フランス現代作家紹介 第1弾:アブデッラー・ターイア(Abdellah Taïa)
1. アブデッラー・ターイアとの出会い
フランス・パリ11区にある有名なLGBTQ+専門の本屋「Les Mots à la Bouche」の文学コーナーには、世界中のLGBTQ+作家たちの本が並んでいます。『失われた時を求めて』のマルセル・プルーストや、『ダロウェイ夫人』のヴァージニア・ウルフ、三島由紀夫などなど。そのなかに「TAÏA」と書かれたポップを発見し、その不思議な名前に興味を惹かれました。どうやら、モロッコ出身のフランス語圏作家らしい・・・あまり分厚くない文庫が並んでいて、数冊買って帰りました。
その数日後に、一週間のモロッコ旅行を予定していたので、旅のお供を探していたのも理由です。旅には、彼の小説『救世軍(原題:L'Armée du salut)』を持って行きましたが、結局読みきったのはパリに帰ってからでした。
読み始めると、平易な文体ながら、グッと強烈な印象を残す内容で、最後まで一気に読めました。いくつかの作品を読んだので紹介したいと思います(できれば、フランス現代文学を紹介するシリーズ第1弾にしたいです)。
2. アブデッラー・ターイアの紹介・作風
アブデッラー・ターイア(Abdellah Taïa)は、1973年8月、モロッコの首都ラバトに隣接する港街サレ(Salé,モロッコ現地ではSla)で、あまり裕福でない大家族のもとに生まれました(下から2番目の次男)。その後、ラバトのモハメド5世大学や、スイスのジュネーブ大学でフランス文学を修め、1999年にパリ・ソルボンヌ大学の博士課程に入学しました。2000年以降、フランス語での執筆を本格化し、現在では10冊ほどの小説を刊行しています。また映画監督としても活動しています(詳しくは下記の年表参考)。2006年にゲイを公表して「同性愛が違法であるアラブ世界で初のオープンリー・ゲイ作家」として、広く認知されており、フランス・モロッコ両国の新聞や雑誌に、同性愛を含むさまざまな政治的問題について寄稿しています。
「アブデッラー・ターイア」表記はアラビア語発音に近く、ターイア本人はこちらで自己紹介することが多いみたいです。一方でフランス語では「アブデラ・タイア」に近いと思われます。
作風① LGBTQ+・フェミニズム
ターイア作品には、ゲイ・トランスジェンダーの人物が多く登場します。青年期の同性愛経験や、売春行為、性転換についての物語もしばしば登場します。また男性社会が根強いモロッコにおける女性の立場(特に母親や姉妹、女中たち)についても、鋭い視点で作品に取り込んでいます。
作風② 兄弟・両親のエピソード
9人兄弟の末から2番目であり次男のターイアは、「兄・長男」のもつ男性性への欲望や「姉たち」とのシスターフッド的な共感を主人公の原体験として作品に登場させています。また、実の父母に献辞された作品もあり「家族」は重要なモチーフです。
作風③ モロッコ土着の魔術・儀式
モロッコには伝統的・土着的な「魔術」が一部存在しており、ターイア作品にも「魔術師・儀式」が登場します。ラテンアメリカなどの魔術的リアリズムとは異なり、超現実的な現象が描かれるわけではなく、「思春期の通過儀礼」や「性転換の欲望」と結びつきます。
3. アブデッラー・ターイアの書籍・映画年表
1999年:モロッコ短編集 (原題:Nouvelles du Maroc), Magellan & Cie ※ターイア短編小説を収録
2000年:わたしのモロッコ (原題:Mon Maroc), Séguier
2004年:トルコ帽の赤色 (原題:Le Rouge du tarbouche), Séguier
2006年:救世軍 (原題:L'Armée du salut), Seuil
2007年:モロッコ:1900-1960 ある眼差し (原題:Maroc : 1900-1960, Un certain regard), Actes Sud ※フレデリック・ミッテラン氏との共著
2008年:アラブの憂鬱 (原題:Une mélancolie arabe), Seuil
2009年:モロッコの若者に宛てて (原題:Lettres à un jeune Marocain), Seuil ※ターイア含む18人の作家による手紙集、ターイア選
2010年:国王の日 (原題:Le jour de Roi), Seuil ※フロール賞受賞
2012年:不貞なる者たち (原題:Infidèles), Seuil
2013年:長編映画『救世軍』 (ターイア本人による同名小説の映画化)
2015年:死ぬための国 (原題:Un pays pour mourir), Seuil
2017年:愛に値するひと (原題:Ce qui est digne d'être aimé), Seuil
2019年:緩慢な人生 (原題:La Vie lente), Seuil
2022年:あなたの光のもとに生きる (原題:Vivre à ta lumière), Seuil
2023年:短編映画「けっして叫ぶのを止めない (原題:Ne Jamais s'arrêter de crier)」(監督作品)
※関連書籍:ジャン=ピエール・ブレ『アブデッラー・ターイア、憂鬱と叫び(原題:Abdellah Taïa, la mélancolie et le cri)』(2020年, PU LYON)
4. つづく・・・
今回の記事ではアブデッラー・ターイアの基本的な紹介をしました。つづく記事では、彼の作品を紹介できればと思っています。まずはじめは、映画化もされている『救世軍』を紹介予定です。この作品は、鵜戸聡先生によって第1章が抄訳されています(収録『中東現代文学2016』中東現代文学研究会編)。ご関心あればぜひ読んでみてください!
↓ 中東現代文学会公式紹介ページ ↓
↓ ターイア本人Instagramアカウント ↓
この記事が、いつか誰かの役にたちますように。
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