おい、決闘しろよ~J2第37節 ギラヴァンツ北九州 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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芋づる式に引き出される岡山

 試合の立ち上がりからボールを持ってガンガン前に人数をかけて攻めてきたのはホームの北九州。ボールを持つときの北九州は加藤が最終ラインに列を下りて、まずは生駒-村松-加藤で3バックを形成して4-4-2の岡山の第一ライン2枚との数的優位を確保、その前に針谷が入ってひし形を作ってボールを動かしていく。ガンガン前に人数をかけるとは書いたが、ただ人数に任せて攻めるのではなく、両SBの藤原と永田は大外の高い位置を取り、2列目の高橋-椿-新垣で内側~中央のレーンを埋めるという、5レーンを自軍の選手で埋めて相手のマークを困らせようとする、いわゆる配置で殴る形を取っている。なおこの形自体はボールを持ったときの北九州の定型みたいなものである。

 北九州のポジショナルな配置に対して岡山は、オーソドックスな4-4-2の陣形から第一ラインのイヨンジェと清水、SHの上門と斎藤で後方でボールを持つ北九州にチェックをかけようとしていた。できるだけ高い位置でボールを奪おうとする意図自体はいつも通り。ただこの試合では有馬監督からの指示があったのか、第一ラインのイヨンジェと清水はサイドまで追いかけるということはせずに基本的に中央のエリアにステイ、北九州の3バックから針谷への縦パスが入らないようにすることを最優先にしているようだった。そのため、縦へのプレッシャーのスイッチは第一ラインのチェイスではなく、SHが高い位置で捕まえようとした動きをスイッチにしているようであった。イヨンジェと清水が、どちらも自分からプレスのスイッチをかけられるタイプではない(⇒相方のチェイスに合わせて動くタイプ)というのもあったとは思う。

 このような岡山の守り方を考えると、高い位置で守ろうと思えばプレッシャーのスイッチやカバーリングの業務など、SHもそうだが、CHの上田とパウリーニョも含めて中盤の4枚が相当気を配り、それぞれがある程度広いエリアを管轄する必要がある。そのため第一ラインの2枚は、北九州のボールの動きを追いかけ回すことはなくても、最低限相手の3バックのボール出しの方向の制限はかけておかないと中盤の守備が相当厳しいことになってしまうのだが、この試合は立ち上がりから北九州のボール保持に自由を与える守備をしてしまっていた。

 岡山のイヨンジェと清水の第一ラインはとりあえず中央を埋めるようにしているものの北九州の3バックのパスコースの限定をかけることができず、自由に縦パスだったり大外への大きな展開だったりを許してしまっていた。さらに問題だったのは、中央を埋めて針谷へのコースを消しているはずが消すことができておらずに何度も最終ライン→針谷という縦の出し入れを許してしまっていたこと。これによって岡山の中盤のカバー範囲はさらに広がることになってしまい、中盤の背後や中間ポジション(=岡山のCH-SH間)にポジショニングする北九州の選手を捕まえることが難しくなっていた。

 このような守備の不備から、何度か内側~中央にポジショニングする高橋や椿、新垣あたりへの縦パスを許してそこから攻め込まれるシーンを迎えていた岡山。こうなると失点は時間の問題だったのだが、21分、生駒の縦パスから高橋が新垣にレイオフ、高橋からのレイオフパスを受けて仕掛けるスペースを得た新垣がそのままペナ付近まで運んで左足を振って北九州が先制に成功する。この失点における、個人的に考えた岡山の守備の問題は下記の4つ。

①清水は一応生駒に寄せに行ってはいるものの全くパスコースを制限できておらず、簡単に縦パスを許す
②その前の生駒と加藤のパス交換でカバーに行かないといけなかった上田が引き出されており、中央エリアをパウリーニョ1枚でカバーする必要があり、新垣と高橋のパスコースを2つとも消すのは不可能
③結果として全くカバーできていなかった高橋へのパスコースが空き、これに対して遅れて阿部が詰めに出たことで、阿部の背後のスペースが空いてしまい、レイオフを受けた新垣のドリブルコースを与えてしまう
④前線の鈴木が濱田や徳元の最終ラインに仕掛ける動きをしていたので、詰めることができずに新垣のシュートを許す

 立ち上がりからの守備の問題を修正できずに失点まで許してしまった岡山。飲水タイムを挟んでの修正は、SHの上門と斎藤が詰めに出る頻度を少し減らして、第一ラインのイヨンジェと清水の動く範囲を少し広げる(⇒北九州の3バックに対する向きの制限をさせる)ことくらいで目に見えて改善されたという感じではなかったが、先制に成功したことで北九州の攻撃のハイテンポ感が少し落ちたこともあって、飲水タイム後の岡山は立ち上がりよりも攻め込まれるようなシーンは減ったと思う。

狙いはSB裏

 立ち上がりからの北九州の大波を一応は凌いだ岡山(失点したので凌げてないけど)。時間の経過とともに自分たちが攻め込む機会も少しずつ増えていくことになるのだが、岡山の攻撃の狙いとして設定していたのは北九州のSB、藤原と永田の裏にできるスペースだったように思う。

 前述したように北九州は自分たちの攻撃の形を成立させるために、かなりの人数を前にかけて攻めてくる。そのため攻撃時にSBが高いポジションを取るので、岡山がトランジションからのカウンターを発動するときにSBの背後に広大なスペースができることになるのだが(⇒対策として即時奪回のためのカウンタープレスは仕込んである)、実は北九州はボールを持っていないときもSBをかなり上げて守ってくる。人への意識を強く守ってくる来た北九州は、岡山がCBの濱田と阿部、CHの上田とパウリーニョでボールを持つときに、第一ラインの鈴木と高橋、中盤サイドの椿と新垣がかなり強めのプレスを仕掛けてくるので、横幅を取っている椋原と徳元に対してSBの藤原と永田がそれぞれマッチアップするために前に出てくるというわけである。北九州の守備は、このようにして後方に出来上がる結構広大なスペースをCBの村松と生駒(+余っているSB1枚程度)でカバーする必要があった。

 岡山としては、自分たちがボールを持っていないときにイヨンジェと清水をあまり動かしてこなかったのは、ボールを持ったときに前線を手早く北九州のSBの背後のスペースに走らせるということと、前線が北九州のCBと数的同数に近い状態で起点を作るようなムーブを起こし、SHの斎藤や上門を攻め上がらせる時間を作ることの2つの狙いがあったのだと思う。後ろでボールを持ったときの岡山の選択は、基本的に前線やSHの選手が縦に走れるスペース(⇒前述の背後にできるスペース、相手CBとの走り合いに持ち込めるようなスペース)ができたときにシンプルに長いボールで走らせるというものであった。ただし、あまりに簡単にボールを蹴っていては北九州のSBを引き出してスペースを作れないので、なるべく北九州に横幅を意識させるようなボールの動き(⇒CB-CH間でのボール保持から徳元や椋原への展開で北九州のサイドを高い位置に引き出す)を見せようとしていた。

 このようにしてサイドの高い位置を取ることができたときの岡山は、サイドからシンプルにクロスを上げる形を多く狙っているようだった。サイズ的には岡山の方に分があるので、クリーンにクロスが合わなくても外に出てのスローインだったりCKだったりで、サイズ勝負に持ち込みやすい機会を多く作ることができればそれでよし、という考えもあったのだと思う。実際に前半は右サイドからのスローインの展開でペナ内にボールを持ち込んで決定機、という形が3~4回はあった。特に椋原のスローイン→清水または斎藤が戻して椋原がクロス→ゴール前でイヨンジェが詰める、という形は何度も見られていたのだが、イヨンジェのシュートは枠を外れたり、永井の正面だったりでゴールには至らなかった。

 岡山は立ち上がりの一方的な北九州の流れから巻き返すことには成功したものの、スコア上は1-0で北九州のリードで前半を折り返すこととなる。

プレスをかけて、デュエルで奪う

 後半開始から、前半のパフォーマンスは悪くなかった椋原に代えて下口を投入した岡山。後半の立ち上がりの展開は、岡山が後方の濱田やポープあたりの選手が縦に早くボールを送りすぎるあまりに北九州にセカンドボールを回収されてカウンター気味に攻め込まれる、というようなシーンが目立っていた。ターゲットとなるイヨンジェや清水がなかなか収めることができず、後方からの押し上げるプレッシャーも間に合わないで、相手に攻め込ませるようなスペースを自分たちで与えていたという感じであった。そんななかで簡単に蹴り出そうとせずに、なんとか一度落ち着かせようとしていた阿部の振る舞いには好感が持てた。ただ遠くに飛ばすキックに自信が無かっただけなのかもしれないけど。

 実は前半の終わりぎわ(40分過ぎ)から、北九州のボール保持を高い位置で捕まえる回数を少しずつ増やせていた岡山。後半も立ち上がりのバタバタした展開をしのぐと、第一ラインのイヨンジェと清水が北九州の選手をサイドに逃がすようにチェックし、SHの上門や斎藤がプレッシャーのスイッチを入れる守備を敢行。第一ラインとSHの動きを起点に、上田やパウリーニョがボールサイドに対して積極的に横スライドを行い、徳元や下口も縦に積極的に詰めに出ることで北九州のボールの動きを狭めることができるようになっていった。CBの濱田と阿部もラインをできるだけ高めに設定、縦に出てきたボールに対して積極的に潰しに出ることで北九州の攻撃回数を減らすことに成功していた。

 後半になっての北九州の攻撃が停滞気味になっていったのは、岡山の守備の修正もあるが、北九州の交代策の失敗も大きかった気がする。左サイドの椿と永田に代えて町野と野口を投入、町野が中央に入って新垣が左に出たのだが、鈴木と町野の前線が張り付き気味になってしまい、岡山の4-4-2の中盤と最終ライン間を広げることが難しくなっていった。そのため岡山はあまり迷うことなく縦に出ることができるようになっていった。

 北九州のボールの動きをサイドに追い込み、追い込んだところでSH、CH、SBがそれぞれ連動してデュエルを仕掛けることでミドルゾーンから高い位置でボールを回収する回数が増えていった岡山。66分の同点ゴールも右サイドでボールを奪ってからのカウンターを発動させた形からであった。右サイドで斎藤-上田-下口が北九州のコースを制限、バックパスに対して斎藤がボールを奪い取ると自らドリブルで運んでカウンターを発動、ペナ内に走り込んだ上門にパスを通すと自ら持ち込んで永井を外してゴールを決めた。

 同点に追い付いた岡山は赤嶺、山本、関戸の3枚替えを行いさらに攻勢をかけようとする。75分以降はお互いにスペースを埋められなくなっていったので、自然とオープンな展開で攻め合いのようになったのだが、そんな攻め合いで展開をコントロールし、優勢に立てていたのはどちらかというと岡山の方だったと思う。赤嶺と山本にシンプルにボールが収まる回数が多く、そこからパウリーニョあたりがボールを引き取り、大外の高い位置を取れるようになった徳元や下口に展開してそこからクロスを上げる形だったり、セカンドボールを上門が奪い取って自ら仕掛ける形だったりで北九州のゴールに迫る回数を多く作ることができていた。

 しかし、ATの徳元のクロス→松木が飛び込んでこぼれ球を山本が頭で詰めるもポストに嫌われた形を含めて次の得点を奪うことはできず。試合は1-1の引き分けで終了した。

総括

・ボールを持って攻め込むときのポジショナルな展開は前半戦同様に素晴らしいものがあった北九州。後方から縦パスを打ち込むときに、2列目の高橋-新垣-椿のポジショニングが同じ列に並んでいるのではなく、少しずつ縦にズレているのがどこの選手が誰にチェックに向かえばいいのかを絶妙に迷わせており、その点が非常に面倒臭かったなと。内側や中央への縦パスを意識させたところに、加藤や生駒あたりから大外の藤原と永田に対してのサイドチェンジが飛んでくるのもまたにくい演出だった。ただ相手の泣き所になるような配置をしているだけでなく、ボールを受けた選手のターン技術だったり、ボールを離さないで仕掛けることのできる技術だったり、質的な部分でも岡山の4-4-2に対して非常に刺さっていたように思う。ただ、そんなポジショナルな攻撃のトレードオフになる部分(⇒後方の人数が少なくなりがちになるところ)を思いっきり殴られるような展開もそれなりに多く、結果として勝ち切れなかったというのはそれはそれで妥当だった気もする。

・そもそも岡山の4-4-2守備と北九州の攻撃のやり方は噛み合わせが悪い上に、第一ラインの守備の役割を明確にできなかったことで主導権を明け渡して、4-4-2の泣き所(⇒中間ポジションを取られること、中を閉めると大外が開いてしまう)と、ドリブルで仕掛けられると弱い岡山特有の泣き所の2つを良いように北九州に突かれてしまったような試合の入り方は全くいただけないものだったが、飲水タイムから少しずつ第一ラインの守備を修正して、SHがプレスのスイッチを入れてサイドに追い込んで高い位置で奪おうとする狙いとする守備が時間の経過とともにできるようになっていった岡山。特に中央の選手はケアしないといけないスペースの範囲だったり、カバーしないといけない範囲だったりがかなり広くなりがちなこの試合の守り方で、CBの濱田と阿部、CHの上田とパウリーニョは相当難しい任務だったと思うが、比較的良くできていたのではないだろうか。この4人は、立ち上がりの劣勢状態から試合を壊さずに、最終的にはチャンスを増やして勝ち切れそうな展開に持っていくことができた殊勲者たちだと思う。

・上手く試合が回っている時間帯だったり、この試合の小林監督のコメントだったりを見ると、このチームの強みは「ボールサイドを限定したところでのデュエルで上回る」ことで縦にボールを奪いに行ける部分なのかなと思う。まだ武器とは言い難く、断片的に現れる強み止まりではあるが、ボールを持っているときの振る舞いを含めて「戦略的にデュエルを仕掛けていく」局面を試合の中で意図的にどう増やしていけるか。そこがハッキリとしてきたら十分に武器になりうると思う。そういう意味では、来季に向けての武器探しのヒントになりうる試合だったのではないだろうか。

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