備忘録~J2第11節 栃木SCVSファジアーノ岡山~

スタメン

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前半~11対11の攻防~

 試合開始から2分で野口のJリーグ初ゴールで先制に成功した岡山。そこからチェジョンウォンが退場になるまでのおよそ25分間、11人対11人の数的同数での試合展開は、戦前の予想通り「後方でボールを持つ岡山VSボールを運ばせたくない栃木」という構図になっていた。

 この試合での岡山は、SB(徳元・椋原)が低めのポジションを取ってボール保持に参加していた。後方でのボール保持を普段ならばCB-CHの4枚にGKのポープの5枚で行うところを、ここにSBが加わっての実質7人で行われていることが多かった。とにかく横に横にボールを動かしていこうとしているのが目についた。

 岡山がこのようなボール保持を行った狙いとしては、栃木のFW-SHの4枚が第一ラインとなる高い位置からの相手ボール保持を阻害する守備に対する牽制だろう。栃木の第一ライン4枚に対して岡山のビルドアップ隊はポープを含めて7枚。横に動かしてボールホルダーをフリーにして、そこからサイドを起点に外→外で動かすか、前線に当てるかの2つが岡山の主な前進手段となっていた。栃木のプレスにかかって中央で奪われてのショートカウンターを受けることをかなり警戒しているようだった。

 この試合で2トップとして起用された清水と斎藤のコンビは、お互いが近い距離でプレーすることを意識しているようだった。後ろで時間を作れたときに出されるロングボールに対してはそれなりにボールが収まり、ゴリゴリと運んで前線で時間を作れる2人であった。またロングボールが収まらなくても、栃木の第一ラインからのプレッシャーがあまりハマっておらず、栃木の2CH脇のスペースで中盤がセカンドボールを拾える形も作れていた。

 一方栃木の攻撃の狙いは、普段はターゲットマンにボールを当てる形だが、この試合ではサイドへのロングボールからドリブルで運べる森と山本のSHとSBのコンビネーションを使ってのクロス攻撃か、詰まったら西谷を使って逆サイドに展開する形がメイン。岡山にボールを回収されても、タッチラインを利用してのコンパクトなプレスで蹴らせていくことも念頭に置いた狙いだったように見えた。

 試合が動いた明本のPKにつながったプレーは前述の形とは異なり、田代のフィードに対して明本がチェジョンウォンの背後を突いた非常にシンプルな形。田代のフィードはなかなか絶妙だったし、明本も非常にタイミングよく抜け出したとは思うが、チェジョンウォンがあの形で背後を取られたのはCBで起用されている選手としては軽率と言わざるを得ないプレーだった。(下動画1:00から)

 チェジョンウォンが退場になってからの前半の残り時間は、お互いに突然現れた数的優位、数的不利の状況に戸惑い、それを受け入れるための時間だったように思う。数的優位になった栃木がいきなりペースを上げるということもなく、あまり展開として大きく動くことはなかった。前半はそのまま1-1で折り返す。

後半~10対11の攻防~

 後半になっての岡山は、立ち上がり10分ほどはボール保持していく意思も見せたが、上田が交代になってからの60分過ぎからは4-4-1のブロックを形成して撤退。まずは中央を固めるようになる。低い位置で回収したボールは途中出場のイヨンジェにロングボールを当てて、イヨンジェのフィジカルで何とかしてもらう。手数をかけずにサイドに広げてクロスでフィニッシュできればそれでいい、まずは1-1のスコアを維持する、という典型的な数的不利の戦い方を徹底していた。

 田代と高杉の2CBがボールを動かす時間を与えられた栃木は、中央を固める岡山の4-4-1ブロックを外から包囲するようにボールを運んでいく。高さでは濱田と後藤を中心にした岡山の守備陣の方に分があるので、シンプルなクロスというよりは、瀬川と溝渕を起点に、サイドをえぐって折り返す形を作っていこうとしていた。サイドが詰まったら、こちらも中盤で時間を与えられるようになった西谷がサイドを変えて岡山のブロックを左右に揺さぶっていった。ただ効果的なボールの動かし方ができているとは言い難く、中央を使えた形は高杉→有馬のシュートの流れくらいだった。

 時間の経過とともに栃木は瀬川を高い位置に上げて左サイドからの攻勢を強めていく。岡山は10人になってから右SHでプレーしている斎藤がほぼマンツーで付く形で対抗。岡山は押し込まれた時は大外をSHが下げることで6バック気味に守る形を取り、4バックが全員ペナ幅でポジショニングすることで栃木にペナ内での自由を与えない。85分を過ぎると栃木はゴール前の人数をかけてのシンプルな放り込み→スクランブルを狙う形に移行してゴールに迫るも、岡山の集中は切れずに守れていた。

 ところが90+4分、岡山の選手たちがCKと決めつけた栃木のスローインから、瀬川のクロスに途中出場の柳がフリーでヘッドを叩きこんで土壇場で栃木が勝ち越し。11試合目で初めての複数得点を挙げた栃木が2-1で勝利した。

雑感

・数的優位になってからの攻撃が上手く行っていたわけではなかったものの、下手なボールロストはほとんどせず、焦れずにサイドからの攻撃を続けていって粘り勝った栃木。個人で目についたのは、前線で起用されていた大学経由のアカデミー出身選手である明本。チェジョンウォンを退場に追い込んだ裏抜けのプレーはもちろんだが、「スピードの緩急をつけたボールホルダーへの距離の詰め方、コースの切り方」が特に良かったように思う。

・先制以降の11人での前半25分までの横を使って前線に収める展開、10人になっての後半の4-4-1ブロックを敷いて栃木にボールを持たせていた展開と、どちらも試合運びは悪くはなかったが、集中の切れた1つ2つのプレーで勝ち点を失くしてしまった岡山。特に後半、中央を使う工夫が栃木に見られなかったのは差し引く必要はあるが、割り切った4-4-1→6-3-1の守備ブロックはそれなりに強度を保てており、失点するまでの流れなら、勝ち点1を確実に確保しておかないといけない試合であったと思う。

・栃木の決勝点につながるロングカウンターを引き起こしてしまった下口のプレーについて所感。現地情報によると、ベンチから「コーナーフラッグでキープしろ」というような指示が下口に出ていた模様。相手に当ててCK、またはスローインでマイボールにする意図からか、結果的に中途半端なプレーになってしまったが、下口はそれを忠実に実行しようとしたのだと思う。ただこの時ゴール前に岡山の選手がかなり人数をかけて上がっていたので、指示に反する形でもクロスを上げる選択をした方が良かったのではないかと個人的には思う。

・野口のJリーグ初ゴールをもたらした岡山のCKは、栃木のセットプレーでのゾーン守備を上手く利用した良い形だった。セットプレーのゾーン守備は大外が空きやすく、そこから折り返されるとボールウォッチャーになりがちなので、上田→大外の清水が折り返し→濱田がヘディングした流れは栃木の守り方をスカウティングできていたということなのだと思う。今季の岡山のセットプレー攻撃は、いろいろ工夫しデザインされている(その分守備がちょっとマズいが)。だからこそ自分たちのセットプレーをもっと増やせるようにボール保持→前進の流れを改善する必要があるのだが・・・。

試合情報・ハイライト


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