ただの消化にしないために~J2第35節 松本山雅FC VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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松本の手の上で踊る岡山

   岡山のポープ、松本の村山と、お互いのGKからのロングボール(ゴールキック)からプレーが始まる展開が多かった立ち上がりの10分。これはここ数年の岡山-松本のマッチアップだとよくありがちな展開なわけだが、この展開だとボールの落ちそうなエリアに人が密集して、そこでセカンドボールの拾い合いになることが多くなる。立ち上がりは岡山が、ポープのキックから前線のイヨンジェと斎藤が競ったボール、または村山のキックから最終ラインの田中や濱田が競ったボールに対して中盤の4枚だったりボールサイドのSBだったりがしっかりとセカンドボールへの圧力を高めて回収、そこから敵陣深くに運ぶ形を作ることができていたと思う。

   岡山のこの試合の入りは決して悪くはなかった。そう挙げることのできる理由の一つが、松本が中盤で佐藤だったり前貴だったりがボールを持とうとしたときに、岡山は例えば第一ラインのイヨンジェや斎藤がプレスバック、そこに中盤のパウリーニョや上田、ボールサイドのSH(上門か野口)が前に出てプレッシャーをかけることができていたこと。つまり、プレッシャーをかけに行くのに適切な距離を保つことができていたということである。

    立ち上がりの10分を過ぎたあたりから、岡山は後方からのロングボールだけでなくCBの田中や濱田がボールを持つ時間が長くなるのだが、この動きが多くなったことで岡山は試合の主導権を松本に渡すことになってしまう。この試合で後ろからボールを持とうとしたときの岡山は、田中と濱田が松本の第一ラインの阪野とセルジーニョを突破するような動きをほとんど起こすことができていなかった。松本は第一ラインの2枚が前から追っていくというよりは、CB→CHの上田やパウリーニョへの縦へのパスを切るようにしてサイドに誘導させるように守っていた。

    このシーズンを通してボールを運ぶ形を作っていこうとしている岡山は、ボールを持ったときの優先順位としてはCBやGKからの縦パスをスイッチに、主に前線やSHの選手たちが相手最終ラインの背後を取っていくことが第一なのだが、次の順位としては横幅を取るSBをビルドアップの出口に設定してサイドに展開して運んでいこうとする。この試合でも岡山は松本の背後を取っていく形が難しいとなると、田中や濱田からシンプルに大外のポジションを取る徳元や椋原への展開を狙っていたのだが、岡山のこの形こそ松本の狙いとするものであった。

    岡山の最終ラインが松本の第一ラインの阪野とセルジーニョの守備を突破できない状態でSBに展開したことで、松本はWBの鈴木や浦田がボールを受けようとした椋原や徳元にマンマーク気味にプレッシャーに行くことができていた。またインサイドの前貴と杉本は、上田とパウリーニョへのパスを警戒しつつ、内側にポジショニングする上門や野口をマークするようにしていた。タッチライン際でプレッシャーを受けながらボールを受けてもなんとかできる椋原と徳元であったので、岡山はサイドのエリアで失うということ自体はなかったものの、サイドに展開しても内側にボールを入れる形も、前線をサイド奥に走らせようとする形もなかなか作れず、結局最終ラインに戻してしまい、バックパスを受けた田中や濱田が松本の選手のプレッシャーをより強く受ける結果になってしまっていた。

    松本が先制に成功した18分のセルジーニョの得点シーンはまさに松本の狙いとする守備からの得点であったと言える。このシーンでは野口に対して鈴木がマークに付いてパスカットする形であったが、ポープ→濱田でボールを落ち着かせようとして濱田から野口に出そうとしたボールを高い位置で松本がカット、そこから杉本→セルジーニョとショートカウンターを打つことに成功した。

    岡山はパウリーニョが列を下りることで最終ライン3枚でボールを持とうとしたり、SHがサイドの低い位置に下りて松本のマークを混乱させるようなポジショニングをしようとしたりしてはいたのだが、中央で5-3-2でブロック守備→プレッシャーをかけようとする松本の守備を中央から引き出す形を作ることはできていなかった。ボールを持ってサイドに展開する形が手詰まりになってしまっていた岡山は、結局前線のイヨンジェや斎藤目掛けてのロングボールが増えるのだが、このボールはミドルゾーンでのセカンドボールの回収を目的とした主体的なロングボールではなかったので、準備の整った大野-橋内-常田の松本の最終ライン3枚とアンカーの佐藤に跳ね返され、セカンドボールも松本に回収される形が多かった。

    また岡山は前線をサイド奥に走らせようとする形もなかなか作ることができていなかった。まずそういうボールを出すための準備ができず(⇒前述の岡山のボール保持と松本の守備の狙いの噛み合わせのため)、数少ないなかでそういう形を作れても松本のCBにしっかりと対応されてしまっていた。それでも強引にCKにまで繋げようとしていた斎藤の体術は流石であったが。岡山は立ち上がりの10分以降、完全に松本にハメられている展開を打開できなかった前半となってしまった。

力押しで光明を見出だすも

    岡山は後半開始から野口に代えて関戸を投入。この選手交代が流れを変えるということは全くなく、後半の試合の入りも松本の優位は変わらない状態であった。ポープのボール出しを見ても明らかだったように、岡山は後半になっても後方から繋げようとするのだが、ボールタッチのミスといったスキル面のミスはもちろんなのだが、ボールを受けたときの自ら相手のプレッシャーに追い込まれるような身体の向きであったり、ボールを持っていない人間の受ける準備が明らかにできていないことが分かるようなリアクションだったり、特にプレー判断でのイージーなミスを連発してしまっていた。パウリーニョが後方の選手に「もっと持ち出せ」というようなアクションを起こしても、頑なにそこから前に運ぼうとせずに、結局苦し紛れのロングボールを出してしまう田中というようなシーンは見ていて苦しかった。

    そのため松本としては、自分たちから相手を動かしてスペースを生み出すような工夫をしなくても、岡山がミスをしてボールが自分たちに渡ったときには既に岡山の陣地で大きなスペースができているような状態であったと思う。ボールをカットした松本は、特にポジションをフリーに動くセルジーニョがボールを受けてキープ、そこから選手が敵陣深くに走り込むというショートカウンターの形を発動、あわや追加点というシーンを複数作り出すことに成功していた。

    試合の潮目が変わり出したのは60分過ぎくらいか。この時間帯は岡山が前線に、松本の最終ラインと意識的に競らせるようなロングボールを増やすようなプレーが多くなっていった時間帯。前線の選手が競り合いつつ、上門が松本の最終ラインの背後を取っていく動きを増やしていった。このロングボールの多様によって、ミドルゾーンでの岡山の選手たちの人口密度が高くなったことで、岡山はロングボールからのセカンドボールを前向きに、より高い位置で回収することができるようになっていった。松本の第一ラインからサイドに追い込むようなプレッシャーが減っていったこともあって、岡山はセカンドボールを回収してミドルゾーンから敵陣に押し込む前進手段をようやく見つけることができるようになっていった。

    この試合での岡山にとっての最大の決定機だったのは67分。ロングボールからのセカンドボール回収で押し込む形を作ると、田中がハーフライン付近の高い位置から松本の最終ライン背後にロングボール、上門が抜け出す形を作って村山との1対1という局面を作ることに成功したシーンであった。しかし上門のシュートは村山のファインセーブに遭ってしまった。

    岡山は(運動量補填もあるが)より前線でのターゲットになりうる赤嶺と山本を同時投入。時間の経過とともに後ろで耐える選択をするようになった松本の振る舞いもあって、ロングボールからのセカンドボール回収、そこからサイドに展開して高い位置を取った徳元や椋原あたりがペナ内に放り込む形を増やしていったのだが、守ると決めた松本の自陣での守備の集中を削ぐことはなかなできず、フリーの状態でシュートを打つ形を作ることはできなかった。岡山は敵陣で手詰まりになったところで打開できるカードを切ることもできず、押し込んではいたもののただ時間だけが過ぎていくという感じであった。

   試合は0-1で松本が勝利。対岡山戦でいうと7年ぶりの勝利だったらしい。

総括

・ボールを持った相手の狙いを定めての第一ラインからのプレッシャー。それが難しくなったら自陣に撤退してのブロック守備。自分たちの攻撃は相手のできるスペースをシンプルに突くことで少ない攻撃機会の濃度を高めていく。前半戦の迷いの多かったチームとは打って代わってこの試合での松本は、数多くのJ2チームを苦しめ、さまざまな異名を付けられていたあの時の「らしさ」が戻ってきたようなチームであった。あの眼鏡監督がいなくてもこれだけのサッカーをするということは、「松本らしさ」のアイデンティティというのはもはやこういうことなのかなとも思う。佐藤や前貴、杉本あたりのクオリティの高い中盤がシンプルに相手のできるスペースを突くサッカーをするというのは相手から見ると厄介きわまりないものである。

・岡山は結果的に言えば、前半の立ち上がり10分間に主導権を握って試合を運ぶヒント、というか答え(⇒ミドルゾーンでの密度を高めてセカンドボールを回収することを狙いとしたロングボールを多用する)があったわけで、それに再度気付くまでに前半の大半と後半の半分近くを費やすことになってしまったということになる。相手の第一ラインを動かせず、後方から相手のチェックを引き付けて運べるスキルが不十分にも関わらず、松本の準備の整った守備に突っ込む形で相手の狙いとするサイドでのプレッシャーをモロに受ける展開を自分たちで作ってしまったのは、端的に言って「相手を見てプレーすることが全く出来ていなかった」と言わざるを得ない。そういう意味では、大敗した長崎戦より不満は大きいかもしれない。

・そういう攻め(⇒ロングボールからのセカンドボール回収で押し込む形)に終始するには、連戦中の体力面を考慮する必要があるというのも分かるが。それならそれで、松本にボールを持たせてしまうというのも、この試合を勝つということだけを考えたらありだったかもしれない。実際問題、こちらの守備の準備ができている状態では最終ラインの濱田も田中も判断のエラーは全くなく、しっかり守ることができていた。

・ただ、この敗戦で昇格が消滅したというような状況(⇒そもそもこの試合前から来季のディビジョンがほぼ決まっているような状況)で、ただこの試合を勝つだけの選択を有馬監督がしたくない、ボールを持てるならそのボールを持つ形で試合を運びたい、来季に繋げる試合をしていきたいというのも分かる。ならば、どこまで相手のプレッシャーに対してボールを運んで敵陣に攻め込む形を発展させるのか、来季に向けた課題はどこにあるのかを徹底的に見つける、そういう残り試合にしてほしいと思う。

試合情報・ハイライト


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