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慌てる人はなんとやら~J2第4節 ファジアーノ岡山VSギラヴァンツ北九州~

    制限付きではありますが、ついにサッカー観戦のある週末が帰ってきました。もっとも今年は平日の観戦も多くなりそうですが。Jリーグ関係者、クラブスタッフ、そして再開に尽力してくださったすべての人への感謝の思いを忘れることのないようにしたいと思います。

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

裏返された意図

    立ち上がりの岡山は、イヨンジェや清水をターゲットにロングボールを入れるいつもの形。このロングボールからの岡山の挙動を見ると、この試合は高い位置からのプレッシャーで敵陣に押し込めたいんだ、という非保持時の意図を強く感じるオープニングとなった。
    これは前節の磐田戦、第一ラインからのプレスが満足に行えず自陣深くに押し込められる展開が続いてしまった反省からだろう。それが証拠にこの試合では、SH(上門・白井)やCH(上田・パウリーニョ)の中盤の選手たちがどんどん第一ラインと同じ高さに出ていくことで、北九州の自陣でのボール保持を妨害しようとしていた。

    ロングボール→密集させてのプレッシャーでセカンドボールを拾える時間が続き、シュートにこそ持ち込めてはいなかったものの試合には上手く入れたはずだった岡山。しかし7分、パウリーニョのパスミスから北九州のショートカウンターを受けた辺りから、北九州がボール保持で落ち着けられるようになっていく。そして北九州のボール保持は、前述した岡山の意図を見事に裏返してしまうものであった。

    北九州はCB2枚にCH1枚(加藤であることが多い)が落ちて、最終ライン3枚でビルドアップを開始する。これに対して岡山は第一ラインの脇を起点に使われた前節の反省から、FWが横スライドを積極的にしたりSHが列を上げたりして対応しようとする。ここで邪魔をしたのが岡山の第一ラインの背後にポジションを取った國分と、CHの周囲(=中央~ハーフレーン)にポジションを取った高橋・池元・椿、計4選手のポジショニングであった。國分がハブ役としてボールを叩くので、北九州の自陣でのボール保持が3バック+1枚となって深さが生まれることで運びやすくなる。

    岡山としては國分をCHで咎めに行きたいところだが、自分が出て行って空いたスペースを一列前の選手たちに受けられると、ターンされてからのドリブルで運ばれてしまうのでなかなか行けない。SHを中にスライドさせたいところだが、第一ラインの脇を3バックに使われる。ならSB(椋原・徳元)を上げて迎撃といけば良いが、北九州は大外にSB(永田・福森)をポジショニングさせているのでSBはそこを無視できない。こうなると岡山は前からボールを奪いたくても狙いどころを絞れない。まさに北九州のポジショニングに悩まされることになってしまっていた。

    そして岡山は自陣からのボール保持でも悩みを抱えることとなった。それは雨でスリッピーだからかパスの強弱を誤るシーンが多く、少しずつ出し手と受け手の意図がズレてしまう自分たちの問題に加えて、CH(上田・パウリーニョ)にボールを入れるように誘導しつつ、その実プレーの方向を限定した上でパスカットを狙う北九州の守り方にハマってしまったことが大きかった。これだと北九州は中央でボールをカットしやすくなるので自然とカウンターも打ちやすくなる。CBに田中がいないこともあって後方でのボール保持は安定性を欠き、岡山のビルドアップミスは、そのまま北九州のチャンスへと結び付く形となってしまった。

修正はよりピーキーに

    前半中盤の飲水タイムを挟んで後、ピッチの上には有馬監督からの修正策が施される。その心は「もっと前に」であった。

    まずボール非保持時の修正は、北九州のハブ役の國分のポジションを気にするようにしつつ前からのプレッシャーを強調させた点。岡山は第一ラインの1枚が北九州のボールホルダーにアタック、もう1枚は國分のポジションをケアしつつ、CHの1枚が当たりに行く形を取るようにしていた。北九州がサイドに出せば当然SHが出て行ってプレッシャーをかける。北九州が岡山のCHの背後にパスを入れてきたならば、それは最終ラインの選手がアタックすることで始末を付けることとしていた。

    ボール保持時での修正は、自陣からの1stチョイスを多少アバウトになっても、前線のイヨンジェ・清水をターゲットにした縦へのボールにすることであった。特に下がり目のポジションを取る清水への縦パスを多く入れるようになっていった。
    狙いとしては、岡山の前線と北九州のCB(村松・岡村)との耐久力勝負なら前者に分があると踏んで、岡山がポスト成功orアバウトなクリアでセカンドボールを回収、高い位置からの二次攻撃に繋げていく所にあったのだと思う。27分には縦パスを受けた清水が無理矢理前を向いてのミドル、続けて29分にはセカンドボールを回収した上門がミドル。狙い通りの形で枠内シュートに持っていったが永井に阻まれた。

    ボール保持時、非保持時ともによりダイレクトにゴールに向かう形、相当ピーキーな形による修正ではあったが、北九州にとってはイヤな形を作ることができるようにはなっていったところで前半を折り返す。

そんなに急いでどこに行く

    後半の岡山は、前半途中からの形を継続。どんどん縦にボールを送り、前にプレッシャーをかけていく。縦パスに食らい付いた後藤が敵陣深くまで追いかけていくシーンも見られた。そんなプレッシャーで得たスローインから清水とイヨンジェのコンビネーションでイヨンジェがシュートチャンスを得たり、ロングボールから上田がセカンドボールを回収、イヨンジェ→上田とダブルヒールで繋いで最後は清水がシュートを打ったり、何とか先制点を奪いたいホームチームの気迫が伝わる後半の立ち上がり。

    しかし北九州は冷静に、縦に逸る岡山の穴を突いてきた。岡山が入れる縦へのボールにプレッシャーを与えることで、前に行こうとする岡山の力を空転させる。前輪駆動の岡山を釣り出す形でスペースを利用してボールを運び、スムーズにクロス、フィニッシュの形に結びつけていく。60分に池元→佐藤で攻撃のカードを1枚切った北九州は、直後の61分に先制に成功する。

    北九州の左サイドのスローインの流れから、岡山が清水に縦パスを入れるが北九州がそれをカット、そこから右サイドに展開し一度加藤に下げるとハーフレーンでフリーな状態でファーサイドの椿にクロス→ペナアーク付近の鈴木に折り返してシュート→ポープがセーブしたこぼれ球を高橋が詰めて0-1。

    岡山は逆サイドへの展開でブロックを広げられ、加藤の所にプレッシャーをかけられず、そこから芋づる式にマークがズレる形で先制を許してしまった格好である。岡山は62分に清水→斎藤で巻き直しを図るが、その直後に北九州が追加点。

    63分、ポープから徳元へのロングパス→イヨンジェに渡そうとするが北九州がそれをカット、再び加藤にボールが渡ると、最終ラインに戻ろうとしていた徳元と濱田の間を通す縦パス、佐藤が抜け出してポープとの1対1を冷静に沈めて0-2となった。國分に警戒していた岡山を嘲笑うかのような加藤の2ゴールに絡む配球の良さが光った。

    0-2になって以降の岡山は、77分に上門→関戸、白井→山本、83分に椋原→松木、イヨンジェ→赤嶺と前線を入れ替えて何とか得点に結びつけようとする。リードしてからの北九州が442で中央を閉じるようにしたこともあって、岡山はSBを起点にしながらFWやSHが外に流れて高い位置を取ろうとする動きから外→外で運んでいく形を増やしていくが、前輪駆動に傾いた全体のバランスは崩れたまま。北九州にボールを回収されては、外と中を使い分けたパスワークで軒並みボールを敵陣深くにまで運ばれて時間を上手く潰されてしまう。

   終了間際には上田のセットプレーからゴール前のチャンスを作ったものの結局は無得点。岡山は今季初黒星&無得点試合となってしまった。

総括

・中央を使えるときは中央を、サイドから運ぶときはサイドと、当たり前のようにボールを散らしていく北九州のボール保持での錬度の高さが光る試合となった。そこにスペースを穿っていくことのできる高橋や椿、途中出場の佐藤といった個人が確かに機能していることが素晴らしい。
またボール保持だけでなく、最初は岡山のCHへのパスに狙いを定め、縦に速くボールを入れるようになったらそのターゲットに狙いを定める非保持時の振る舞いは流石は名将小林伸二監督といったところか。ボール保持、非保持の両面で確かな強さを持った北九州は相当なダークホースになりそうである。というか上積みがあれば来季のJ1昇格だって狙えそう。

・腰高な、ピーキーなやり方で勝ち筋を見出だそうとしたが、結局はそのピーキーさで自分たちの首を絞めてしまった岡山。そういうやり方にせざるを得なかったのは、自分たちのボール保持の不備。濱田と後藤のCBでは上手くビルドアップできず、上田とパウリーニョに入った状態で既にプレッシャーを強く受ける状態になっていることが多く、ピンポールのようなな形で、時間とスペースの貯金を前線に届けることができずに、結果的に精度の高くないパスになってしまっていた。

・試合を見返していて、北九州の「行くと思わせての下げるプレー、攻撃のやり直しのプレー」の上手さを感じた。一度やり直すことで自分たちの配置を調整し、また相手のブロック形成をやり直させることでスペースを作ることもできる。有馬監督が良く言っている「空いている所を攻める」プレーに関わってくる部分だと思う。

・ここからは再開後3試合を見ての個人的な考察になるのだが、現状、狙いがハマった時とそうでないときの試合内容の不安定さが目立つ。それはハイプレスやそこからの縦に攻め切る2020年の「ハイテンションモデル」はかなり明らかだが、まだ2020年の「ニュートラルモデル」、つまり土台、立ち返るべき形はまだ明らかに見えてきてはいないのかなということ。開幕戦の金沢戦はかなりどっしりした内容だっただけに再開後の良くも悪くも腰高な感じに少しビックリした。保持時、非保持時両面での上田とパウリーニョの要となるべきCHの関係の試行錯誤感、そこから発生している442でセットしてからの狙いどころの設定→コースを追い込んでスライドして奪いに行く守備があまり上手く行っていないことからもそれは明らかな気がする。個人的には昨季の喜山がやっていた役割をパウリーニョにあてがう、それだけで相当内容は安定するし、安定した勝ち点を取れるようになると思うのだが。
ハイプレスからの乱戦がが立ち返る場所です、と言うなら、それは相当リスキーすぎる。「行ったり来たり」の試合展開を嫌う有馬監督がそれはないと思う。もう選手たちの頭には設計図が入っているのかもしれないが、J2の猛者たちに対抗できる強度ではまだないのかもしれない。昨季の夏場以降の好内容は仲間の覚醒ももちろんだが、特に非保持時のカッチリと安定した形を作れていたからこそ。優秀な選手が揃っているからこその難しさもあるだろうが、何とか2020年の「ニュートラルモデル」を見つけたいところだろう。

試合情報・ハイライト

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