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0953:(GaWatch映像編016)映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

今朝、唐突に家人が「岸辺露伴を見に行きたいが、いつなら連れて行ってくれるか」と聞いてきた。ふむ、私も見たいと思ってたんだ。午後は毎日家業作業があるので、行くなら午前か夕方以降のプログラムになる。近場の上映スケジュールを確認すると、午前中の上映が。少し距離があるから30分後に家を出られるなら今日でもいいよ。というわけで、ほぼ衝動的に映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を見に行った。素晴らしかった。以下、簡単に所感を書き留める。

まず前提を記しておこう。私はジョジョシリーズは単行本1巻から発刊時に購入しており(ジョジョ以前から荒木飛呂彦は気になっていた)、スピンオフの岸辺露伴シリーズも当然購読している。「ルーヴル」もそうだ。ただ、既に内容は忘却の彼方で、書庫の本の山(一万冊以上ある筈)からすぐには見つけ出せない。NHKのドラマシリーズは全て観ている。好きだ。大好きだ。だから映画化を知った時には大いに期待した。そのような状態での映画視聴だ。

平日午前ということもあってシアターの入りは6割くらいか。上映時間が117分と知って(ポンポさんに叱られるぞー)と一瞬思った。そもそも年齢のせいか集中力が衰えていることを実感する今日この頃、面白い映画でも途中で眠たくなることが多い。先日観た『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も見事に途中で眠ってしまい、GaWatchで取り上げられなかった。その前に観た『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』140分は、眠りこそしなかったけれど、ジェットコースターのように起伏の激しいエンターテインメントであったにも関わらず途中でいささか飽きて眠気が起きたのが正直なところだ。こればっかりは当方の年齢・心身状態に由来するもので、映画の問題ではない。

https://note.com/f_san/n/n2712561edbdc

だから『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』も、寝ちゃったら勿体ないな、と思っていたんだ。始まった。117分観た。まったく眠くならなかった。体は疲れて体勢を変えたりはしたけれど、意識はずっと覚醒したまま画面に観入っていた。

NHKドラマ版を観てきた人ならば、「あのクオリティそのままスクリーンに映し出される」といえば、傑作であることが分かるだろう。これ、きっといろいろ大きな賞を取る。世界レベルで訴えるもののある作品だ。

ストーリーについては触れない。私がこの映画に没入したのはストーリーが面白いから、ではないのだ。もちろん岸辺露伴シリーズ特有の幻想的な物語であり、それが魅力のベースにあることは疑いない。ただ、コミック原作を下敷きとしながら1本の映画作品として作り上げた、作り手のセンスに私は魅了されたのだ。

今回序盤からラストまでずっと注目させられたのは、奥行きを意識した画面構成の妙だ。スクリーンは平面だ。しかし撮影現場ではカメラから見た前景と後景がある。複数の人物、建物、窓の外の風景、屋内の調度品。前景が後景を遮り、陰影のリズムと相まって、一枚の平面の中で複雑な構図を作り出す。それがほぼ全編にわたって意識されているのだ。例えば露伴の顔が前景の調度で隠された状態で会話が続く。観客の意識はその隠された顔に向く。露伴が上体を起こすことで、画角は固定されたまま、顔が現れる。その小さな変化が場面の進行として観客の心情に深く刻まれる。例えばルーブル美術館の廊下を下からアオリで映し出す。露伴たち一行が廊下を歩いてくるのが、画面全体から見れば本当に小さく、下の方を移動してくる。天井の絵画・彫刻の圧倒的な力をスクリーンから溢れんばかりに描写しつつ、物語が今どのように進行しているのかを観客に的確に伝える。例えばエンディングで、露伴のアトリエで中央に天地を繋ぐ黒い柱が直立する。エンドテロップは、その柱を背景としたセンタリングで上へ流れて行く。その間、漫画を描く露伴の姿が妨げられることなく長回しで映し出される。

人物についても1人だけ言及したい。木村文乃演じる奈々瀬の色香こそ、少なくとも映画版における物語の動力だ。若き日の露伴が出会った謎の女性。その記憶が露伴を突き動かしていることを観客は共感的に理解する。「この世でもっとも黒い絵」、人々を魅惑し狂わせる絵の情動を、観客は奈々瀬のイメージから喚起される。長い黒髪と黒のドレスはモナリザの似姿だ。クライマックスでの登場は唐突な印象だが、その後で全てを受けとめて物語を着地させる役割もまた彼女が担う。あの色香と哀しみを表現した木村文乃、あの映像を撮りきった作り手。拍手喝采。

つまるところ、アラカンのおっさんが眠気を覚えることなく117分没入できたのは、美の力だ。荒木飛呂彦の生み出したキャラクターと物語の幻想性、ルーブル美術館や迷宮の如き祖母の下宿、杜王町の自然などの舞台の美しさ、高橋一生や木村文乃たち俳優の表現力、作品世界を下支えする不思議な印象の音楽たち。これらを綜合した映画という「美」を鑑賞するために、是非映画館に足を運んで欲しい。

--------以下noteの平常日記要素

■本日の小説進捗
「J」、6,154字から250字進んで6,404字。このあと続き書く。

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積328h30m/合格目安3,000時間まであと2,672時間】
ノー勉強デー。

■本日摂取したオタク成分
『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-』、まあ安定の。『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』第2話、しまったあんまり観てなかった。

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