは前から行くぞ!」と指示が出ていたのだろうと思う。

 岡山が行った立ち上がりのプレスが落ち着いた10分を過ぎたあたりから、徐々に金沢が攻撃の意思を見せるようになっていく。前半の金沢の攻撃は最終ラインから、最前線のルカオへのロングボールで始まることが多かった。身長だけでなく重さもあるFWが起点となって岡山のCB(田中・濱田)を動かし、動かしたスペースに2トップの一角である加藤や、SHの金子・大石が飛び込む狙いを見せていた。前半は風上に立っていたこともあって、迷わずにロングボールを入れていく金沢。自陣からCH(藤村・大橋)を中心に繋いで前進、というような形はほとんど見せてこなかった。

 19分には下川からのロングボール一発でルカオが抜け出し、マーカーの濱田をものともせずにシュートまで持って行くシーンが見られたように、岡山の守備はルカオに入るロングボールに若干苦戦しているようであった。それでも接点(≒ボールが入ってくるだろう場所)に先回りするポジションを取ってルカオのファールを誘うなど、CBの田中と濱田は流石の対応を見せており、致命傷になるようなシーンは作らせていなかった。ロングボールから生まれた金沢のいくつかのシュートシーンも、ポープウィリアムがしっかり対応していた。

 前半の岡山のボール非保持時の対応は、ハイプレスを控えて4-4-2のブロックをセットし、第一ラインの2枚(イヨンジェ・山本)がセンターサークルの敵陣付近にポジショニングする形から始まることがほとんどであった。第一ライン2枚とSH2枚(上門・三村)がパスコースを制限して、無理やり縦に入れてきたボールはCBとCH(上田・白井)の4枚で潰す。前述のとおり、金沢が後方でボール保持することがほとんどなかったので、立ち上がりのようなハイプレスをかけると逆にプレスを空転させられて体力を消耗するリスクがあったと思う。

 次は立ち上がりからの岡山のボール保持時の振る舞いについて。試合が落ち着いた10分以降の岡山の攻撃は、まずFW(イヨンジェ・山本)を金沢の最終ラインの背後に走らせるボールを入れて最終ラインを押し下げ、上門や三村、または白井が前向きでプレーするスペースを広げていく狙いを見せていた。しかし風下でロングボールが押し戻され、FWが金沢のCB(石尾・山田)を背負った形で競るというシーンが多かった。

 その結果、金沢の行うマンマークを基調とした4-4-2の守備陣形が崩れることが少なく、岡山の選手たちは金沢のマークをなかなか剥がせずスペースを得られないシーンが多かった。特に右SHの三村に入るボールに対してかなり強めにチェックに行くようなシーンが多く見られていた。半身で受けてターンというのがなかなかできない(⇒つまりゴール方向から完全に背を向けて受けることが多く、そこから前を向く術がなかなか見出せない)三村に強めに当たることでミスを誘い、そこからカウンターに繋げようとする金沢の非保持時の意図がうかがえた。

 金沢の非保持時は、あまり第一ラインの2枚からプレスに行く形ではなく、自陣にボールが入ってきたところからマンマークで捕まえに行く形を取っていた。そのため岡山は最終ラインのCB(田中・濱田)を中心にボールを保持できる時間があり、ボール保持による前進という手段を打てたのだが、「とりあえずまずは背後を取らないと!」という意識が強すぎたのか、繋げる場面でもロングボールを入れることが多かった。しかし前述のとおり風下でボールが押し返され、金沢にボールを渡してしまうという形の多い前半の30分までの展開であった。

固い展開の中で見えた岡山の狙いとする形

 岡山は前半の30分を過ぎた辺りから、CBの田中がロングボールではなく自らボールを運ぶ選択を見せるようになる。このプレーを端緒に、このロングボールを蹴るままでは良くないぞということで、地上戦でボール前進を図る回数が増やしていく岡山であった。

 30分以降の岡山は、徐々に自陣からボールを保持して前進させていく形が見えてくるようになっていった。自陣からのボール保持局面において昨季との比較で特徴的だったのが、ゾーン1(=自陣深く1/3のエリア)でのボール保持時における、田中・濱田のCB2枚+GKポープウィリアムによる3バック化。その際、CHの上田や白井はあまり最終ラインに下りることはせず、金沢の第一ラインの背後に立つポジショニングをしていた。またSB(徳元・増谷)は、大外レーンの位置にポジショニング。足元の技術に長けたポープウィリアムだからこその形なのか、金山が入ってもそういう形になるのかは不明である。

 前半ATにはそのようなCB+GKによる3バックでのボール保持から、ポープウィリアムが大外レーンにポジショニングしていた徳元へフィード、そこから一度中央の上田を経由し山本→増谷とテンポ良く右サイドに展開、ゾーン3までスムーズにボールを前進させる形も見られた。

ダウンロード2020.2.23

 また岡山は、敵陣に入ってからの攻撃でも昨季との違いが分かるプレーがいくつか見られていた。サイドを起点にゾーン3→ペナ内に侵入していくことを狙いとすること自体に昨季との違いはないが、その手段に違いが見られていた。

 岡山はサイドを起点に、3枚ないし4枚の選手がボールサイドの大外~中央の3レーン間でポジションを動かす形を採用しているようだった。大外レーンでボールを持っているときにはインナーラップ、逆に中寄りでボールを持っているときにはオーバーラップを行い、後方からボールホルダーを追い越す動きで前にパスコースを作ろうとする狙いがうかがえた。特に印象的だったのが、CH(特に白井)が高いポジションに飛び出すプレーが多かったところである。

 このような形が具体的に見られたのが31分。左ハーフレーンでボールを持った上門を白井が大外に流れるようにして追い越す形から金沢のマークをズラし、山本のフリックプレーと徳元のインナーラップが連動して徳元がバイタル中央に侵入、シュートを打つという流れを作った。

 昨季は左サイドで仲間がボールを持って仕掛け、周囲の選手がそれをサポートするという形がメインだった。「仲間の個人能力を生かすことがチームの最大値となる」「攻守バランスを取れる」という意味でそれは正しかったと思うが、ゾーン3~ゴール前への侵入手段が「仲間ありき」という部分は否めなかった。今季はより多くの選手がプレーに関わることで、個人への依存度を減らし、また右サイドでも同じような形を作りたい狙いがあるのではないかと思われる。

 昨季との違い、その違いから産み出される狙いをいくつか見ることができるようになった岡山であったが、全体的に動きが固いのは変わらず。FW(イヨンジェ・山本)に入るボールがズレることが多く、パスのタイミングが合わないシーンも多かった。ボールを運ぶことはできるようになってはいたが、金沢のマークを外してシュートチャンスを得るシーンは数少ない前半であった。

拮抗を破るはコリアンエース

 風上と風下が入れ替わった後半、金沢はボールが風に押し戻されることを嫌ってか、最終ラインからのシンプルなロングボールを控えるようになっていた。CBを中心に最終ラインでボールを持つ時間が前半よりも長くなった金沢に対して、岡山は第一ラインからのプレスラインを高くして応戦していった。

 イヨンジェと山本が規制をかけるプレーでサイドに追い込み、ボールサイドのSHとSB、時にはCHも加わってのプレスで前半よりも高い位置でボールを奪う回数が増えていった。後半開始の2、3分程度で徳元が敵陣でインターセプトに2度成功したのがその象徴と言えるだろう。

 岡山の非保持時の442守備、第一ラインからのプレス守備の強度は、フィールドプレーヤーに3人の新加入選手がいるということと、右SHの三村が実質今季初めてのポジションに挑んでいることを加味しても、開幕戦にしては十分に高いものであった。それでも金沢に大外レーンでSB(下川・杉井)を起点にボールを運ばれる形はいくつかあった。

 敵陣に入っての金沢は、4-2-2-2でFWとSHが中央に入る流れからペナ角に起点を入れて、その起点の背後に飛び出す形を狙っているようであった。その動きに過剰に食い付けば中央を空けてシュートチャンスを得ることができるという算段で、何度かCH(藤村・大橋)がミドルを狙おうとしていたが、そこは岡山が4バックのスライドとそれに合わせての中盤のスライドで中央を空けない守備はできていた。

 前半に比べて後半は、両者ともに縦への動きが活発になっていた。60分を過ぎた辺りから、岡山はFWがサイドに流れる動きに対して最終ラインは背後に走らせるボールではなく、楔を入れるような縦パスを増やすようになっていた。特に山本がこの起点作りで貢献していた。この縦パスでハッキリとした起点ができると、前述したボールサイドのSH・SB・CHとのコンビネーションでサイド深くに侵入⇒クロスを入れる形を増やしていった。

 敵陣深い位置までボールを運べる回数が多くなった岡山は、金沢のやや苦し紛れの縦へのボールも残っているSBやCBが潰すことで押し込むことに成功する。74分には三村→清水で、山本が左SHに入る形でさらに攻め手を増やそうとしていた。

 岡山の攻めの姿勢が実ったのが80分。上田の右CKから濱田がニアで反らしてイヨンジェが詰めることで先制に成功。流れの中であまりチャンスに恵まれていなかったエースであったが、セットプレーのワンチャンスを逃さずに仕留めた。昨季は上田の直接FKは猛威を振るっていたが、CKからの得点はあまり多くなかった。昨季はあまり見られなかった、鮮やかなデザインされた形でのセットプレーによる得点であった。

 岡山が先制して以降は、当然金沢は追い付くために攻勢をかけてきた。しかし岡山はズルズルと下がりすぎることなく冷静に対応。金沢がサイドに展開したところで、ボールサイドに全体がスライド、パスコースを制限して空いている所に金沢がボールを入れるとそこを潰すというプレーができていた。岡山は山本→松木、上門→椋原で運動量と守備を手入れし、しっかりゲームをクローズ。ホームでの開幕戦を見事白星で飾った。

総括

・自陣での粘り強いマンマーク守備、石尾と山田のCBの強度は際立っていた金沢。しかし強風の影響もあってか、ボールを保持しての攻撃はあまり脅威ではなかった印象である。藤村や大橋が攻撃時にタクトを振るうという場面もあまり見られず、SHの金子・大石の存在感も薄かった。それでもルカオと加藤の2トップのパワーはなかなか魅力的であった。このパワーにSHやSBの機動力が噛み合うとどのチームも手を焼きそうである。

継続していく部分
①:442での守備の強度・プレスに行くタイミングの共有
②:まずはFWが相手の背後を狙いに行く攻撃時の優先順位
進化を狙っている部分
①:自陣でのボール保持にGKが加わる頻度を増やし、敵陣に前進していくバリエーションを増加させる
②:SBやCHのオーバーラップ、インナーラップの多用など敵陣での攻撃にかける人数を増やし、片方のサイドに偏ることなくどちらのサイドからも攻め手を作っていく
③:①・②を意識しつつ、攻守バランスを過剰に攻撃寄りにすることなくゲームを進めていく

・上に挙げたように、パスの精度やスピード、複数人が絡む形での連係のスムーズさ、そもそもの企画回数など、当然課題はまだまだあるが、今季のテーマでもある「継続と進化」の所信表明となる開幕戦ということを考えると、岡山は現時点で順調に進んでいるのではないかと感じたゲームだった。

MOM

7 MF 白井永地

運動量と頭の良さで、90分間攻守にいてほしいポジションを取り続けることができる黒子的な良さを見せながら、ボールホルダーに対してガッツリ潰しに行ける守備、果敢に上がってのミドルシュートなど、明らかに黒子に留まらない存在感を示した。

試合情報・ハイライト


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