『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』⑥筋トレの収縮時間(TUT)
筋トレの世界は、数多くのアプローチが存在しますが、最終的には同じような結果が得られる。
それが「異なるアプローチ、結局は同じ結末説」です。
このシリーズでは、最低限の科学性を保ちながら、時には若干飛躍的な主張も交えつつ、読者がトレーニングを続ける意欲を高めるためのエビデンスを提供します。
目指す世界観は水戸黄門のような安心感。
筋トレ愛好家や初心者の方々にとって、本シリーズが新たな視点を提供し、トレーニングをより楽しく効果的にする手助けとなれば幸いです。
過去のシリーズ
6回目となる今回読み解く論文はこちらです。
Chaves, T. S., Pires de Campos Biazon, T. M., Marcelino Eder Dos Santos, L., & Libardi, C. A. (2020). Effects of resistance training with controlled versus self-selected repetition duration on muscle mass and strength in untrained men. PeerJ, 8, e8697. (CC BY 4.0)
今回は、収縮時間、Time Under Tension(TUT)の影響です。
TUTは、筋肉に負荷のかかっている時間を指し、同じ強度(%1RM)でトレーニングを行った場合でも、TUTが違えば実施可能な反復回数が変わります。
この論文では、筋トレ経験のない男性20名を対象として、Within-subject design(被験者内設計)という研究デザインを活用して、3つの群を設けた上で筋肥大と筋力向上に及ぼす影響を検証しています。
トレーニング実験の概要は次の通りです。
対象者はまず、身体活動適性アンケート(PAR-Q)に回答し、1-RMテストに慣れるために実験室を訪れました。
その後、間隔を空けながら、片脚ずつレッグエクステンション1-RMテスト、超音波での大腿四頭筋の断面積測定が行われました(これらの測定はトレーニング期間後にも実施)。
対象者は、脚ごとにランダムかつ均等に次のグループに分けられました。
・コントロール反復時間(CON)
20脚(各局面の収縮時間:2秒・2秒)
・ボリューム負荷を均等にした自己選択反復時間(SELF-EV)
10脚(各局面の収縮時間:コントロールせず対象者の自由)
・ボリューム負荷を均等にしない自己選択反復時間(SELF)
10脚(各局面の収縮時間:コントロールせず対象者の自由)
※各局面はコンセントリック局面とエキセントリック局面で構成
このうち、CONは全員の片脚で採用され、SELF-EVとSELFは半分ずつ割り当てられています。
したがって、参加者たちは、片脚ずつ違うトレーニングを行っています。
種目は片脚レッグエクステンション、
期間は8週間、
頻度は2回/週、
強度は70%1RM
です。
また、筋トレの筋肥大効果に著しく影響するボリューム負荷の影響をコントロールするために、SELF-EVとCONのボリューム負荷を均等にしました。
具体的には、対象者は毎回のセッションでCONを先に実施し、その終了後にボリューム負荷(反復数 × セット数 × 負荷)を計算しました。
次に、そのボリューム負荷になるように、SELF-EVを実施しています。
重要な点として、SELF-EVの最終セットは、他の2つの群(CON、SELF)とは異なり、余力が残っていても、ボリューム負荷が計算された値に達した瞬間に強制的に終了になります。
残りの2つの群は、毎回のトレーニングで3セット、各セット出来なくなるまで実施しています。
さて、結果をみていきましょう。
まず、1反復ごとのTUT(上)、各セッションの反復回数(中)、ボリューム負荷(下)は次の表のとおりです。
TUTは、CONでは収縮時間を2秒・2秒でコントロールしたので4秒となっているのに対し、自由に決められた2つの群では短くなっています。
反復回数は、SELF-EVはCONとボリューム負荷を揃えたのでほぼ同じ(有意差なし)、SELFでは多くなっています。
SELFの反復回数が多い理由は、1回のTUTが短いことによります。
同じく、ボリューム負荷もCONとSELF-EVに比べると、SELFで多くなっています。
次にメインの結果となる1RM、筋断面積は3つの群で増加しましたが、群と時間の交互作用は見られませんでした。
つまり、群に関係なく、全てのグループで動的筋力が向上し、筋肥大したということです。
この結果は『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』を支持するものです。
このうち、CONとSELF-EVの効果に差がなかったのは、ボリューム負荷を揃えたことを踏まえると、納得しやすいと思います。
一方、ボリューム負荷が少なかったSELFも同じくらい効果が得られたのは興味深い結果です。
この研究者らは、この理由について、「筋トレのボリュームと筋力向上、筋肥大との間の用量反応関係に天井効果(ceilling effect)がある可能性を示唆するものだ」と考察しています。
要するに、ボリューム負荷が増えれば増えるほど、効果が高まるわけではなく、あるところを境に効果の得られる度合いが頭打ちになる感じです。
この見解が正しければ、この研究におけるSELFの負荷は天井効果を得るには十分な刺激であったのでしょう。
なお、この研究者らは、Within-subject designにも研究の限界が存在する(クロスエデュケーション効果など)ことを挙げた上で、Between-subject design(被験者間設計)にも生物学的な差(Biological variability)、食事の差といった研究の限界が存在すると述べています。
筋トレでは、1回の収縮時間を長くすると、総反復回数が減る傾向があります(1回の収縮ごとの刺激は高まりますが、全体的な刺激は低下します)。
逆に、1回の収縮時間を短くすると、総反復回数が増える傾向があります(1回の収縮ごとの刺激は低下しますが、全体的な刺激は増加します)。
そのため、収縮時間についてはあまり神経質にならず、安全な範囲内で個人の好みを優先して良いでしょう。
執筆家としての活動費に使わせていただきます。