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星海天測団
2021年10月29日 20:22
吐く息も無いように感じていた。 もちろん、流す涙も欠いている。 心に色はなく。ただ、虚ろに俯く人影が一つ・・・・・・。 それから、もう一つ。 「あ、すみません!」 二人は重なった手をとっさに引っ込めた。 まるで小説のように、同時に商品に手を伸ばし触れてしまうという現象だ。 両者の周囲への認識が著しく下がった状態でしか発生しない極めて希有なそれを経験すると、現象に関わった
2021年10月22日 17:54
秋雨が冷たく降る昼間、二人は和栗モンブラン山に登っていた。 「いやしかし絶景だな」 先頭を歩く陽芽が眼下に広がる、栗の棘大地を眺めながら茶化した様に言った。 「上を見上げらば果てしないけどね」 ため息をついた歌奈の視線の先には、螺旋に絞り出されたクリームの山がある。 振り返ればクリームに出来た深い足跡が一本伸びていた。クリームはまるで雪のようで、溶ければ消えてしまう代物だっ
2021年10月15日 21:14
「今年の秋は、職欲の秋だよ!」 落ち葉が音を立てて地面を転がる、そんな昼休み。 一瞬教室が静まった後、「ごめん・・・・・・」そういって座り直すと教室中で笑いが群発する。 ムードメーカーはこういうのが許されるから良いよなぁと歌奈はひっそりと思う。「んで突然どうしたのよ」 背もたれを股に挟んで対面する陽芽に言う。「いやさ、昨日テレビでアメリカの子はレモネード売るみたいなの見たんよ。
2021年10月2日 18:03
「・・・・・・ということで元素の周期表を来週テストするので覚えてきてくださいね」 普通なら教室中がブーイングの嵐になるテスト予告。しかし静けさはそのままだった。 代わりに響くのは「分かりました、歌奈先生!」という快活な声。 教室に居るのは一人の少女だけである。 快活さの奥に備えた品、ゲーテンバーグ家の一つ花という愛称にも劣らず最高級のドレスを巧みに着こなす彼女の名は陽芽。 ベーテンバ