見出し画像

福祉にいくつもの方向線を。 ─ものづくり探訪vol.1『GoodJob!センター香芝』

FabCafe Kyoto編集部が、関西近郊のものづくりにまつわる施設を探訪するこの企画。多様なものづくりの場に伺いながら、その姿勢や哲学を学びます。第一弾は、奈良県香芝市にある『GoodJob!センター香芝』(以下、GoodJob!センター)にお邪魔しました。

GoodJob!センター香芝とは

GoodJob!センター香芝とは、ものづくりを通して障がいのある人とともに新たな福祉の可能性を開拓している施設です。作業所のほか、カフェ、ショップスペースがひと所に集まっていたり、展覧会やイベントの企画をされていたり。一見すると私たちのイメージする「福祉施設」とはかけ離れた存在に思えます。そんなGoodJob!センターのホームページでは、このような紹介が。

Good Job! Centerは、障害のある人とともに、アート・デザイン・ビジネスの分野をこえ、社会に新しい仕事をつくりだすことをめざしています。一人ひとりの表現の豊かさのように、はたらき方もまた多様であるはずです。個人、企業、地域の垣根をこえ、だれもが能力を発揮できる社会の実現に向けて、さらなる提案・実践を展開していきます。

Good Job!センター香芝ホームページより

表現を通したはたらき方の創出や、障がいの有無に拘らず誰もが能力を発揮できる社会づくりの実践について、詳しくお話を伺いました。

京都駅からは1時間30分程度、大阪中心部からは1時間ほどでアクセスできるGoodJob!センター。JR香芝駅、または近鉄下田駅から徒歩5分ほどのところにあります。筆者が通ったのは近鉄下田駅からのルート。駅前の立派な歩道橋からは、奈良を見下ろす二上山を拝むことができます。

国道を北上し5分ほど歩いたところにある木を基調とした建物。こちらが今回お邪魔した『GoodJob!センター香芝』さん。

陽の光がするすると入る気持ちの良い建物を、企画製造ディレクターの藤井克英(ふじいよしひで)さんに案内いただきながらお話を伺いました。『たんぽぽの家 大博覧会』に合わせて…と思っていたのですが、少しずれ込むかたちとなってしまいました…

週末に合わせてFabCafe Kyotoからも告知に微力ながらお力添えできればと思います

そもそも!母体である「たんぽぽの家」について

支援学校を卒業しても社会的に居場所のなかった障がい者の方たちの集いの場として、「たんぽぽの家」づくり運動が発足したのは、1970年代のことでした。「わたぼうしコンサート」などの音楽イベントを通して思いや文化の発信を行っていました。当時フォークソングを歌っていた若者たちと、障害を抱える方々に共通して「生きづらさ」があったことが、その発露の大きなきっかけだったのではないかといいます。巡回やキャラバンでのチケット売り上げを拠点作りの資金とし、障がいのある人をとりまくネットワーキングにも注力。集いの場から徐々に、個人の特色を社会参画に活かせる場作りへと移行した背景がありました。
90年代頃まではハード面のサポートが多かったものの、2000年代初頭、社会福祉制度の変化と共に、表現から当事者の収入・仕事に繋げるための施策も進みます。企業、外部施設との連携やコラボもこの頃から始まり、建物2階の商品棚には全国各地の作業所から卸している商品たちの姿も。


福祉にいくつもの方向線を

与える、与えられる、ではないはたらき方の形

かつては行政が当事者に必要な福祉サービスを措置する、という一方向的な福祉制度の構造がありました。GJセンターでは、そうした一方向ではない仕事のあり方が見られます。メンバーは半日ごとに仕事が選択できるようになっており、進捗具合や相性をスタッフと相談しながらの勤務が可能。出勤日も週5日の範囲で自由に設定でき、筆者が訪問日した土曜日は4,5名の方がシルクスクリーンの印刷作業や張子の色塗り作業に励んでいました。多い日はスタッフ、メンバー合わせて40人近くがこの建物内で活動しているのだとか。

「『他の人と同じようにできないことをできるようにする』、ノーマライゼーション的な態度ではなく、お互いに意見を交換しながら仕事を創出したい。」と藤井さんはいいます。そうした姿勢も相まって、徐々に与える、与えられる、ではないはたらき方の形が生まれてきたそう。創立からいるメンバーもいますが、次のステップを目指し場を巣立っていくことも。自分の可能性に気付いたり、得意な領域を活かせる道が、この場所を起点に生まれています。

「福祉」を自分ごとに

「障がい」といっても、身体的なもの、精神的なもの、その種類や表出の仕方は人それぞれ。中でも精神的な障がいを分解すると、社会性やコミュニティからの阻害、孤立が原因になっていることも。例えば社会経験があるものの、後天的な事由により当事者となる方にとって、福祉施設を調べたり訪ねることはハードルが高いといいます。後天的に心の弱さや生きづらさに苛まれることは誰しもに起こり得、福祉の専門性だけでは身体的な課題解決や一時的な措置で助けになることはできても、そうした内的な問題に迫ることができません。

また、生活をより良くするための営みである「福祉」は本来誰しもが当事者であるべきトピックです。とはいえ、自分ごとに思えないことも難しい課題。「自分じゃない誰かがやってくれる領域」という認識ではなく、生きづらさを抱える人にとっても、そうでない人にとっても、みんなにとっての「福祉」のイメージを変えるための場として機能するためには何ができるか?を模索し続けてきました。

「福祉」の間口を広く保ち、誰しもが当事者であることに気づけるための施策として、福祉の専門性に加え、さらにアートやデザイン、他領域の文化を交えながら、個人の内発的な表出を媒体とし始めたのがGoodJob!センター香芝の役割でした。

福祉と「つくること」

福祉でひろがる「ものづくり」

福祉の間口を広く保ち、そのイメージを刷新するための媒体として、福祉にアートやデザインの要素を取り入れはじめたGoodJob!センター。中でも「伝統工芸」や「デジタル工作機器」と交わりながらものづくりの可能性をも広げる活動は、障がいのある人の固有性にフォーカスを当てます。

視察当日にも、センター内には企業とのコラボレーション案件に向けシルクスクリーンに勤しむメンバーや、張り子の仕分け作業に取り組むメンバーの姿が。得意な作業が個々人で違う障がいのある人たちの姿は、例えば、伝統工芸に携わるクラフトマンたちが製糸、織り、染め、型、仕立てのように工房ごとに分業していた姿と重なります。
工房ごとの構造を、得意領域の違う個人ごとの構造に翻訳できないか、という気づきから生まれた活動『NEW TRADITONAL』は、障がいのある人と各地の職人、多様なデザイナーやディテクターを巻き込みながら産業のあり方を変えつつあります。

発注が来ても高齢化や担い手不足などのため仕事を受けきれない伝統工芸の課題と、個人ごとの特性を見出し仕事の創出を期待するGoodJob!センター。両者の潜在的なニーズが心地よくはまるなど、幾つもの側面から障がいのある人と伝統工芸の親和性が見出されていると藤井さんは話します。

あっけらかんと許容する

話は、FabCafe Kyotoのサービスにもある「デジタル工作機器」にも及びます。『NEW TRADITIONAL』の製品づくりにも登場する3Dプリンターやレーザーカッター。張り子の内部や立体物の紙漉きに3D出力された原型が使用されたり、工房の至る所に作業の最適化のための治具が見られます。作業所としての業務効率のために、まるでハサミやカッターを使うように必然的に使用されるデジタル工作機器たち。機械工作を目的化するのではなく、あくまで手段として向き合い続ける姿勢に、ものづくりへの真摯な態度が見受けられます。

施設立ち上げ当初からデジタル工作機器の導入を検討していたという藤井さん。デジタル工作とは遠い存在である福祉とつなげることによって、新しい物事が生まれる予感を感じ取っていました。
一見便利で画一的に出力できそうなデジタル工作機器ですが、出力ごとに微細な仕上がりの違いやエラーも。3Dプリンターの積層具合は個体ごとに僅かな差異があり、加工素材のコンディションによってレーザーカットの質も変わります。
そのエラーを許容し、時に手仕事と混ざり合いながら適切な仕事が遂行できればいい、そんなあっけらかんとした態度が、この場所から新しいものづくりが発信される推進力なのではないでしょうか。

どこにいても違う空間が覗ける見通しのよい建築は、o+hによる設計。
館内マップには建築家おすすめの撮影スポットも。2Fからは建物中央に斜めに入った梁が拝める。
販売促進や商品の流通に至るまで、各担当メンバーが職能を発揮しながら運営している。
吉行良平さんデザインの什器
設計段階では、円形や三角形が串に連なったおでんが什器のインスピレーションに
隣には別館が。多目的なスペースで季節によって使い方もさまざま
取材当日は味噌作りワークショップが行われていた
月に数回、暮らしにまつわる催し事を開催。課外活動的に、メンバーが主催することもあるそう。
コミュニティスペースとゆるやかにつながるように開かれたアトリエ
メンバーが自身の制作に励んだり、商品の試作を行うことも
本館に戻りカフェにて季節のシロップを注文。畑部みかんのソーダ割をオーダー
名物『GoodDog』。ソーセージの旨味と刻んだピクルスの酸味がめちゃ合う 1皿でお腹いっぱいになれる満足感


展示のお知らせ 『たんぽぽの家 大博覧会』


GoodJob!センターの母体である「たんぽぽの家」は、なんと今年で50周年。その節目を記念して、これまでの活動を振り返る大規模展『たんぽぽの家 大博覧会』が、奈良県文化会館にて開催中です。障がいのある人の拠点作りを通して生まれたプロジェクトや、近年のお仕事までをおさらいできるこの機会を、どうぞお見逃しなく。会期は2023年2月4日(土)〜2月12日(日)まで。
詳細はこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?