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「使いやすいデザイン」という言葉と向き合ってみた話

これは フェンリル デザインとテクノロジー Advent Calendar 2022 21日目の記事です。


「日本人は多数決が好きだ。」
テレビやウェブでも、よく聞く内容ですよね。
確かに日本人は、右に倣え精神が強いと至る所で感じます。それは好みでも、イベントでも、人それぞれなはずの性格・個性でも。

大多数が使いやすいと感じるデザインって、実は少数派は苦労していたり……でも全ての人が使いやすいデザインとは一体……なんてことを常日頃思っていました。
そんな私も、実は所々マイノリティな特徴を持って生活しています。

今ではもう慣れ切ってしまった「使いにくい」「過ごしにくい」という感情。デザイナーになった今だからこそ、改めて向き合ってみる必要があるように感じました。
この記事では、そんな私のちょっとだけ珍しい特徴のひとつである、「左利き」に焦点をあてて考えてみます。

左利きは右利きより平均寿命が9年短い?

イギリスのネイチャー誌により発表された「左利きは、右利きより平均寿命が9年短い」という仮説。もしかすると、それについて聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。衝撃的な仮説ですが、実はあながち間違いでもないようです。
と言っても、生まれつき9年短いということではありません。
左利きは「右利き中心の世の中」に適応しづらいため、ストレスが寿命に影響したり事故やけがの頻度が高くなったりなどの理由から、このような説が上がったそうです。
左利きに対してちょっと珍しい程度の認識しかなかった私でしたが、この仮説を初めて聞いたときは、「なんで私、なにもしてないのに寿命縮んでるの!?」と驚きました。

今はそうでもないのですが、昔は「左利きは右利きに直すべき」という風潮が強く、元は左利きな人も実は多かったりします。私の父もそうでした。
両親は私に対して右に直すことを強制はしませんでしたが、周りの友人にも元左利きがちらほらいました。

では、何故左利きが良くないと言われていたのか。
これにもさまざまな理由がありますが、一番は「日本人の多くが右利きだから」かと思います。
右利きが多いから、モノは全て右手で使う前提で作られます。みんな右利きなら気にならない座る位置も、肘がぶつかるために気を遣わなければなりません。
私は今でも左利きのまま過ごしていますが、使いにくいモノは街中にたくさん存在しています。改札機とか、スープジャーのしずく型をしたおたまとか、そろばんとか。
後悔はしていませんが、あの時右に直していれば、この不便さはなかったのかもしれない…と思うことも多々あります。
今でこそ左手用のモノが普及してきているものの、左利きは右手を最低限でも使えるようにならないと、使いにくいモノがあまりにも多すぎるのです。

「使いやすい」は、本当にみんなが「使いやすい」のか?

UIデザインを学び始めたとき、衝撃を覚えたことがあります。
「フローティングアクションボタン」、皆さんが使うアプリにもよく見られますよね。Twitterのツイートボタンなどが身近かと思います。
このボタンは基本的に右下に配置するよう決まっているのですが、それは何故かご存じでしょうか?
極力コンテンツの妨げにならないようになど、理由はさまざまあります。その内のひとつに「ユーザーにとって重要な行動のボタンとなるため、押しやすいエリアに配置するから」という理由がありました。

この回答を聞いた時、私はしばらく悩まされました。
どう考えても、触ってみても、右下は押しにくい。そうして悩んで気づいたのが、この「押しやすい」は右利き基準の考え方であること。
左手でスマホを持っていれば、動かすのは当然左親指。反対の位置にあるフローティングアクションボタンは、私にとっては「よく使うのに何故か押しにくい位置にあるボタン」でした。

左利き用よりも素敵に感じた、両手用のマウス

仕事でもプライベートでも毎日パソコンを使用しますが、今までマウスを使うことに苦手意識を感じていました。そのためノートパソコンを使う際は、ほとんどトラックパッドを使用しています。
よくあるマウスの形は、右手で持った際にフィットするように左右非対称の形になっているものが多いです。特に高性能なゲーミングマウスなどは、その特徴が顕著に出ています。
長時間持っても疲れないよう配慮されたデザインなのですが、この形を左手で持つのはほぼ不可能。Bluetooth対応や複数ボタン搭載などの性能面を見て選んでも、形状で諦めてしまうことは少なくありません。更に左利き用のマウスはハサミなどより需要が低いからか、見かける数はごく僅かでした。

学生時代友人にこの話をすると、決まってこう言われました。
「そんなに細かく指を動かしたりしないんだし、マウスくらい右手で持てばいいんじゃない?」
確かにペンやお箸を持つ時のように細かな動きは必要ないですし、ハサミやカッターのように、力加減がうまくいかないと危険なわけでもありません。
ですが長時間握っていると、利き手じゃない分どうしても力を入れ過ぎてしまって腕が痛くなることもあります。毎日使うものだし、できれば慣れている左手で使いたいな……というのが、私の本音です。

最近私物のマウスが壊れてしまったため、電気屋に買い替えに行きました。
マウスコーナーを見ていると、以前訪れたときからラインナップに変化が見られました。
「両手対応」とシールが貼られた、左右対称型のマウスが増えていたのです。それもさまざまなメーカー、種類で。
思わず「おお!」と感動しました。そもそも左右対称にしてしまえばどちらの手でも使えるから、不便に思う人は少ないはず。これこそ「誰でも使いやすいデザイン」なのではないかと思います。
特定の人用ではなく、みんなが同じモノを使えるデザインを。新卒研修時に学んだバリアフリーとユニバーサルデザインの違いを、些細ではありますが身近に感じられた瞬間でした。

「使いやすい」を押し付けない

「使いやすいデザイン」「使いやすいUI」
これらはアプリデザインをするときに、とても大切で意識すべきことだと思います。しかし、この「使いやすい」が制作側の押しつけになってはいけないと、改めて感じました。
ユーザーによって、アプリの使い方はさまざま。「きっとこう使うに違いないから、こうすれば使いやすいだろう!」という思い込みは、時に逆効果になってしまうことも。どんな使い方でも不自由なく使えるものこそが、本当の意味で「使いやすいデザイン」と言える気がします。

誰かの役に立つモノを作りたいという想いが、空回りせずユーザーに届けられるように。本当の意味で「使いやすいデザイン」を生み出せるデザイナーになれるよう、これからも精進していこうと思います。


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