第8回 データプラットフォーム化、人材育成の場としてのこれからの企業活動 :オリンパス株式会社 佐藤明伸さんと渡邉伸之さんへのインタビュー(後編)

慶應義塾大学SFC研究所ファブ地球社会コンソーシアムデザイン・インクルージョンワーキンググループ(以下、ワーキンググループ)」の活動の一環としてFAB前提社会における企業活動の様相が問われる中、現在に至るまで企業で活動を行ってきた方々にインタビューを実施しました。

連載第7回目ではオリンパス株式会社にて企業活動を推進している佐藤明伸さんと渡邉伸之さんへのインタビューの前編として「Olympus Air」の紹介や「リソースの循環」などのキーワードとともに、現在に至るまでのFAB社会のあり方や、2018年現在実現できているサービスなどについてうかがいました。

連載第8回目はインタビューの後編です。

資源再利用モデルの構築や「住まい」のカスタマイズは加速可能なのか

水野:FAB前提社会においてご自身がやってみたい企画、プロジェクトはありますか。

渡辺:会社が関係ないのであればやりたい事があります。福祉施設との協働です。彼らは空き缶とかペットボトルを集めて、潰して再利用資源にする活動をしているのですが、そこにフィラメント製造機をおきたいとずっと思っています。
実現するためにはフィラメントの機械がもう少し安価になる必要があるとおもいますが。また、ペットボトルの素材の幅をPETからPET-Gとかに増やして欲しいんですよね。2017年に破棄したプラスチックの9割近くが再利用されないというデータが発表されましたが、現状廃棄が多いPETボトル自体は、循環のループのスケールを大きくして見ると回っているらしいんですけど、もっとローカルで小規模に回せる事ができるようになるといいなと思います。

水野:タイが日本の資源ごみの輸入を廃止するニュースが最近出てきましたね。つまりこれは、ペットボトルを含む日本の資源ごみの再利用処理を日本内でまかなう必要が出てきているわけです。
しかし産廃業者が新規事業を日本で展開するには課題があるので、個人個人が小規模で、あるいはそれこそ福祉施設でできるといいのかもしれませんね。

渡辺:一般的なPETボトルの材質をPETからPET-Gに変えるだけでもフィラメント材として性能が良くなり、マテリアルとしての広がりが出てくると思うのですが、現状ではまだハードルが高いかなという感じです。

佐藤:僕は「住」に関する事に期待しています。現状「住」に関してはあれだけ高い投資をする割に不満が多いんですよね。「食」はクックパッドなどいろんなカスタムができていて、FAB的にはなってきていますが「住」はまだまだですよね。田中浩也さんも言っていますが、3Dプリンターの進化の方向として「大きなインフラを安全につくる」というトピックはあると思うので、それらと関連づけながらできたらいいと思います。もう一つは、Olympus Air2ですかね。つまり、半完成体を出してカスタムしてもらうことに再挑戦したいです。写真や映像の発表はいまやInstagramにあげるだけで可能です。個人の表現をすぐに世の中に出せるようになっている中で、撮影するデバイスだけは変わっていません。ここをカスタマイズするワクワク感は絶対あるんじゃないかなと思っています。カメラのカスタマイズについてはビジネスとして出口がないともいわれますが、僕は一連のプロジェクトをやった中で可能性を感じています。

日本独自の特徴について考えると、海外の写真家は「アーティスト」ですが日本は写真家という「職業」なんです。日本では協会に所属したり、コンペで良い成果をだせない人は諦めざるをえないのが現状です。でも海外はそうではなくて「こういう表現をしている」という個人のアーティスト中心なんです。さらに言えば、インスタグラマーのトップ5の人の方が、写真家よりよっぽど写真でビジネス的成功を収めているでしょう。
こうした状況は、個人の写真家の表現を活かせる可能性として捉えられると思います。このようにいままでのカメラ業界とは別の市場が広がっているんだ、といえるようなプロジェクトができたらいいなと思います。

水野:仮にそれを日本の一般企業の中でやろうとしたときに、どのような課題が起こりうるでしょう。そして、どうやったらクリアできるとお考えですか。

佐藤:現状は、投資をいかにしてに効率よく減らせるかという観点でプロジェクトを進めていると思うのですが、カメラ市場をはじめとして小売業界は規模が縮小しているんですよね。その打開案が欲しいのは間違いないので「映像を表現したい人向けの新しいコンセプトの市場をつくる」プロジェクトとして提案できるはずです。これはOlympus Airの経験もふまえてですが、Airのときは会社のビジョンとして「ネットワーク社会への貢献」があったんです。当時はまだネットワークカメラというものはなかったのですが、カメラにおいてもネットワーク機能を持ったモデルは必要なはずだと思っていました。そこで、その中で社会に貢献できる何かをつくろう。というコンセプトだったんです。
ですから、社内にあるリソースを使うから持続性は担保される、かつ市場の縮小への打開策となるようなアイディア提案の仕方をするといったことによって課題をクリアできればと思っています。

水野:そういえばファッション業界の人から、Instagramによって否応なしに仕事のやり方を変えざるをえなくなったという話をうかがいました。しかしソーシャルメディアの台頭によって新しい仕事が興り、古いものが駆逐されるというのは、どの業界でも起こりえることだと思います。渡辺さんは課題としてクリアするべきところはどこだとお考えですか。

渡辺:普通に考えると経済価値にならない部分をどうするかが企業の一番の課題だと思うのですが、現在ではデータそのものに価値があることが広く知られていますよね。たとえば医療とかがそうなんですけれども、ユーザーのデータをセンシングをすることによってデータを集めるとかはできますよね。問題をクリアするときにまで気が付かない事だけど、それはある種「付加価値」になっている、たとえば、デジタルサイネージでアイトラッキング技術が利用されたように、データセンシングをしてフィードバックもらうというのが企業でできればいいかなと思っていますね。また、商品を使ったあとのフィードバックなどがうまく回収できたらいいなということも思います。

水野:つまり、ある種のプロトタイプをユーザーに託してしまってそれを使いこなすということ自体がデータセンシングになっていて、体験後に企業に戻された際によりよい製品が改めてつくれるような仕組みがあるといいですよね。そういう意味でもしかしたら最初のデータセンシング用のデバイスはかなり安いお値段で、たとえば無償で提供してしまっても、そういったことができそうですね。

データプラットフォーム化、人材育成の場としてのこれからの企業活動

水野:こうして訪れるFAB前提社会においては、企業の組織変革や、企業外との連携の仕方、また企業の外にいる個人の新しい生き方や仕事の仕方についても改めて検討する必要があるのではないかと思われます。比較的近未来に、FABは社会の前提になるかと思われます。その際、どのような企業活動が必要になるでしょうか。また、そのような社会の中で現在お持ちのスキルがどのように活かせるとお考えですか。また、BtoB、CtoC、DtoDなど様々なビジネスモデルが出て来ていますが、その中で企業がどのような役割を担う必要があるのかお聞かせいただければと思います。

渡辺:集合知としてのDtoDの話がありましたが、データをやり取りする場合に先方のお医者様がお金をもらえる場合ともらいない場合があるみたいで、こういったコンサルテーションをどのようにやっていくのかを考えなくてはいけないと思います。結局、データや知識を交換できるプラットフォーム制作が企業の担う役割なのではないでしょうか。こういった類の話は、個人だけで解決するのには限界があると思います。
また、レントゲンとかは画像になるのが当たり前のものなので、最初にデータから始まりますよね。なので、データの利用という観点は発想しやすい。しかし、内視鏡のようなものは見てるだけで、体内にカメラを入れているあいだにその場その場で判断するのがいままでのモデルだったんですけれども、今後は内視鏡の映像データ自身をDtoDの仕組みにのせて、専門家の知識やディープラーニングにかけるといったことによって、ある程度判断の指針にしてしまうといった方法が考えられるのではないでしょうか。なので企業の役割はデータの収集方法を提供するということろにも有るのかもしれません。
いまのところ、医療における診断・治療の報酬は直接的にそれに当たった医師らに与えられる仕組みであり、(OSSやGitHubの様な)集合知の流動性には適用していない。今後、患者さんに(集合知による)付加価値(たとえばセカンドオピニオンを取りに行くのではなくて一度に複数所見が取れるなど)というのが出て来たら法律に至るまでを少しずつ変えていく可能性があるかもしれないですよね。現状、特定の部門においては医者の数が足りていないという事を聞いたことがあります。この現状に対しては、ラーニングカーブを上げるか、知識を共有するかのどっちかしかないと思っているので足枷となってしまうような法律に対しても、変化があるといいように思います。

佐藤:僕はこれはすごいことだと思います。参入障壁のシフトが機材ではなくデータの話になってしまうので。仮にこれをプラスに捉えたときには、内視鏡で撮ったデータの共有をしていいですということになるんですけど、そもそものデータは個人情報なのでメーカーがそれを使ってはいけないんですね。ですからMRIで内視鏡というシステムを「日本の医療をの水準を上げるためにはデータの共有は不可欠だ」といったようにするのか、診断に関わるような法律や個人情報保護法を含めて、企業のあり方を模索する必要があるのではないでしょうか。
自分のスキルを活かすという点では、僕みたいなタイプだと5年10年後に活躍する人材を増やしていく方向にいくべきなのかなと思います。なぜなら、自分はソフトウェアプログラマーからプロジェクトマネジメントへと業務転換があったこともあり、自分で何かつくるというよりかは、人材を適材適所に当てはめるような事に力を出せるタイプであると自負しているからです。たとえば、教育現場ではどういうことをやるべきか、どことコラボしたら面白いプロジェクトができるのか、人材を育成する事ができるのか、といったところで自分で何かやれると一番いいと思っています。
一方で企業活動に関しての教育については、働き方改革などの多様化によって現場は若干混乱していたりと大問題で、考えなくてはいけないです。実は企業の活動を続けるために必要な人材ってとても偏っているんですよね、ものづくりとなったらプログラムを書けることがスキルだし。でもそれは自動化されちゃうかもしれないじゃないですか。必要なスキルが移り変わっていく中で、何が本当に必要なスキルなのか企業を支える人材は誰なのかを模索していく必要があると思っていて、自分も何かそこに貢献したいです。必要であれば僕自身が人事になるというのも面白いかなと思っているくらいです。


> 前編はこちら

佐藤明伸
画像システム開発1部所属 
1995年オリンパス入社後MOドライブ、デジタルカメラのソフトウエア開発を経て、2014年オープンプラットフォームカメラ:OLYMPUS AIR A01とそれを活用しユーザーと新しい映像体験を共創するOPC Hack&Make Projectを立ち上げる。2015年このカメラと活動がGoodDesign賞を受賞。活動を通じてファブ地球社会コンソーシアムに参加し、ファブ社会が世の中にどのように浸透し、どのような新たな価値や人材、社会の仕組みが生まれるのかを追求してみたいと思っている。2017年より3Dプリンタコンテスト暮らしの自由研究の部の審査員長。
3Dプリンタコンテスト: https://www.fab3d.org/ 
OPC Hack&Make Project: https://www.g-mark.org/award/describe/43203
OLYMPUS AIR A01:  https://www.g-mark.org/award/describe/42319?token=KVdMKfJ3o7
渡邉伸之
技術開発部門 画像技術部
1985年オリンパス入社、2001年博士号取得(工学)
画像処理のアルゴリズム開発に従事、近年では、知財戦略および画像処理の教育に従事 。ファブ地球コンソーシアムに参加したきっかけはファブ社会における知財などの問題の相談だったが、いつの間にか横道にそれてしまい仕事の傍らOlympus-Air を使ってこんなものを↓
https://drive.google.com/file/d/1uzu208M-fgCudqa59crK6UXA-_cIjSkD/view?usp=sharing

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