見出し画像

0226:(GaWatch書評編001)『こころキャラ図鑑 「感情」と友だちになろう!』

『こころキャラ図鑑 「感情」と友だちになろう!』
池谷裕二・監修、クリハラタカシ・絵
西東社

 ネットのどこかで本書の評判を見かけ、先日購入した一冊。読者層設定が「4~9歳向け」(3p)のため、内容は一応(なぜ「一応」かは後ほど……)平易で読みやすいものです。

 本書が見開きワンテーマで取り上げているのは、全部で28の「こころ」の有り様です。子供たちが日常の中で経験する、友人と喧嘩をしたり、親に分かってもらえなかったり、友だちと楽しい時間を過ごしたりといった場面での、心の動き。それが、例えば楽しい時はタヌキみたいな「タヌシーノ」、腹が立つ時はオコジョに似た「オコルジョ」といった擬人化(動物でも「擬人化」っていうのかしらん……「擬動物化」?)が施され、子供にも「あ、あの気持ちがこれだな」と伝わりやすく表現されています。そして、どのような時にそうした感情になるのかや、その感情の良い面「ライトサイド」と悪い面「ダークサイド」についての解説が、見開きの中で統一感のあるデザインで配置されています。

 脳科学者が監修しているだけあって、解説はシンプルでありながらポイントを押さえています。どの感情についても一方的に「ダメ」とか「よし」という評価をせず、人間関係の中での位置づけや自分自身の成長についての生かし方を示しているのは、大人の私たちにとっても時に「あ、そういう観方もあるか」と参考になるでしょう。

 ただ、丁寧に整理されているだけに、「4~9歳」の子供たちが本書を積極的に読みたいと思うだろうか、ということは気になりました。

 道徳の話はとても大切なものですが、親が「子供に読ませたい」とは思っても、多くの子供にとって自発的に読みたいものでは、ないのですよね。少なくとも28の感情を整理した本書を通読することは、「人の心」という枠組みへの関心があって初めてできることであって、子供はたぶん、通読しません。親が読み聞かせてやるにしても、どこまで子供の関心が持続するか。本書は、子供向けを謳いつつ、親への訴求力の方が結果として上回っていることは否めません。この辺りが冒頭で「一応平易」と書いた所以です。

 でも、それは本書の価値を貶めるものではないのです。その理由はふたつあります。

 まずひとつは、まさに「大人が読む本」としての本書の価値です。子育て中の親が、本書を子供と一緒に読む時、実は自分自身のこれまでの人生が照らし出されます。穴があったら入りたくなるような思春期の大失敗。愛する家族との死別。仕事上のもやもやとしたわだかまり。そうした気持ちのライトサイドとダークサイドを意識することは、これからの人生のささやかな支援になるでしょう。そして、その知見は、子育てという人生の大事業にも必ず役に立つ筈です。

 もうひとつは、今すぐではなくとも、時期が来た時に「子供が自発的に読む本」としての価値です。心の有り様を整理した本書の知見は、自分自身がその感情を持ち、悩んだり苦しんだり喜んだり慈しんだりした経験を自覚する時に、初めて意味を持ちます。子供たちは年齢相応の魂の経験をしています。いつか自分の「こころ」を持てあました時、本書の該当するページに、自然と目を向けるでしょう。その時、読書という素敵な体験が幕を開けるのです。

 大人に出来ることは、本を与えて「読め」と強いることではなく、いつか子供たちが自分でその本と出会う日のために(その日は来ないかもしれなくても)、そっと本棚の中に置いておくことくらいです。思い出してみてください、私も、あなたも、親とは違う魂を持って生まれ、親とは違う自分自身の人生を歩いてきました。今度は子供たちが、自分の人生を歩き出すのを見守る番なんです。

 以上、心の問題に関心のある方には興味をもってもらえる一冊と思います。amazonの「試し読み」が割と大盤振る舞い(本文だけでも18ページ)ですが、見開きに対応していないのが難。「試し読み」の下にある「イメージ」は見開き画像なので、そちらも合わせてご覧になるとイメージがつかみやすいと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?