糧~J2第33節 Vファーレン長崎 VS ファジアーノ岡山~

 結果は0-5、いわゆる夢スコというやつでした。ファジアーノ岡山の歴史をたどると、5失点以上というのは昨季の横浜FC戦がありますが(アウェーで1-5)、夢スコ以上となると2011年の鳥栖戦(アウェーで0-6)まで振り返らないといけません。よく大差が付いた試合の総括で、「スコアほどの内容の差はなかった」という慰めの言葉がありますが、この試合はスコアと試合内容が見事にリンクしてしまっているので、残念ながらこの慰めの言葉も使えません。

 試合を時系列で振り返ろうとしましたが、それをするのはあまりにも自分の精神を削る振る舞いなのでやめることにします。ただ、大敗した試合にこそ今後に繋げることのできる糧があるのも事実なので、今回はなぜ大敗したのかをいくつかのポイントに分けて考える、という記事にしようかなと思います。

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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最後までハマらなかったプレッシャー

 この試合の長崎のボール保持は、角田とフレイレの2CBに秋野が列を下りての3バック化、その前にカイオセザールがポジショニングする形が基本形であった。形として決まっていたとされるのは、SBの鹿山と江川が大外の高い位置にポジショニングすること、内側に入ることの多かったSHの名倉と氣田、前線の富樫と玉田の4枚のうち誰か1枚は相手最終ラインと駆け引きすることだっただろう。逆に言えば、それ以外のポジショニングはある程度個人の裁量に委ねられていた部分はある。

 岡山としては長崎のボール保持に対して、第一ラインのイヨンジェと山本からプレッシャーをかけるいつも通りの流れで行こうとしていたのは間違いない。SHの上門か白井を第一ラインと同じ高さに置いて長崎の最終ラインでのボール保持を規制してサイドに追い込み、中盤の横スライドとボールサイドのSBの縦スライドで、できるだけ高い位置で長崎からボールを奪おうとする守備をしようとしていた。結論から言うと、この流れを全く作ることができなかったので大敗したと言える。

 まず長崎は玉田や名倉といった前線やSHの選手が、岡山の中盤と最終ラインの間にポジショニングしたかと思えば、カイオセザールと同じ高さでボールを受けに列を下りる動きをするように、ある程度自由に動くことで岡山のマークを混乱させるようにしていた。もちろん実体のある選手なので岡山の選手たちが捕まえに行けないわけではないのだが、ここで問題だったのはいざ相手を捕まえたと思っても、簡単にマークを剥がされたり足を引っ掛けてファールになってしまったりしていたこと。つまり相手を捕まえることができていなかったということである。岡山の選手が寄せに行って外されると、長崎にはドリブルで運べる選手が揃っているので、時間とともに岡山の中盤~最終ラインとしては前に行きたくてもなかなか行けないという状況になってしまっていた。

 岡山のプレッシャーがハマらなかったのは、もう一つ、単純に長崎の選手たちのプレス耐性の高さもあった。特に中盤のカイオセザールと秋野のそれは非常に高く、岡山がプレッシャーをかけてきても慌てることなく引き付けてから味方にボールを渡すことで、ボールを受けた選手は余裕を持って次のプレーを行えるという好循環を生み出していた。岡山は寄せに行っても相手を追い込むことがなかなかできずに逆にスペースを与えるという展開が立ち上がりから続くと、岡山の第一ラインも角田やフレイレにチェックに行くのをやめて、結果として長崎にズルズルとラインを下げさせられてしまっていた。長崎の最終ラインからのボール保持を全く止められずに自陣深くまで運ばれて動かされた結果、空けてはいけないスペースを与えて失点した氣田の1点目はまさにその象徴的な失点だったと言える。

逆にこっちは運べない

 長崎のボール保持が岡山のプレッシャーを無力化できていたのに対して、岡山のボール保持は前進する形をほとんど作れていなかった。後方からボールを保持するときの形としては長崎とほぼ同じで、CB(濱田と後藤)-CH(上田と喜山)間でボールを動かし、SBの徳元と椋原が横幅を取るといういつもの形だった。

 長崎の玉田と富樫からなる第一ラインからのプレッシャーは岡山のボールホルダーに強く詰めに行くというものではなく、縦へのパスコースを消してパスコースを誘導していくというもので、そこまで強い圧力をかけているとは思えないものだったのだが、岡山の後方の選手たちはパススピードが長崎の選手に比べて遅く、かつパスのレンジも短いので、パスの出先にすぐに長崎の選手が寄せに行くことができるような状態になっていた。また、プレッシャーを受けてもキープして相手を引き付けることができていた長崎に対して岡山は、特に中盤の上田や喜山がプレッシャーを受けたらすぐに近くの選手にパスを出してしまっており、そのパスを受けた選手がどうしたらいいのか困ってしまうようなシーンが何度も見られていた。長崎とは逆にボールを受けた選手がどんどん余裕がなくなってしまうという悪循環。結局ポープがボールを引き取り、仕方なく前線に蹴るという形になっていたが、相手の準備が整った状態でハイボールで何とかできるほど甘いものではない。

 長崎のプレッシャーの中でボールを持つことができなかったのは、後方の選手だけでなく前線やSHの選手も同様だった。イヨンジェも山本も、角田やフレイレの背後からの寄せに対してキープしきれずボールを身体から離してしまい、そのボールをカイオセザールや秋野に奪われるというシーンが前半から多く見られていた。また内側にポジショニングしていたSHの上門や白井も、長崎の中盤のプレッシャーを受けると(⇒SHとCHがボールサイドで挟み込むようなプレッシャー)なかなかボールをキープできずに近くの選手にすぐに出してしまっていた。岡山の前半の攻撃の糸口は、相手のSB(鹿山と江川)が寄せてきてもタッチライン際でボールを持って前に向く形を作ろうとしていた椋原と徳元のSBからの展開くらいであった。

 このように長崎とは対照的にプレス耐性の強くない岡山は、ボール保持時に個人がボールを必要以上に早く離すような、爆弾ゲームの様相を呈していた。ボールがせわしなく動く状態でボールを落ち着いて運ぶということができるはずもなく、特に前半の岡山は普段ではあまりないようなパスミスを連発。致命的な失点となった前半終了間際の氣田の2得点目も、爆弾ゲームのように後方からのボールを受けた上門が、爆弾ゲームのようにボールを離してしまうパスミスがスイッチとなって生まれた失点であった。

 後半になってパウリーニョと斎藤という、このチームの中では相手のプレッシャー下でボールをキープして運ぶことができる選手が入ったことで、徳元と椋原がサイドの高い位置を取ることができるようになり、そこからのクロスを増やすなど、自分たちがボールを持ったときの見栄えは前半よりは幾分マシにはなった。ただこれは、無理せず相手にボールを持たせつつ引き込んで、カウンターで仕留めようという後半の長崎の意図を加味して考える必要はある。実際に後半は、長崎のカウンター気味の攻撃から富樫、エジガルジュニオ、ビクトルイバルボとさらに3点を加えられている。

では、何とかならなかったのか?

 何とかならなかったわけではない。岡山は前半の飲水タイム後、イヨンジェと山本の第一ラインに深追いを控えるようにして4-4-2のブロックを中央に設定。サイドの高い位置で追い込んで取り切る形ではなく、長崎にサイドから運ばせつつ少しずつ手詰まり感を与えるようにして全体のブロックをスライド、ミドルゾーンの後方で何とかボールを取ろうとする守り方にすることで、30分から2失点目までの間は守備をある程度立て直すことには成功していた。だからこそ前半終了間際の2失点目が致命的であったと言える。

 手倉森監督は岡山がこういう守り方をしてくることをある程度想定していたっぽいので、この守り方でどこまで岡山が1点ビハインドのまま時間を稼げていたかはわからない。しかし、有馬監督が悪いなり、自分たちの形を全く作ることができないなりに試合として成立させる展開(⇒1点ビハインドをキープして相手が守りに入るのを待ち、そこで赤嶺やデュークカルロスといった後半の追い込み用カードを切る展開)を何とか作り出そうとしていたということは忘れないようにしておきたい。

総括

・今季のJ2戦線でメインキャストを張る長崎の力強さを改めて痛感させられた試合。後方のボール保持で優位に立つと、そこから自由に動き回る玉田と名倉のリンクマン的プレーに、アタッカー気質の氣田のドリブル、鹿山と江川の横幅を使った即興的な攻めで岡山を蹂躙した。個人で特に目を引いたのは、やはりカイオセザール。フィジカルがあって相手からボールを刈り取れる、ダイナミックな推進力があるというだけでもCHとしては十分すぎるほどなのに、そこに相手のプレッシャーを引き付けて味方に自由を与えるというボール保持時のハブ的役割でも機能されては、相手にとってはたまったものではない。同じくJ2戦線のメインキャストである徳島とか福岡とかに比べて、戦術的なところに何か光るところがあるというわけではないのだが、個人の高いスキル、選手層の厚さを十二分に生かせるようなチームのマネジメントができているという部分が非常に素晴らしいと感じる。玉田と富樫の後に、エジガルとイバルボが出てくるのは大分反則でしょう。

・上田と喜山という中盤の組み合わせに、前線にイヨンジェを先発起用した有馬監督だったが、おそらく長崎相手に対してももう少しボールを持てるだろうという戦前の予測を立てていたのかなと思う。中央を閉めた時の安定感はあるが縦横の機動性に欠ける2CH、前からのプレスに行くときの動きに柔軟性がそれほどないイヨンジェを使って今季のチームが狙っているものを出そうと思ったら、ある程度ボールを保持して、敵陣に押し込む形を作らないといけなかったはずである。実際にはボールを保持して相手を押し込むような形はほとんど皆無、逆にボールを持たれることで前述した粗が思いっきり出てしまう格好となった。サイドの選手(椋原-白井、徳元-上門)があっちこっちに動き回らないとどうにもならなかった現象がそれを証明している。本文に書いた前半の飲水タイム後~2失点目までの展開が、実はこの日のスタメンでは一番向いた守り方、試合の運び方だったのかなという気がする。

試合情報・ハイライト


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