『グリム童話ATM』 #毎週ショートショートnote
『グリム童話ATM』
「このカードは使用できません」
ATMは機械的な声でそう言い、キャッシュカードを吐き出した。
何度試してもダメだ。
首を傾げていると、少年が隣のATMにやってきてカードを突っ込んだ。
「残高増えてる!」
少年は高揚した声をあげて、ATMから何かを取り出した。
本だった。
話しかけずにいられない。
「ん?ここは物語のATMだよ? 本に利子がつくのさ」
「り、利子?」
「うん。引き出す時には少しお話が長くなって返ってくるんだよ。色々あるけれど、ここはグリム童話バージョン」
図書カードを握りしめた少年が意気揚々としている。
右手に持っている本の表紙には『ヘンゼルとグレーテルとジョン』と書かれていた。
ジョンが利子なのだろう。
朧げな記憶が蘇る。確か幼い頃、私も母に連れられて本を預けたような……。
古びた図書カードを差し込んでみた。
出てきた本の表紙には『ブレーメンの音楽隊の世界ツアーvol.5』と書かれていた。
これは楽しい。久しぶりに読書でもしてみるか。
(414字)
初めてたらはかに(田原にか)さん主催の『#毎週ショートショートnote』に参加してみました。
字数制限があるものを久しぶりに書きましたが、何を削るか、難しいですね。
以下、創作ノートです。
創作ノート
【『グリム童話ATM』から、直感で浮かんだもの】
お話(グリム童話)が出てくるATM
→図書カードを入れたら、グリム童話が出てくるATM
→利子の大きさによって、お話が長くなったりする
【オチ】
利子が増え、『ヘンゼルとグレーテルと〇〇』『ブレーメンの音楽隊の全国ツアー』みたいなのが出てきて、教訓(あるの?)が変わってしまう
インフレが起きて利子がめちゃくちゃつく。『ヘンゼルとグレーテルとジョンとアーノルドとヘンダーソンとファビーニョとアブラハムと朴と正岡と田中と……』
イソップ童話ATM、アンデルセン童話ATM、日本昔ばなしATMも出てくる
元本が崩れて(不況で価値が低下して)、話が短くなってしまう。
などなど。
一応、グリム童話とそこから連想されるもの、ATMの特徴も思い浮かべてみる。
グリム童話
・赤ずきん、眠り姫、おおかみと7ひきの子やぎ、白雪ひめ、ブレーメンの音楽隊、ヘンゼルとグレーテル
・イソップ童話、アンデルセン童話、日本昔ばなし
ATM
・カードを入れたら金が出てくる
・預金を下ろせる
・記帳で残高確認できる
・振り込める
・給料日嬉しい
・オレオレ詐欺
などなど。
ここで懸念したのが、「カードを入れて童話が出てくるだけだと、自動販売機だなあ……」ということ。
ATMなら、何かを預けるというのが必要なことに気が付く。となれば、本か絵本か。
本を預ける
時間が経つ
利子によって、話が長くなっている
オチ
と、話の流れができた。
ここから盛り込めるかわからないけれど『グリム童話ATM』ができた理由を考えてみる。
パッと思い浮かぶのは
読書離れ、活字離れ解消のため、本屋と銀行がタッグを組んだ or 政府の政策
図書カードのリサイクルのため
ワクワクおじさんが作った
とかかなあ。
要素は出たので、話の細部を具体的に考える。
友人の財布の中に、たくさんの図書カードを発見する。理由を尋ねたら、『グリム童話ATM』を教えてくれる。
本屋で買い物をしていると、少年がやってきてレジ横の使い終わった図書カードをもらっていいか聞く。尾行したら『グリム童話ATM』へ。
ATMでカードが入らない。隣の少年は入る。普通のATMじゃなく『グリム童話ATM』だったからだ。
一番上で清書始めたら字数に収まらないことがわかったので、2番目、3番目の案を試して、なんとか執筆完了。
『グリム童話ATM』ができた理由までは盛り込むことができなかった。
あらためて
たらはかにさん、面白いお題をありがとうございます。
また参加させていただきます!
そしてショートショートを盛り上げる活動を継続されていて、本当にすごいです。参加者の作品を読ませていただき、自分も頑張らないとな、と刺激を受けています。
また以前、拙著も紹介してくださり、本当にありがとうございました!
そして読んでくださった皆様も、ありがとうございます。
ここから宣伝です
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また有隣堂さんのYouTube『有隣堂しか知らない世界』でも、又吉さんが紹介してくれました!
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表紙の画像は、canvaのAI画像で作成しました。
面白いもの書きます!