西からの風を受け止める~J2第18節 アルビレックス新潟 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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新潟の仕組み、狙いを考える

 この試合のスタートの新潟は上に出したスタメン図とは違い、本間を右に、高木を左にする形で試合に入っていた。岡山がJ2で屈指のドリブルタレントを持つ本間対策として、それまでの全試合でスタメンで出ていた河野ではなく、対人守備でより粘り強く対応できることを期待しての廣木の右SB起用への対策としての配置だったのかなと思われたが、5分もしないうちに本間が左、高木が右に入っていたので、おそらくスタートの配置を変えることで岡山を撹乱させようとするための目眩ましだったのだろう。

 試合としては、後方からボールを保持して丁寧に前進させようとする新潟に対して、岡山がどこまで新潟にボールを持たせること、進めさせることを許容するのか、という構図で進んでいくことになるわけだが、岡山としては前節の東京V戦と似た感じではある。まずは新潟の後方からのビルドアップについて見ていきたいと思う。

 新潟のビルドアップの形はCBの千葉と舞行龍の2枚を始点に2CHの島田と高の4枚による中央~内側のエリアでの菱形の形成がメインとなっていた。基本的にCHのどちらかが1枚がCBの間に下りて、もう1枚が岡山の第一ラインである川本と上門の背後のスペースを取るようなポジショニングをすることで菱形を作る。ボールが詰まったときにはGKの小島まで下げることも厭わず、一見ムダに見えるようなCB同士のパス交換も繰り返す。これがあるからこそ、大半の新潟の試合のボールプレーの回数の1位2位は、千葉と舞行龍のCBの2枚が占めているとも言える。

 こうした新潟の後方からのボール保持の肝は相手の第一ラインからのプレッシャーを引き出すことにある。相手のプレッシャーを引き出させたところにできる背後のスペースに、CHなり2列目の選手なりが入り込んでボールを受けることで第一ラインを突破して前進に成功する、というのが新潟のビルドアップの基本型と言えるだろう。また新潟はSBの堀米と藤原で横幅を確保することも忘れていない。左サイドの堀米は中央に入ったり最終ラインで残ったりすることもあるが、そのときには本間が横幅を取る。そうして前後左右のボールの動きで理詰めでスペースを芋づる式に作り出し、できたスペースを本間や高木といったアタッカーと前線の鈴木と谷口で攻撃していく。

 また新潟の前の4枚はこの試合、岡山の4-4ブロックのライン間でポジションを変えながらボールを引き出そうとしていたからなのか、ボールを持ったときに中央~内側のエリアで非常に曖昧なポジションを取っていることが多かった。曖昧と書くと良くない意味に取られがちだが、決してそうとは限らず、特に攻撃の時間においては相手のボールを捕まえたい基準点をぼやけさせることができるという利点がある。相手の隙間でボールを受けて、そこから仕事ができる本間や高木のいる新潟なら尚更だろう。岡山のライン間でボールを受ける人間を増やして岡山のチェックを外し、そこから大外からのクロスと中央からの崩しの形を折り交ぜてゴール前の展開を増やしていきたい、というのが新潟の狙いだったと思う。

我慢強き岡山の4-4-2

 新潟の後方からのボール保持、そこからの攻撃の狙いについて見てきたが、ここからはそんな新潟に対する岡山の振る舞いについて見ていく。基本的に岡山は後方からボールを運んでいこうとする相手に対しては相手最終ラインに第一ラインから人数を噛み合わせて、できるだけ高い位置からプレッシャーをかけていこうとするのだが、この試合では第一ラインの川本と上門が新潟の最終ラインでのボールの動きに食い付きすぎないように、新潟に中央のエリアでのパスコースを与えないことを最優先にしているようであった。もちろん敵陣深い位置で新潟がパスを回すときには第一ラインからプレッシャーに向かっていた。

 具体的な守り方としては、第一ラインの川本と上門が横並びとなって、CHの喜山と白井とともに新潟の菱形の頂点となる選手(⇒CHの高または島田、高木が下りてくることもあり)に対してなるべく最終ラインからボールを入れさせないように、第一ラインと中盤のライン間のスペースを閉じることをまずは意識しているようであった。また新潟の選手にボールが入ったときは、CHの縦のプレッシャーと第一ラインのプレスバックでサンドすることで前を向かせる余裕を与えないようにしていた。特に新潟の菱形の頂点でボールを受けてそこから前を向こうとする島田に対して、死角からチェックに向かう上門のプレスバックの上手さが際立っていた。

 岡山が第一ラインとCHの連携で中央のエリアでの新潟のパスコースを消す形を取ると、最終ラインでボールを持つ余裕のある新潟は大外の堀米や藤原をビルドアップの出口にしようとしたり、千葉や舞行龍が岡山の第一ラインの脇から自らボールを運んでいったりする形を増やしていこうとする。ここで重要になってくるのが左の徳元や右の宮崎幾といったSHの役割。新潟の大外にボールが出たときには縦に展開させない、前を向かせないためのファーストチェックに向かい、CBの運ぶプレーに対しても牽制をかける。そして新潟の2列目にボールが渡ったら、SB(宮崎智と廣木)が下がりすぎないようにするためにすぐにプレスバックに向かうようにしていた。

 最後に書いた役割については特に右の宮崎幾-廣木のラインは、本間が左サイドに流れて来てボールを受けたときには宮崎幾がすぐに下がってくることで、廣木が下がりすぎて本間のドリブルしたいコースを与えないようにすること、簡単に1対1の状態を作らないようにすることで最大の脅威となる本間のカットインの形を減らしていくことに成功していた。それでも一度、本間に内側に仕掛ける形を与えてからのクロスに鈴木が頭で合わせるシーンを作られてしまってはいたが。

 この試合で岡山の4-4-2の守備が狙いにしていたと思われるのは、4-4-2のブロックで中央~内側のエリアを閉じるところからスタートし、新潟のCB→ボールサイドのSBにボールを誘導してそこから岡山のボールサイドのFW-SH-CHで三面を作る形でパスやドリブルで前進できるようなコースを消した上で前に蹴らせて、後方の選手がそのボールを回収するということであった。新潟のボールの動きを横に狭くすることで、岡山としては潰すべきスペースをより明確にできるので、ボールを回収する形を取りやすくなるということであるだろう。そのため新潟がやや無理気味に内側や中央のエリアにパスを通してきた時には、岡山は最終ラインの選手が積極的に新潟のレシーバーを潰しに行くことができていた。CBの井上や安部はもちろんのこと、SBの廣木や宮崎智もそういう動きを行っていた。

 こうした岡山の4-4-2の守り方を考えると、新潟にされたくないボールの動かし方は、同一サイドからボールを逃がされてCBまたはCHから大きな展開で逆サイドに広げられる形である。千葉から逆サイドの藤原への大きな展開からの形が顕著であったように、この形を許してしまうと岡山としては逆サイドへのスライドが間に合わずにとりあえず中央を固めるしかなくなってしまい、大外からの藤原や高木あたりからのクロスやクロスを囮にした斜めのパスを入れられる形を作られてしまう。ターゲットになるのがペナ内でフリーになる感覚のある鈴木や谷口であったことからも、こういう形を連発されるとなかなか厄介であったが、回数自体はそこまで多くはなかったのは岡山にとっては助かったかもしれない。

 前述したように新潟としては、本来であれば岡山の4-4のライン間でボールを受ける形をもう少し作りたかったはず。しかし新潟は特に敵陣に入ってからの狭いエリアでのパス交換がなかなかスムーズにできていなかった印象である。特に前半の30分ほどまでは、新潟のチャンスシーンはむしろ、岡山が回収したボールを繋ぎきれずに新潟に渡してしまうところからのカウンター気味の展開が多かった。

レフティが作るマイタイム

 新潟からボールを回収したときの岡山は、ボールを奪ってすぐに敵陣にボールを放り込んで前線を走らせるということはあまり行わず、何とかCBの井上や安部、CHの喜山あたりを経由してボールを確保する時間を作ろうとしていた。この試合の岡山の守り方を考えるとボールの回収地点はどうしても自陣になりやすく、ボールを回収してすぐに前線にボールを蹴り出すと川本や上門が孤立することが多くなって、自分たちの攻撃の時間を作れなくなる可能性が高くなる。後方である程度ボールを持つことで全体を押し上げて、最終ラインやCHからの縦のボールに対してセカンドボールを回収しやすくする意図があったのだと思われる。

 岡山が後方でボールを持つときにキーとなっていたのは、宮崎智-徳元の左サイドのラインでのボール保持の安定性と、安部や喜山によるCBやCHからの縦パスであった。全員奇しくも左利き。前者については、イーブンなボールに対して身体を当ててマイボールにできる、そして自分のところである程度ボールを落ち着かせることのできるSBの宮崎智とSHの徳元で、岡山の左サイドで時間を作ることができていた。特に宮崎智はCHもできる選手なので、相手を外に向けさせてから内側の白井や喜山にパスを通す、そこから逆サイドに広げるというような展開も見せていた。

 後者の縦パスに関しては、特に岡山が一度完全にボールを落ち着かせた時に見られていた。4-4-2のブロックを組んで守る(そしてあまり第一ラインからプレッシャーをかけに来ない)新潟に対してCBの安部が新潟の第一ライン(鈴木と谷口)の脇のスペースから自らボールを持ち出して、内側のエリアにポジショニングする上門や徳元、川本あたりを目掛けたパスを狙っていた。喜山が最終ラインに下りてボールを引き出したときにも、安部と同様に前線を狙ったパスを積極的に出していた。安部はよりボールの受け手を明確にしたパスを出しており、喜山はどちらかというとスペースを狙ったパスを出していた、という感じであった。

 ボールを持ったときの岡山の狙いとしては、前述した左サイドの安部や宮崎智、喜山を起点にした、SHの徳元を使っての外→外のボールの動きによるクロスを中心にした展開と内側にポジショニングする上門や白井にパスを当ててからの展開という、内と外の攻撃を折り交ぜることであった。特に外→外の展開からの攻撃については、左サイドでは徳元が前を向いたときにクロスに備えて川本がゴール前で動き直しを行う様が何度も見られていた。なお宮崎幾-廣木の右サイドのラインによる攻撃は、右サイドを起点にビルドアップが行われるというよりは、廣木が大外の高い位置を取って、井上や白井あたりからの展開を受けてそこからシンプルにクロスを入れるという形が多かった。宮崎幾は内側に入って、右サイドの攻撃というよりはCHとのビルドアップに参加してそこから前線に飛び出していく形が多かった。

 ただ試合開始からしばらくは、ボールを失った直後の新潟のカウンタープレスの迫力だったり自分たちのパススピードが足りなかったりしていたことで、回収したボールを連続して繋げることがなかなかできずに新潟にボールを渡してしまうシーンが散見されていた。ボールを持ったときの岡山がようやく落ち着いてボールを運べる回数が増えてきたのは新潟のカウンタープレスに慣れた&プレスが落ちてきた30分すぎから。そうなると今度は逆に前のポジションをかなり流動的にしている新潟が岡山のCHを捕まえきれなくなるので、新潟が一度4-4-2のブロックを組むのを利用してCB-CH間でボールを落ち着かせる時間を増やせるようになっていった。

 ミドルゾーンにボールを運べる回数が増えてきてからは上門や川本、宮崎幾あたりが内側のエリアでボールを受けて、そこから前を向いて仕掛ける形や新潟の最終ラインの背後を取る形も増やせるようになっていった岡山であった。新潟にいくつかのチャンスは与えたものの終盤には岡山が逆に押し返すシーンも作り出してスコアレスで前半を折り返す。

報われた我慢と降ってきた幸運

 後半の両チームの構造は前半と変わらないので経過中心に進めていく。前半の動きとハーフタイムのブラッシュアップで新潟のビルドアップ、ボールの動きを掴んだ感が見られた岡山はCHのポジションを前半よりも上げることで新潟のCHを未然に捕まえようとする形を増やしていく。喜山が前に出て島田を掴まえ、白井が後方でカバーする縦関係の2CHという趣だっただろうか。CHがポジションを上げたことで、SHの徳元(早い段階で木村と交代)や宮崎幾も内側の高い位置から新潟の縦パスを牽制する形が見られるようになっていった。

 前半以上に新潟がボールを運べなくなると、当然岡山がボールを持つ時間も増えてくる。不器用なりに最終ラインの井上や安部、喜山からボールを運んで前進させようとする姿勢は前半から継続。前半の途中からであるが、新潟が喜山や白井のところにボールが入ったときに寄せに行く形を作ることがなかなかできていなかったので、特に喜山のところから内側のエリアにポジショニングするSHに縦パスを入れて、そこからSBが高い位置を取る形を作ることができていた。前半は攻撃参加が控えめだった廣木も積極的に相手最終ラインの背後に飛び出すランニングを見せるようになっていた。

 物議をかもした判定、というか完全にオフサイドであるのだが、それでも得点として認められた岡山の得点もまさに喜山の縦パスから始まっている。右サイドのスローインから喜山がボールを受けるも新潟の寄せが甘く、前を向ける状態ができると、上門の背後の取る動きに合わせる形で宮崎幾が喜山からの縦パスを引き出す。パスがズレて宮崎幾がリカバリーしようとしたタッチが奇しくもフリックのような形となって、背後に飛び出した、というかオフサイドポジションにいた上門に繋がるとそのまま右足を振り抜いてネットを揺らして1-0。縦パスをスイッチに相手最終ラインの背後を取れた、という仕組みとしては非常に理想的な流れでの得点であった。サイドの深い位置を取っての折り返しだけでなく、こうした形を狙って増やしていけるようになりたいところである。

 ここからは怒り心頭の新潟が選手を代え、立ち位置を変えて前線を増やして岡山のゴール前に迫っていくことになる。交代で出て来た三戸と矢村は、本間が仕掛けるスペースを作ったり、岡山の最終ラインの背後を取る形を増やしたりするという意味で非常に効果的な交代だったように思う。

 岡山は新潟の攻勢に備える形で川本に代えて阿部を投入。リード時逃げ切りの常套策となりつつある5-4-1シフトにシステム変更。いつも言っているが、この5バックシフトはゴール前に籠城するというよりは、堀米が低い位置で受けたときにWBの廣木が中盤の第二ラインと同じ高さを取って、右サイドCBの阿部がスライドしていたように、後ろの枚数を増やすことで安心して新潟の縦パスに対して迎撃に行けるためのシフトと言っていい。ただ隙あらばカウンターを狙うといういつものシフトよりは重心が低めだったのは間違いない。

 終盤は新潟の仕掛ける猛ラッシュにさすがにゴール前に張り付けにされていたが、ポストの力も借りてどうにか粘りきることができた岡山であった。試合は1-0で岡山が勝利した。

雑感

・得点がああいう形でしかなかっただけに勝ち点3に値するか、と言われれば返答は難しいが、それでも勝ち点を獲得するには十分に相応しい4-4-2による守備、ボールを回収してからのボールを持って前進させていく姿勢を見せることができた試合だったと思う。特に守備に関しては、第一ラインとSHの選手たちが動き回るのではなく、新潟のビルドアップを阻害できるポジションを取って、CHや最終ラインに守備の余裕を与える振る舞いを行うことができていた。前の選手が上手くポジショニングできていたのは、当然喜山やCBからの生きたコーチングがあったからなのだろうが。

・それにしても岡山はマイボールのスローインが上手くなっているなと実感する試合でもあった。徳元のショートでもロングでもない中間のスローインありきなのかなと思っていたがどうやらそうでもなさそうで、チームとしてスローインからの展開にこだわっているのかなと感じる。得点シーンもスローインからの展開だったし。

・岡山にとっては結果も内容も上々な試合であったが、やはりチームの日常としての新潟との差、特に何気ないパスのスピードの差は如実に感じた。そして速いパスを日常にしているからこそ、受け手もとっさの強いパスを浮かせることなく止めることができる。強いパスが出たときに岡山の選手、上門や川本あたりがタッチが浮いてしまってリカバリーに終止せざるを得なかったシーンを見て特に強く感じた。

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