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0894:(GaWatch映像編014)『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

略称『エブエブ』。この作品の存在は先頃アカデミー賞を総なめにして初めて知った。予告動画を観ると、ふむ、面白そうじゃないか。というわけで本日高校二年生男子と共に観に行った。もよりの映画館では夕方1回のみの上映、観客は我が家を含めて5人くらい。パンフレットが売り切れだったことから、観たい人は既に見終えて上映終了間近の時期なのだろうね。

うん、なんというか、凄い作品だったな。ジャンルは多重世界SF。コインランドリーを営む中国系の夫婦が、家族崩壊の危機と世界の危機に立ち向かう。冒頭は地味目なファミリードラマに見えたけれど、主人公の夫に異世界人格が宿った瞬間から世界は様相を変え、その後ジェットコースターのように展開されるチェイス&バトルが本作の大半を占める。二転三転四転五転して、最後は力業のようなハッピーエンド。思い出したのは『千年女優』『パプリカ』などの今敏作品、多重世界の表現手法が似ている。今作品がアニメーションなのに対し、本作は実写(CG)で作り上げている。

作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・編集賞の七部門制覇もなるほどだ(脚本は力業ではあるので対抗馬次第だけど)。特に役者が凄かったな。主役級の人たちは美男美女ではない市井の雰囲気、決して画面映えしない。それが万華鏡のような多重世界表現の中で、本当に色合いを変えてくる。特に夫ウェイモンド、普段の冴えない小男が、アルファ世界のウェイモンドが憑依した途端に本当に別人(ジャッキー・チェンみたい)に見えるのだ。演じたキー・ホイ・クァンがアカデミー賞助演男優賞受賞スピーチで「お母さん、オスカーを獲りました!私の旅は、船の上で始まった。難民キャンプで1年過ごし、どういうわけかハリウッドの大舞台に立つことができました。このような話は映画の中にしかないと言われます。自分の人生に起きるなんて信じられません。これこそがアメリカンドリームだと思います」と本当に嬉しそうに叫ぶ動画を先に見ていたが、まさに名演だったよ。もう一人、国税庁の陰険ぽい監査官として登場したディアドラが、敵として主人公たちを追い詰める時の恐ろしさ、指がソーセージになる奇妙な世界で主人公のパートナーになった時の色気。万華鏡の世界で万華鏡の演技が繰り広げられる凄さね。

ただ、映画体験として文句なしの大満足だったかというと、実はちょっと躊躇ってしまう。映画館を出たところで高二男子と話をすると、「凄かったけど、評価は難しい」という点で一致していた。最大の要因は140分という長さ。「ポンポさんに怒られるよね」というと彼は笑っていた(『映画大好きポンポさん』では今時の観客に向けた作品として90分の理想が示されている)。

https://note.com/f_san/n/n2712561edbdc

そして、その長さの中で混沌とした多重世界が延々と繰り広げられるのだが、微妙に飽きてしまったのは否めない。無機物(岩)になったり趣向は凝らされているのだけれど、それでもだ。作品の中で多重世界は、冒頭のファミリードラマで提示されたいくつかの課題(夫婦・親子・税金)がラストで解決への道筋を見出す、そのための過程として機能している。その点にのみ注目するなら、もっと(例えば20分くらい)短くできるように思う。もちろん作り手は物語上の機能のために必要最小限に表現を抑え「なければならない」わけではなく、むしろエキセントリックな世界が転変する様をこそ描きたかったのだろうとは思う。そこがうちの父子には過剰に感じられたわけだ。今何が起きていて、大きな筋立ての中でどう絡むのか、それを追うことが難しい幻想的な作りであるだけに、観る側の集中力との相性問題は避けがたい。

なので本作は、諸手を挙げて万人に勧めようとは思わない。けれども万人受けだけが表現作品の価値ではない。本作は間違いなくスピード感抜群の怪作、映画好きの人ならば一度は視聴して自分の感性とのマッチングを確かめてみる価値はある。

--------以下noteの平常日記要素

■本日のやくみん進捗
第一話第四章(25)を公開。野田室長が子供世代にちょっと遠慮しながらぎこちないコミュニケーションを取る場面。60%の行政の話は身内(だけが共感できる)話なので2話以降の方がいいかとも思ったんだけど、1話の後の方でも確か触れたので、このまま。

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積327h35m/合格目安3,000時間まであと2,673時間】
ノー勉強デー。

■本日摂取したオタク成分
『大雪海のカイナ』第10話、巨神兵が風の谷を襲ってるのかとおもた。あくまで連想したという話であって、パクリだのなんだの責めるつもりは毛頭ない。原作者の力量はこれ以前の作品から認めているよ。それはそれとして、宮崎駿はつくづく凄いなあと思い出したわけで。ナウシカにしても、未来少年コナンでインダストリアの戦艦がハイハーバーを襲う表現にしても、今まさにロシアがウクライナで暴虐の限りを尽くしているのを観ると、当時のベトナム戦争が表現者に与えたインパクトだったんだろうなと思う。『HIGH CARD』第7話、話半分だったけどええ話系? 『転生王女と天才令嬢の魔法革命』第5話、戦闘メインになるとシリアスというかシビアというか。『エブエブ』上記のとおり。

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