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試合の動かし方~J2第28節 ファジアーノ岡山 VS 愛媛FC~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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愛媛の前線を孤立させる岡山の守備

 3試合続けて(試合開始時)20位台のチーム、つまりJ3降格圏内のチームとの対戦となっている岡山。こういう時に大切なのは、必要以上に相手の順位のことを考えないことだと個人的には思っている。降格圏内のチームを「勝って当然」と思う必要はないし、逆に「こういうチームが一番危険」と相手をやたら巨大に見る必要もない。ニュートラルにその日の相手の状況を見てプレーする、ということなのだが、それが一番難しい。

 本題の試合の話に入るが、前半の立ち上がりは愛媛がシンプルにロングボールを増やしていくオープニングとなっていた。愛媛としてはアバウトな形で良いから敵陣(岡山陣内)にボールを送り込み、岡山が回収しようとしたセカンドボールに対して5-3-2の前5枚のラインでプレッシャーをかけていくのを狙いとしているようであった。少し受ける形となってしまった前半立ち上がりの岡山は、ボールを簡単に手放してしまったり、スペースを埋めきれなかったりと、特に後方で落ち着かないシーンが見られていた。

 やや愛媛のペースで始まった試合だったが、10分を経過したあたりからまず愛媛が後方でボールを落ち着かせる形を作っていくようになる。後方でボールを持つ時の愛媛は、最終ライン3枚(茂木-栗山-大谷)と山瀬と田中が同じ列で形成する2CHの5枚の台形に、GKの岡本が入る形を取っていた。4-4-2で守る岡山に対して後方での数的優位を確保して岡山の第一ラインを突破、そこからボール保持時に2シャドー気味でプレーする石井と近藤に縦パスを通したり、横幅を取る高木や忽那に大きな展開を通したりして前進させようとしているようだった。

 ゴールキックから繋ごうとする姿勢に代表されるように、愛媛は川井氏が監督だった時の杵柄か、後方からボールを動かしていくことにストレスを感じているようには見えなかった。ただそれが狙い通りにボールを前進させることができていたか、ということとは別の話であった。むしろ愛媛がボールを落ち着かせたときには、岡山が上手く守ることができていたと言える。

 ボールを持たないときの岡山の振る舞いはいつもと同じで、上門-川本の第一ラインの2枚から愛媛のビルドアップに対して規制をかけていく。愛媛が3CB+2CHの形でボールを持つことが多かったので、岡山はSHの白井か徳元のどちらか1枚が高い位置を取り、2トップが横に動きすぎない(⇒2CHへのパスコースを与えないため)ようにしていた。また愛媛のCHに対してこちらもCHの喜山やパウリーニョが高い位置に出るアクションを見せることで、中央へのパスを牽制させる狙いを持ったポジションを取っていた。

 第一ラインから川本が愛媛のボールホルダーに寄せたときに、背後のパスコースを消し切れずにパスを通されるシーンは何度か見られてしまっていたが、上手く守ることができていたと前述したように、この岡山の守り方は概ね上手くできていたと思う。愛媛が中央にパスを通そうとしたときに、岡山はCHのチェックと第一ライン(もしくはボールサイドのSH)のプレスバックによるサンドイッチを特に意識して行うことで、愛媛のビルドアップを外回りの形にすることに成功させていた。この形が多くなれば、岡山は4-4-2の3ライン全体をボールサイドにスライドさせてプレッシャーをかけることが容易になる。岡山は愛媛のビルドアップのミスを誘うことで、敵陣でボールを回収→ショートカウンターに繋げる形を取ることができていた。

 このようにボールを持ったときに岡山の第一ラインをなかなか突破できない愛媛。そうなると半ば相手に蹴らされる形で最終ラインからのロングボールが増えていくのだが、ここで石井が下がりすぎてしまうことで前線の唐山が孤立することが多くなってしまっていた。こうして立ち上がりとは異なりロングボールに対するセカンドボールを回収される恐れが減った岡山は、井上と安部を中心に最終ラインで落ち着いてボールを回収する形を増やすことができるようになっていた。

デュークがいなくても運べます

 ここからはボールを持った時の岡山の振る舞いについて見ていく。その前に一度振り返っておきたいのは、中断明けからわずか数試合ですっかり岡山の前線の軸となったデュークがこの試合(から数試合)は使えない、ということである。それはデュークを起点にした、キープして時間を作ってくれることをある程度念頭に置いた周囲のポジショニングだったりボール出しだったりはできないということである。

 そういったことを踏まえて、改めてこの試合の岡山のボール保持を見ていく。デュークがいたときもロングボール一辺倒というわけではなかった(⇒長短のバランスを意識していた)のだが、デュークがいるときと比べると明らかに後方からのロングボールの頻度を減らしてボールを前進させようとしているのが、全体の意図としてうかがうことができた。

 5-3-2で守る愛媛に対しての岡山のビルドアップの基本型は、梅田へのバックパスを組み込んでのいつもより井上と安部の2CBの距離を横に広げたところにパウリーニョが適宜列を下りるようにしていた。最終ライン3枚というよりは2CB+1のような形と言って良いと思う。岡山がこのような形で後方でボールを動かすと、愛媛は第一ラインの唐山と石井がボールホルダーにチェックに向かい、中盤の3CHもそれに合わせて前に出るようにしていた。愛媛は前から人を噛み合わせてできるだけ高い位置でボールを奪おうとする意図があったのだと思う。

 このように前から捕まえようとした愛媛のムーブに対して、岡山は愛媛の3CH(山瀬-田中-近藤)の周囲に喜山や白井、徳元あたりがポジショニングし、そこにパスを入れたところから前進させることができていた。岡山が後方でボールを動かしていくと愛媛の中盤はサイドにも出ていくのでどうしても中盤でスペースを埋めきれず、岡山は空いたスペースをこうして使うことができていた。また岡山は横幅を取っていたSBの宮崎と河野が愛媛のWBが出ていくか出ていかないか微妙な、中間的なポジションを取ることができており、これもまた愛媛の中盤に難しい選択(⇒SBにボールが出たときに自分たちが付いていくべきか、WBを上げさせるか)を迫ることができていたように思う。

 この試合、岡山の前の4枚(前線の川本-上門、SHの白井-徳元)は特に前半、愛媛の5-3-2の内側~中央の各ライン間でボールを引き出そうとする動きを多く行っていた。デュークが前線にいるときはまずデュークで起点を作り、それに応じて背後を突いたりサイドに流れたりするようなポジションを取るようにしていたが、この試合ではそうではなく自分たちがまずボールを受けて起点を作る、デュークのしていたタスクを按分するような形が見られていた。ただSHの役割分担としては、白井が下がり目のポジションで後方からボールを引き出そうとする動きが多く、徳元がその分愛媛の最終ラインの背後を取ろうとする動きを増やしているようであった。

 敵陣にボールを運んでいったときの岡山は、大外でSBがボールを持てたときもシンプルにクロスを入れる(⇒デュークがいるときのメイン攻撃の一つ)のではなく、前の4枚が比較的内側~中央のエリアで距離を近くしてポジションを取るようにしていたこともあって、愛媛の5-3の間のスペースに上門なり川本なりが入ってそこに斜めのパスを入れる形から打開していく展開を増やそうとしていた。また大外から前進したときも、グラウンダーのマイナス方向の折り返しを意識して増やしているようであった。デュークがいない分、シンプルにクロスを入れても脅威が少ないということなのだろう。

 このように前半の岡山は、デュークという前線の軸がいないならいないなりで、後方からボールを運んで愛媛の前の3-2の選手を引き出すことでスペースを作り、そこにパスを通すことで前進させていくという手段を見出だし、そこから実行に移すこともできているようであった。ただ、良いポジションを取れていてもそこにパスを出しきれなかったり、パスが通ってもボールを止める方向やボールを受ける身体の向きが良くなかったりで、ボールを運んでいく試行回数に比べて上手く行った回数はそこまで多くなかった。こうして前半は0-0のスコアレスで折り返すこととなった。

愛媛の修正と雑になってしまった岡山

 後半開始から手を打ってきたのは劣勢だった愛媛。實好監督は選手を代えずにやり方、守り方に手を加えてきた。前半はかなり前に出ていく、それこそサイドにまで出ていくこともあった中盤の3センターだったが、それをできるだけ中央から動かさずに5-3のブロックを中央で固めるようにした。前半のやり方が實好監督の考える理想とすれば、後半は応急的なやり方ではあるが確実な手を打ってきたと言える愛媛であった。

 この修正によって愛媛は後ろにカバーリングの人数を残せるようになったことで、岡山の選手を後方から潰しに出ることができるようになる。愛媛は前半よりもマンツーの強度を上げて迎撃を出ることができるようになった。特に愛媛のサイドCBの茂木と大谷は人に対する意識が強いので、このやり方はハマっていたと言えるだろう。

 このような後半になっての愛媛の修正に対して、岡山の振る舞いがどうだったのかというと、特に有効な手立てを見出だすことができていなかったのが現状であった。岡山の後方からのボール保持に対して愛媛が前から捕まえに行く形があまり見られなくなった分、井上と安部(+梅田)だけでボールを持つ時間が増えて、前にポジションを取る、というよりも前に張り付く形が多くなってしまっていた。中盤を含めた前の選手としては「もっとボールを運んできてほしい」と思っていたのだろうし、後ろとしては「もっとスペースを作って引き出す動きをしてほしい」と思っていたのだろう。個人的にはどちらももっともなことだと思う。どちらが違う、ということではない。

 前の選手も後ろの選手も、愛媛のブロックを引き出そうとする動きが前半に比べて明らかに減ってしまった後半の岡山。愛媛の5-3-2のブロックが動かせていない状態でボールを前に進めようとすれば、前にボールを付けようとしたところでマンツーの強度を上げてきた愛媛の迎撃に合ってしまうのは必然。宮崎が下りてきてボールを落ち着かせていこうとするアクションを見せてはいたが、岡山が前半のように落ち着いてボールを運んでいく形を出せないでいると、愛媛は低い位置でボールを回収してからのカウンター気味の攻撃を増やしていくことができるようになっていった。

 後半の愛媛の攻めで厄介だったのは、後方でボールを落ち着かせるのではなくシンプルに早い段階で大外のWB、左サイドの高木や右サイドの忽那に展開してそこから進めていく形を増やしていったこと。岡山のやり方、守り方としてまず大外は捨てているので、簡単にサイドを使われると比較的ズルズルと前進されやすい一面がある。また、愛媛としては岡山が人数をかけている分前にスペースができているので、オープンな展開で生きる近藤や途中投入の川村、榎本にはかなり好都合な展開となっていた。実際に後半になっての愛媛は、カウンター気味の展開から榎本のドリブルでチャンスを作っていた。

 自分たちで愛媛の望むようなオープンな状況を作ってしまっていた後半の岡山。それでも途中投入された齊藤や木村あたりが自らボールを持って時間を作って落ち着かせることができるようになると、ようやく中央を固める相手への定石である、大外からのボール前進という形を出せるようになる。ここまでにかかった時間はおよそ25~30分。あまりにかかりすぎである。岡山はそうなればそうなったで今度はゴール前のパワーの問題が出てくる。栗山を中心にゴール前に人数をかける愛媛に対して、岡山はなかなかボールをペナ内に入れることができず、枠に入れるのが難しいようなシュートで終わる(というよりはシュートに逃げる)ような攻めがほとんどとなってしまっていた。

 90分近くになってやっとペナ内に強引に入る形を出してきた岡山であったが、愛媛のブロックをこじ開けきれず。逆にラストプレーで榎本のクロスに唐山が頭で合わせての大決定機を愛媛に与えることとなってしまった。この唐山のシュートを右手で止めた梅田は、これだけでこの試合のMOMと言って良いだろう。こうして試合は0-0のスコアレスで終了した。

雑感

・5-3-2のブロックを中央に固めてきて、マンツーの強度を上げて迎撃の形を取ってきた後半の愛媛に対して、前半のやり方が効かなくなっていた岡山だが、途中投入された齊藤や山本がサイドに流れて起点を作ろうとしたこと、シンプルに木村が大外に広がってそこからボールを受けようとしていたことは、チームとして上手く行っていないことをどうにか改善しようとする考えが見えたのでそこは良かったと思う。ただ本文でも書いたが、個人的には選手交代なしでもこれくらいはピッチ内での判断が欲しかったかなとも思う。相手の修正の対策として、そこからスコアを動かすにはちょっと遅すぎた。

・前半に見られたボールの運び方、前進のさせ方は、地上戦の徹底という意味で有馬監督の言う「デュークありきのチームではない」というのが良く分かったし、個人的にはかなり好感が持てる内容でもあった。ただ地上戦にこだわるあまりに、大外への大きな展開が少なかったり、背後を取る形が少なかったりしたのも事実。デュークがいるときもそうだが、ボールを持ったときの長短のバランスをどう取っていくか。そして試合の運び方として静から動へ、動から静へ、攻守で落ち着かせる時間を多く作ることができるようになっているだけに、そこから自分たち主導でどう試合を動かしていくかは勝ち点3を増やしていくのにも必要なポイントになってくるだろう。

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