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フルマラソンを8週間で4回走った事例

※本記事は、私が研究者として取り組んだ研究成果(下記論文)を解説・紹介したものです。論文の全文はリンクからご覧いただけます。

髙山史徳, 嶋津航, 青栁篤, & 鍋倉賢治. (2018). 市民ランナーにおけるマラソンシーズンの生理学的指標, パフォーマンスの回復ならびにトレーニング負荷と主観的体調との関係: 事例研究. 体育学研究, 63(1), 383-395.

42.195kmを走るマラソンは、身体に大きな負担をかける競技として知られています。
ただし、私たちの研究では、マラソンのパフォーマンスに深く関係する3つの要因(最大酸素摂取量、ランニングエコノミー、酸素摂取水準)が、マラソンを走った後、通常、7日以内に元に戻ることを示しています。

詳しくは下の記事で解説

ただ、その研究やその他の研究を含めても、多くの先行研究では、1回のマラソン後の回復状況を調べたのみであり、短期間に高頻度でマラソンに出場したランナーを対象とした場合、生理学的指標やパフォーマンスの変化は明らかではありませんでした。

そこで、私たちは、マラソン後の身体の回復に関してさらなる知見を得るために、8週間に4回のマラソンに出場したランナーを対象として、トレーニング負荷、生理学的指標、パフォーマンス、主観的指標を縦断的に測定し、短期間に繰り返し走った際の影響を事例的に検討しました。

その結果、次のことが示されました。

  • トレッドミルテストで測定された3要因、パフォーマンス指標の変動が小さい

  • 出場した4回のマラソン中、2回で自己記録を更新した(2時間38分、2時間36分)

  • 主観的指標の中でも、「ストレス」、「疲労」および「筋痛」はトレーニング負荷と有意に相関し、「睡眠」はその関係が認められない

  • レース期のランニング時間(トレーニング・レース)は、1回目のレース前の数週間(準備期)とほとんど同じだった(つまり、レースを除くと、レース期のランニング時間が短かった)

このうち、上の2つは、先行研究では単発のレース後の回復だったところを、複数のレース後の回復であっても、同じように回復することを事例的に示しています。

また、3つ目は、睡眠がトレーニング以外の要因の影響を受けやすいことを示唆しています。
主観的な睡眠の質を保つことは、ランナーのコンディショニングの最適化に大切ですが、トレーニングだけを管理しても、不十分なのかもしれません。

最後の4つ目は、興味深い結果です。
何となく、8週間に4回のフルマラソンと聞くと、過酷な感じがありますが、トレーニング負荷に関する指標(例えば時間)でみると、意外のレースのない時期と同じで、ランニングそのものの生理学的・バイオメカニクス的な刺激は大差ないこともあります。

事例研究であること、また普段のトレーニングに対する介入は行わなかったことから、結果の解釈には注意が必要ですが、怪我やオーバーリーチングにならずに短期間でレースを走り続けるランナーは、レース間の負荷を上手く調整する能力を潜在的に獲得しているのかもしれません。


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