見出し画像

2024年3月期自動車メーカー決算記事の前説

※すぐ各社の分析をお読みになりたい方はこちらからどうぞ

トヨタ自動車(トヨタ)2024年3月期決算
マツダ2024年3月期決算
日産自動車(日産)2024年3月期決算
本田技研工業(ホンダ)2024年3月期決算
スズキ2024年3月期決算
SUBARU(スバル)2024年3月期決算
三菱自動車工業(三菱自動車)2024年3月期決算

 さてさて、ゴールデンウィークもすでに過去の話だが、5月のGW明けは国内自動車メーカー各社の決算発表が集中して、筆者は大変忙しい時期である。ここ3年間追いかけてきたスーパー耐久シリーズのカーボンニュートラルチャレンジでは、この時期に決まってシリーズ最長レース時間の富士24時間がぶち込まれ、スケジュールを3日も持っていかれる。取材に出かける前に完徹で原稿を仕上げ、早朝6:30に担当編集に拾ってもらい、そこから丸一日取材なのでヘロヘロだった。

 さらに今年は有料noteや書籍シリーズの立ち上げまで見事に重なって、アウトオブコントロール状態にある。と、決算記事の掲載が遅れたことに対する見苦しい言い訳はこのくらいにして本題に入ろう。

まずは用語の定義から

 最初にまずは用語の定義である。これは3年前に日経ビジネス電子版に書いた記事を日付も含めて少しアップデートして再掲載する。

直近の決算発表対象の期は23年4月から24年3月までだが、その呼び方の流儀には2派がある。
・「24年3月期」派:トヨタ、スズキ、マツダ、SUBARU
・「23年度」派:ホンダ、日産、三菱自
 なのだが、これから書く7社の記事で各社ごとの呼び方に準拠すると表記に揺らぎが生じて読者が混乱するし、どちらかに統一すると、引用する決算資料の表中の記載と食い違う。面倒なことこの上ない。
 なので、筆者独自のルールを決める。本記事で主題となる23年4月から24年3月の決算期を「当該期」と呼ぶことに決める。よって、5月に各社から発表された決算報告は当該期決算だ。
 一方、4月1日を過ぎている現時点において「今期」とは現在進行中の24年4月から25年3月期のこと。ほぼ「通期予測」にのみ出てくる話なのだが、それを説明なしに「今期」と書くと、読んでいる方が、この5月に発表された当該期の話と混乱しやすいのはわかるのだが、適当な呼び方がなく、この連載では現在進行形の期を「今期」と定義する。
 当該期と比較される直前年度を「前期(22年4月~23年3月)」とする。それより前は頻出しないので、21年4月から22年3月期と具体的に書く。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00240/051900035/ に加筆修正

 もうひとつ、ここで扱う決算は自動車メーカー7社と書くが、日本には商用車メーカーもあるので本当は正確な言い方ではない。せめて乗用車メーカーと書きたいところだが、筆者の感覚では乗用車という言葉は日常日本語的には半ば死語で、ちょっと読む方々にも馴染みが悪い気がする。気の回しすぎかも知れないが、ここはちょっと自動車メーカーと書かせていただきたい。

 「それ以前に日本の乗用車メーカーは、トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、スバル、三菱自動車、ダイハツと8社あるじゃないか」という声もわかるが、ダイハツは2016年8月1日にトヨタの100%子会社になっているので、トヨタ以外に株主はいない。当然法律に従って上場廃止になっているので、以来、決算発表もなくなった。書きたくても書けないのでダイハツは入らない。

 面白い余談だが、トヨタの100%子会社化に際して、ダイハツの株式は、トヨタ株に対して0.26:1の交換比率でトヨタ株に転換されている。交換後の株は元々のトヨタ株と全く同じであり、どこにも「元ダイハツ株」の印はないのだが、トヨタは元のダイハツ株主に対してのみダイハツ部分だけの簡易的な決算発表を行なっているらしい。多分元々のダイハツ株主が転売せずに持っている間だけだろうが、実は筆者はこれもすごく聞きたい。今のところトヨタはどうぞとは言ってくれないが、仮に呼んでくれたとしてもリモート参加は無理だろうから、大阪府池田市まで行かないとならないだろうなぁと。それはなかなか大変である。

 もう一点、全ての会社が自動車専業と言うわけではなく、ホンダやスズキは二輪もあるし、日産とスズキはマリンもある。あるいはスバルは航空も、ホンダにはホンダジェットがある。そしてホンダは汎用機もある。決算と言うのは一社の全事業を含めるものなので、厳密に言えば自動車だけを切り出すのは無理だ。

 例えば二輪、四輪、マリンの3事業があるスズキの鈴木俊宏社長の給料はどの事業にどれだけ按分するかなどは、恣意的に決めるしかない。同様に、経理や人事と言った間接部門、社屋や施設の経費も、福利厚生とかも誰かが決めない限り按分できない。もちろん人為的には按分のしようはあるかもしれないが、逆に言えばその按分によって、特定事業の利益が高く出るように見せることもできてしまう。結局のところ、一社全体で見て良いか悪いかが肝心で、部門ごとの話はあくまでも目安でしかない。

概説は日経ビジネス電子版を

 さて、そしてここからは、7社の決算を見る前に知っておくべき情報である。ところがこれはもう日経ビジネス電子版に書いてしまった。これが従来の商業媒体だと、例えばITmedia ビジネスオンラインの連載で「日経に書いたから読んでね」とはなかなか書きにくいのだが、媒体側の都合がなく自分の責任で書けるnoteはそこが自由。過去記事のリンクを張ってしまえば、何も同じことをもう一度書かなくても良いだろう。この自由さは嬉しいし、ネット記事の本領を発揮できる。全体の流れを崩す細かい説明はリンクを張って、わからない人だけが飛べる様にすることで、文章のリズムがぐっと良くなる。はずである。

 ということで日経ビジネス電子版の記事がこちら(無料・登録あり)

 一応、記事全体ではなく部分だけ参照の場合は上の用語の定義のように、引用する。それとリンクは有料記事には張らないつもりである。もし記事執筆時には無料記事だったのに筆者が知らない間に、先方の都合で有料化されていた場合はご容赦願いたい。

とはいえこちらでもざっくりと

 が、まあリンク先に飛ぶのが面倒な人のために、ごく簡単に書くと、前期は年度の前半で半導体、部品、部品輸送船などが逼迫して工場の稼働が頻繁に止まっていたので、成長率の比較対象となるスタート台が低い。生産が回復したので、普通にやれば生産台数も、売り上げも、営業利益も、営業利益率も全部伸びる。好決算の形になるのは最初からわかっている。ということで、それがちゃんと上手く行っているかどうかを見るのが今期決算の分析をする上で大事なポイントになるのだ。ちらっと数字を見てみよう。

・トヨタ
販売台数 944万3,000台(対前年比 107.0%)
売上高 45兆953億円(対前年比 121.4%)
営業利益 5兆3,529億円(対前年比 196.4%)
営業利益率 11.9%(対前年比 プラス4.6ポイント)
当期利益 4兆9,449億円(対前年比 201.7%)
・ホンダ
販売台数 410万9,000台(対前年比 111.4%)
売上高 20兆4,288億円(対前年比 120.8%)
営業利益 1兆3,819億円(対前年比 177.0%)
営業利益率 6.8%(対前年比 プラス2.2ポイント)
当期利益 1兆1,071億円(対前年比 170.0%)
・日産
販売台数 344万2,000台(対前年比 104.1%)
売上高 12兆6,857億円(対前年比 119.7%)
営業利益 5,687億円(対前年比 150.8%)
営業利益率 4.5%(対前年比 プラス0.9ポイント)
当期利益 4,266億円(対前年比 192.2%)
・スズキ
販売台数 316万8,000台(対前年比 105.6%)
売上高 5兆3,743億円(対前年比 115.8%)
営業利益 4,656億円(対前年比 132.8%)
営業利益率 8.7%(対前年比 プラス1.1ポイント)
当期利益 2,677億円(対前年比 121.1%)
・マツダ
販売台数 124万1,000台(対前年比 111.8%)
売上高 4兆8,277億円(対前年比 126.2%)
営業利益 2,505億円(対前年比 176.4%)
営業利益率 5.2%(対前年比 プラス1.5ポイント)
当期利益 2,077億円(対前年比 145.4%)
・スバル
販売台数 97万6,000台(対前年比 114.5%)
売上高 4兆7,029億円(対前年比 124.6%)
営業利益 4,682億円(対前年比 175.0%)
営業利益率 10.0%(対前年比 プラス2.9ポイント)
当期利益 3,851億円(対前年比 192.1%)
・三菱自動車
販売台数 81万5,000台(対前年比 97.7%)
売上高 2兆7,896億円(対前年比 113.5%)
営業利益 1,910億円(対前年比 100.3%)
営業利益率 6.8%(対前年比 マイナス0.9ポイント)
当期利益 1547億円(対前年比 91.2%)

 各社の基本数字を提示したところで、次回以降個社の決算解説に入って行く。

認証試験問題は別途触れます

 と、これにて前口上はおしまいのはずだったのだけど、記事の公開前に自動車会社の認証試験問題が勃発した。もちろんこの話題は避けて通れないのだが、これについては筆者の見立てでは、まだ続報がかなり出るのではと思っている。できれば全貌を確認してから書きたい。ポイントは今後発覚する事案がどの程度悪質かというところ、それによって見方が変わる。とは言えひとまず何かという方は、グーネットマガジンに掲載されている記事を読んでお待ちいただきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?