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秘めやかな。

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日常にぽっかり空いた一瞬の暇な時間。Youtubeも良いけれど、小説を読んでみませんか……?
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額縁持って街に出て

額縁持って街に出て

「寒い……」

背中に大きなリュックを背負った少女が呟いた。

「重い……」

青色のもこもこの服を着た少女が後に続けた。

「額縁、やっぱりいらなかったな」

二人はとぼとぼと東京の夜を歩いていた。

何のアテもなく、風の向くまま、気の向くまま。

目的地の無い旅、そう言えば格好は付くけれど、帰る場所の無い旅、そう言えば寂しさが漂う。

しかし、その旅は孤独では無かった。隣からリズミカルに響く足

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炎と満月の歌

炎と満月の歌

 朝。陽芽は赤色の腕章を隠すようにして電車に揺られていた。
 背負った箒は満員電車の中では相当な存在感を放つ。全方向から差し向けられる嫌悪の視線を感じて陽芽は背を丸めて耐えていた。
 
 
 魔法、それはこの世界における適性であり、適正だ。
 職業や人生を規定する強固な軌道である魔法は多くの者に幸福を約束する一方で、適性と願望の乖離とそれへの納得と諦めの強要を生んでいた。
 
 
「おはよう我らが

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この世界は捨てたもんじゃない

この世界は捨てたもんじゃない

 吐く息も無いように感じていた。
 もちろん、流す涙も欠いている。
 心に色はなく。ただ、虚ろに俯く人影が一つ・・・・・・。
 
 それから、もう一つ。
 
 
「あ、すみません!」

 二人は重なった手をとっさに引っ込めた。
 まるで小説のように、同時に商品に手を伸ばし触れてしまうという現象だ。
 両者の周囲への認識が著しく下がった状態でしか発生しない極めて希有なそれを経験すると、現象に関わった

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和栗モンブラン山

和栗モンブラン山

 秋雨が冷たく降る昼間、二人は和栗モンブラン山に登っていた。
 
「いやしかし絶景だな」
 
 先頭を歩く陽芽が眼下に広がる、栗の棘大地を眺めながら茶化した様に言った。
 
「上を見上げらば果てしないけどね」
 
 ため息をついた歌奈の視線の先には、螺旋に絞り出されたクリームの山がある。
 振り返ればクリームに出来た深い足跡が一本伸びていた。クリームはまるで雪のようで、溶ければ消えてしまう代物だっ

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秋は、職欲の秋!

「今年の秋は、職欲の秋だよ!」

 落ち葉が音を立てて地面を転がる、そんな昼休み。
 一瞬教室が静まった後、「ごめん・・・・・・」そういって座り直すと教室中で笑いが群発する。
 ムードメーカーはこういうのが許されるから良いよなぁと歌奈はひっそりと思う。

「んで突然どうしたのよ」

 背もたれを股に挟んで対面する陽芽に言う。

「いやさ、昨日テレビでアメリカの子はレモネード売るみたいなの見たんよ。

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ベーテンバーグ城の高貴なる一つ花

ベーテンバーグ城の高貴なる一つ花

「・・・・・・ということで元素の周期表を来週テストするので覚えてきてくださいね」
 
 普通なら教室中がブーイングの嵐になるテスト予告。しかし静けさはそのままだった。
 代わりに響くのは「分かりました、歌奈先生!」という快活な声。
 教室に居るのは一人の少女だけである。
 快活さの奥に備えた品、ゲーテンバーグ家の一つ花という愛称にも劣らず最高級のドレスを巧みに着こなす彼女の名は陽芽。
 ベーテンバ

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天降りスライダー

 天降り、それは静止軌道四万キロメートルから惑星表面まで一気に降下する惑星メインスの成人通過儀礼。
 友と二人で行い、その友とは義兄弟として死ぬまで共に生きることになるとされていた。
 
 見上げると黄色い星があった。惑星メインスは黄色砂漠と黄色海に覆われた惑星であり、動植物も擬態するために黄色に進化している。
 陽芽の家はメインス静止軌道にあるステーションのメインス側だった。横の見れば無数の家々

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Dear Your Songs

Dear Your Songs

「はぁ・・・・・・」

 文学少女陽芽はため息を漏らしていた。
 右手に握った落選通知書は作詞コンテストから送られてきたものだった。

――これで何回目だ・・・・・・?

 実のところ、わざわざ通知書を送ってくるコンテスト自体が珍しかった。
 丁寧だな、と思う一方、改めて突きつけられる『落選』の二文字はなかなか心に来る。
 学校一番の歌声との呼び声高い歌奈にどうしても自分の歌を歌って欲しい。陽芽は

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プリティッシュ

プリティッシュ

 平均点が高いこの街のカフェだが、ここは飛び抜けて不味かった。雨と霧の街で不味い紅茶に出会うことはそもそも奇跡のように感じる。
 それでもそれなりに繁盛しているのは、この街の舌が良くないのだろうか。するとこの島のメシマズ伝説を証明することになる。
 そんなことを考えていると奥からカズキが歩いているのが見えた。味は最悪だが、街角にあり古いレンガビルの一階を改装したこの店の見晴らしは最高だ。空襲を生き

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おふとんだいばーす

おふとんだいばーす

 扉を開けるとベビーパウダーのような甘い匂いがあった。
「あ、お帰り」ピンクの毛布に包まった小動物が目をこすりながら言う。
「陽芽はもう寝る時間でしょ?」
 大きな隈を浮かべた歌奈が柔らかにたしなめる。
「でも歌奈が心配で・・・・・・」
 弱々しく発せらた優しさが歌奈の矛を緩めさせた。服を乱雑に脱ぎ捨て、ベッドに飛び込むと、陽芽と抱き合う。
 そこは十二畳の部屋一杯にベッドが敷き詰められた秘密の花

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アヴァンギャルド

アヴァンギャルド

「陽芽ちゃん、援護よろしくっ!」
 部長がスフマート(「煙がかった」という意味の美術技法)で文芸部の追撃を幻惑しながら転進(美術部のエスキース(作品の制作計画を指す美術用語)に撤退の二文字は無いのだ)してくる。
 入れ替わった私は白煙立ちこめる東校舎二階廊下、二-三教室の前で二人の文芸部員と正対する。
「面影や大人びた子の送り盆」一人が押韻(同音を重ねる技法。この句であれば「お」を三回重ねている)

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