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01_お金では手に入らないものに価値を見出す

 ホームレス生活を始めて、思い切って昔から会ってみたいと思っていた映画監督リーネさんにコンタクトをとってみることにした。大学院在学中、ユートピアについて研究をしていた時に出会ったドキュメンタリー映画『リビング・ウィズアウト・マネー』。簡単に説明すると、お金を使わずに暮らしているドイツ人女性ヘイデマリエさんの生活を追いかけたストーリーだ。この女性の生活は、まさに僕の考える『都会に暮らす田舎暮らし』だった。必要なモノは物々交換、もしくは相手が必要としている手助けを行うことで手に入れる形だ。

 映画を観てとても感銘を受けたこと、そして今現在、映画のような生活を送っていることなどなど、ありきたりだけど、僕が今伝えたいことを書いてリーネさんにメールを送った。そして僕は、幸運なことに、彼女がロンドンに仕事で来る際に会えることになった!人間、憧れすぎていると会えるなんて想像もつかないけど、実際に僕は憧れの人に会えるチャンスをつかんだんだ。

 そして、リーネさんは僕の前に少し遅れて姿を見せた。

「ごめん、遅れちゃった。はじめまして、そしてメールありがとう。私の作った映画で、こうやって感化されて実際に行動に移している人に会えるなんて本当に嬉しいわ。あなたの新しい生活スタイルはユニークだし、是非これは会っておかなければと思ったのよ」

 リーネさんの言葉はすごく嬉しかった。映画を観た時、お金がなくても人と人のつながりだけで生きていくことって出来るんだ!って、すごく感動したのを今でも覚えている。僕の挑戦している「人のつながりをデザインする」事業も、僕が今こうやってホームレス生活を始めたのも、よく考えてみるとこの映画からの影響は相当大きい。映画を観ただけの僕がこんなにも影響を受けているのに、映画撮影でずっと現場にいた彼女はいったいどんな影響を受けたのか気になるところだった。

「映画を撮影した後、どんな生活の変化がありましたか?」

 きっと彼女は何度も聞かれている質問だろうなとは思ったけど、僕は彼女本人から答えを聞きたかった。心のどこかで、今自分がやっているホームレス生活が間違っていないか確かめたかったのかもしれない。

 「撮影中に、何度も自分の今の生活を振り返ることがあったわ。なんで今までこんなにモノを消費してたんだろうとか、なんでこうやって人と人のつながりに着目しなかったんだろうってね」

 『なんでこんなにモノを消費してたんだろう』という彼女の言葉は、僕もホームレス生活をスタートさせるための準備をしているときに感じたことだった。人の家を渡りあるく生活をするわけだから、最低限の荷物のみにしなければならない。持ち物を整理していると次から次へといらないものが溢れてきた。今の僕には必要ないものばかりだった。

 「私自身も実は極力お金を使わない生活を始めたのよ。今のあなたの生活とよく似ているわね!」

 彼女は僕に笑いかけ、続けてこう話してくれた。

 「家があっても、モノをたくさん持っていても、どこかで空しさを感じていたのよ。私も期間的にあなたと同じように、毎日どこかの家に泊めてもらう生活をしているんだけど、新しい人との出会い、そして彼らに教えてもらう自分の知らない世界の話は本当に刺激的ね。そういう出会いがどんどん新しい出会いを作ってくれて、それが仕事のアイデアにもつながるし、何より自分自身が満たされてるなって感じるのよ」

 すごく分かる。僕は今お金もないし、家もない。でも、前よりも気持ちは満たされていた。

 リーネさんはこんな僕たちの生活スタイルを色んな人に知って欲しいから、お互いのウェブサイトで紹介していこうと提案してきた。

 「もちろん!」

 こうして、僕の夢の時間はあっという間に過ぎて行った。

 実は、リーネさんにメールを送るとともに、僕は映画の主人公であったドイツ人女性にもメールを送っていた。彼女も僕にすぐに返信をくれたんだけど、彼女の

 『時代が、お金ではなくて、友情とか仲間というものに価値を見出し始めている』

という一文に僕は心を打たれた。

 リーネさん、ドイツ人女性、そして今の僕には共通の気づきがあった。それは

 『お金では手に入らないものに価値を見出す』

ということ。さっきも話したけど、ホームレス生活を始める準備をしているとき、「必要ないや」と思うモノで部屋が溢れかえった。買った時には、手に入れた満足感でいっぱいだったんだろうけど、今は全く必要ないモノと化していた。結局それらのモノって、僕を一瞬満たされた気持ちにしただけで、永続的なモノではなかったんだ。だからって僕は、「さあ、身の回りのモノを全て手放して、貯蓄を全部募金して、金なし生活を始めてみよう!」と薦めているわけではない。それに「欲しいものを買うな!」と言っているわけでもない。決して!

 僕が究極の生活をしながらも心が満たされていたのは、応援してくれる友達、知らない僕を家に泊めてくれた人達、家族、恋人のサポートがあったからだ。彼らは決してお金で買えないし、彼らが「はい、サポートしてあげるから一万円ね」と言ってくるわけでもない。そして彼らとの関係は一瞬ではなく永続的だ。

自分自身の一瞬の満足を満たすだけにお金を使うなら、大好きな人たちが喜ぶプレゼントを買う方が断然価値があると思う。『人それぞれ価値観は違う』って言うけど、人の優しさに触れる、感じることの出来る喜びって誰にでも価値があるはず価値があるはずだし、お金にはないパワーを持っていると、僕は信じてる。


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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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