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RESEARCH CAMP in ITOSHIMAレポ

2022年9月16~17日にかけて、RESEARCH CAMP in ITOSHIMAに行ってきました。詳細なnote記事は他の方が書かれているので、わたしは今回の体験で感じたことを中心に書き連ねていきます。


RESEARCH CAMP in ITOSHIMAとは

リサーチをテーマとした日本初のカンファレンスであるResearch Conferenceの事務局が主催されたフィールドワークイベント。それまではトークイベントが主に行われていた中、初のフィールドワーク!しかも講師陣が有名リサーチ本の著者!わお超豪華!ということで瞬殺でソールドアウトだったそうです。(定員15名だったのでわたしも震えながら申し込みフォームを埋めてました)

【イベント概要】

いつもの日常から離れ、新たなフィールドにてリサーチを実践するRESEARCH CAMP。初回は福岡・糸島にて1泊2日で開催します。

今回のフィールドは福岡・糸島の「本屋アルゼンチン」。週末だけオープンする、選書が素敵な小さな本屋です。 https://www.bepal.net/archives/262515

テーマは「糸島で探る知の循環の形」。皆さんは教授の研究室に足を運んだことはありますか?本棚いっぱいにズラッと並ぶ、難しそうな本たち。本屋アルゼンチンの店主・大谷さんは、とある教授との出会いから、教授がリタイアする際には本棚を研究室から引き揚げないといけないこと、そして自宅には入りきれない場合、処分せざるを得ないことを知ったそうです。

教授にとって、ある種「脳」のような役割の本たち。まとまっていることにこそ意味があり、バラ売りしてしまうのはもったいない。すべてをアーカイブとして残すにはあまりに場所を取る。しかし、本の役割や可能性はまだあるのではないでしょうか?そこで、本屋アルゼンチンでは、必要な場や人に届ける「教授の本棚」というプロジェクトを立ち上げようとしています。

今回のワークショップでは、糸島でのインタビューとフィールドワークを通して、「知の循環の形」を探索し、最終的にコンセプトの提案を目指します。その内容によっては、もしかすると本屋アルゼンチンと一緒にプロジェクト化して進めることも出来るかもしれません。

ワークショップでは「はじめてのUXリサーチ」著者の松薗・草野、「デザインリサーチの教科書」著者の木浦が講師・メンターを務めます。はじめてリサーチに取り組む方も、実務とは少し違ったリサーチを体験したい方も、ぜひ一緒に楽しみましょう。

(共催・本屋アルゼンチン)

https://research-conf.connpass.com/event/290993/

事前講義

キャンプ開催まであと2週間という頃、フィールドワークとは何か?どのように行うのか?ということがレクチャーされました。

当時は「ふんふん、なるほど」と思いながら観ていたつもりだったのですが、フィールドワークを終えてnoteを書いている今再度見直すと全然「なるほど」出来ていなかったことが分かりました。心構えや視点といったガイドは示されていたものの、実際にインタビューしていたときには全然それが頭に出てこなくて。腑に落ちてはいても自発的に実感できたイベントがないとなかなか自分の身にはならないのかもなと感じました。

フィールドワークで分かったこと・気付いたことなどをメモしていくフィールドノーツの書き方・使い方も教わりました。本番までにやってみましょうという宿題(任意)が出たので、ランチに入ったカフェで行うことになりました。…が、充電用コンセントがある席が窓側にしかなく、店内全体を見渡せないという位置どりに。ドリンクバーをつけて頻繁に席を立つ作戦に出たものの、最終的に店内配置図が完成させられないまま退店することになりました。怪しまれずにお店の中を観察してメモを書くのってとても難しいですね…。以下そのときに書いたフィールドノーツと撮った写真です。(字が汚くてすみません)


ノートを忘れたので手帳に書いた

書き初めにまず思ったのは「一体何を書こう?」でした。普通に過ごしていたら一瞬で忘れてしまいそうなモノ・コトが多すぎて、書くものの取捨選択に迷ってしまうのです。左端に見えるものから順番に箇条書きをしようと思っても、それをどのレベルの解像度で書くか悩みました。具体的な課題や仮説があるならそれに従って要る情報・要らない情報を仕分けできるものの、それがないのでカービーみたいにとりあえず全部吸い込むしかなく、ひとまず「この場に目が不自由な人がいたら店内の様子をどんなふうに説明するかな」という視点で書きました。

これに対して講師のmihozonoさんからのアドバイスがこちらです。

「おしゃれアパレルみたいな」という表現面白いですが、これも人によって想像するものが違うかもしれません。イラストを書いたり、形を言葉で表現したりしてみるとよりよくなりそうです!

これを読んだ際はそこまで大きく捉えていなかったのですが、この抽象⇔具体の行き来が個人的にはリサーチキャンプでの難題であり学びだったと強く思います。


1日目

集合場所は、糸島は二丈にある本屋アルゼンチン。三両ほどのコンパクトな電車に揺られて最寄駅の大入まで向かいます。ここが無人駅だったのですが、ホームから改札口を通ることなくダイレクトに駅の外(?)に出られる仕組みになっていて、先に着いていた他の参加者のガイドのおかげでなんとか改札機(※写真参照)まで辿り着くことができました。『無人駅』というとアナログなイメージが浮かんでいたのですが、その思い込みをアップデートしてくれる良い経験。

無人駅の洗礼を受ける

【余談】
着いたらネームプレートに①名前②バーベキューで食べたい具材(※夕飯はバーベキューなので)を書くことになっていたのですが、これがとても良かったです。おかげさまで人様の顔を見て食べ物の名前が浮かぶという、食人鬼じみた素敵な思考回路が形成されました。

テーマについての理解を深める

なんとなくこの場の雰囲気が分かってきたあたりで、店主の大谷さんと店員のみーさんに今回のテーマ「糸島で探る知の循環の形」について語っていただきます。

知の集合体

そもそもの始まりは、退官した大学の教授の本棚の中身はどこに行くの?という疑問から。
教授の本棚と書店・図書館の大きな違いの一つは、本が内容ごとに分類されていないということ。例えば、人類学の本と建築学の本が当たり前のように隣同士に並んでいる。これはただの偶然でなく、その本棚の持ち主である教授の知という独自の分類ルールによって並べられたものである(例:論文を書く際に別ジャンルのものたちに共通性を見出して並べた)。
なので、本そのものだけでなく本の並びも含めて、誰かに知を継承することで知を循環させたい。

おおまかな内容は既にconnpassに記載されていたイベント概要に載っていてそれと相違ないのですが、改めて具体的なエピソードや言葉で熱を持って伝えられると胸の中にしっかりと重みを持って何かが鎮座していくのが分かりました。

以下当時取ったメモの一部。

  • 「分かる」ことにばかり出会う人は優しくなれない。「分からない」を分かると人に優しくなれるのではないか

  • アフォーダンス※は無いときに分かる(※認知心理学における、環境が人間をはじめとする動物に対して与えている価値や意味)

  • 実際に本の処理を行った退官教授の感想「終活している気分」「自分の集大成が10万かあ(古本屋に売った人)」

  • パリの人の話「寒い日に本を積み上げて壁にすると断熱効果がある」

  • 自由連想の訓練(大人は短距離走を選んでしまう)

  • 本と文脈をどのようにセットするか(メッセージはそもそもこちらが送るのか、人が受け取るのか)

半袖で汗をかきながら参加したキャンプから1ヶ月ちょっと経ちました。現在長袖を着てこれを打っていますが、自分で書いたくせに正直「???」と思いながらメモを眺めています。心が動いたことだけは確かなのですが、詳細な前後関係まで記録できていないので、初見の物語の感動の最終回のような出来栄え。ただお話し中に何度も出てきた概念「分からないを楽しむ」に甘えますと、一つの解に囚われず思考し続けることが出来るので、これはこれで正解なのでは?と思います。

インタビューへ

様々な苦難を乗り越え、インタビュー相手のaggy💭さんのお宅へ。
テーマについてふわっと聞いて頭の中に漠然としたイメージはあるものの、具体的な問いが与えられていない我々。素敵なお家に圧倒されつつも、とにかく1つでも翌日に役立つ情報を得ようとします。ひとまず本がキーワードのフィールドワークなので、本の話を起点に疑問を投げて、返ってきた答えの中から気になるものを広げていく…という感じ。

特に印象に残ったのが、aggy💭さんの読書の定義にグループメンバーの仙田さんが感銘を受けていたことです。『目次だけを読んだ』も『ページ内の小チャプターだけを読んだ』も『読んだ』と表現しているという点で、読書のハードルが下がったようでした。「自分の手の届く範囲にあってどの本にどういった内容が書かれているか分かるだけで良い」という考え方は、本を外付けの脳のように使っているように感じました。

フィールドノーツ記入

インタビューとトライアルでのバーベキューの買い出しを終えて宿に戻ると、頭の中が新鮮なうちにフィールドノーツの記入に入ります。とりあえず他メンバーと被っても良いから10枚は書こうとしますが、これがなかなか難しい。
会話を一言一句違わずに記録することは出来なかったので要所要所のキーワードを軸にメモを取ってはいるのですが、それを参考に思い出す→補足する→文字に起こすという経過を辿っているので意図せずとも主観客観が混ざったフィールドノーツが出来上がります(そもそも会話の切り取りの時点で主観が混入している気がする)。

今回のインタビュー相手のaggy💭さんは元々UXリサーチャーをされている方です。恐らく「インタビューする側はこういう情報も欲しいだろうな」という意識を持って、わたしたちのシンプルな質問に対していくつも濃い回答を返していただきました。そんな甘やかされた環境の中であっても情報を得ることはとても大変で、フィールドワークやインタビューの難しさを強く実感しました。

フィールドノーツを力技で終わらせたあとはバーベキューへ。雨の中焼いてくれた皆様のおかげで美味しくいただけました(ありがとうございます…!)その後はぁって言うゲームやUNOで親睦を深めました。夜中に食べたアイスは罪深い味がして美味しかったです。


2日目

天気は夜に引き続き雨。早起きシェフたちが作ってくれたバーベキューの残りと焼きそばを食べて、再度本屋アルゼンチンに向かいます。

debrief

[動]他〈帰還した兵士・飛行士・外交官などに〉(…について)任務の結果を尋ねる,報告を聞く

https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/debrief/

「定性 調査のリサーチャーによる非公式な口頭による報告」

『マーケティング・リサーチ用語辞典』

前日に力技で書いたフィールドノーツを持ち寄って、チーム内で見せ合います。もう既に前日のインタビューの記憶が薄く、帰ってすぐのタイミングで記録しておくことの重要性を感じました。
ここで面白かったのが、同じ話を聞いていてもそれぞれのフィールドノーツの内容が異なっていたこと。さすがに「トマトが好き」と「トマトが嫌い」が同時に存在するほどの違いはありませんでしたが、印象に残ったことの根幹は同じでも、それの説明に含まれるキーワードの取捨選択基準には個人差があるのだという大きな発見でした。(例えばわたしは今回のチームの中では、①割と副詞のような細かい部分も書く人②共感したものも書く人というポジションでした)
事前に「各自分担して別のものを見る・聞くよりは、全員で同じものを見る・聞く方が好ましい」的なレクチャーを受けた意味がよく分かります。

人はバイアスからは逃げられないと知っておくこと。自分やチームメンバーがそれぞれどのような視点・フィルターで物事と向き合いやすいのかを把握しておくこと。そういった意識がニュートラルなリサーチには大切なのです。(メモを取り損ねたけどそんな感じのスライドがあったはず…)

ideation

そんなこんなでなんとなーく前日のフィールドワークを思い出したところで強制アイディア出し。問いも何も無いのに!時間制限もあるので「ベタなアイディアだな…」とか気にせずにとりあえず数を出します。

その後はフィールドノーツと新しく出したアイディアを眺めつつ、そこからどのような問題が見えるかを考えます。
フィールドノーツから見えてきた問題は何?このアイディアはどんな問題が見える?
これが本当に本当に大変でした。

aggy💭さんから伺ったお話からは、「何かここ上手くいかないな」というような問題が見えてこなかったのです。自分にちょうどいい本との付き合い方・生活の仕方といったルールがあり、それに従って過ごす穏やかで満足のいく日々…という印象だけが強く残っていました。

悩んでいるところにmihozonoさんが巡回に来られたので助けを求めると、「もしaggy💭さんの生活が上手くいっていなかったら、どのような問題が生まれていただろうか」という視点をいただきました。
パラレルワールドのaggy💭さんの生活について考えてチームでいくつか案を出し、再度mihozonoさんを召喚して見てもらいます。そうして返されたのが以下のような内容でした。

「まだまだ抽象度が高い。論理的思考をしているとこういう案が出やすい。これだと該当者が多すぎるし、フィールドワークをしなくてもこの案を出すことは出来ると思う。もっとフィールドワークをしたからこそ生まれたような、土の匂いのする案になるまで抽象度を下げた方がいい」

個人的には言われたときもなかなか衝撃を受けたのですが、キャンプ終了後もこの言葉がずっと頭に引っかかっていて、何か物事を見るたびに「両端に抽象と具体の目盛がついた数直線があれば、これはどのあたりに位置するのだろう」と考えるようになっています。

さておき、どうにかこうにか問題を設定してほっと一安心したところで次の指示が。正面に表示されているスライドには「New Team」の文字。

チームで一人だけがその場に残り、あとのメンバーはそれぞれ別のチームへ。残留者が問題について説明し、ニューカマーたちが先入観のない頭で問題に向き合って解決案を提案します。全く新しい解決案を出しても、元々誰かが出している解決案を改造して出してもOK。

これを二回か三回繰り返したところで、再度全員元のチームへ。すると、元のメンバーだけでは絶対思いつかなかったであろう解決案たちがたくさん残されていました。

それらを参考に最終的な案を一案発表して、リサーチキャンプは閉幕へ。


CMタイム

わたしのチームではないのですが、今回のリサーチキャンプで生まれたイベントが実際に開催されました。

リンク先の文章もイラストも動画も音楽もキャンプ参加者の方が作ったものなのですが、素敵なので見るだけでもおすすめです。
(キャンプ終了翌日くらいから計画が始まり、何もかもがすごい速さで出来ていく様子をベッドの中から見てました)


おわりに

感想を一言で言うなら「行って良かった!」です。わたし普段はリサーチ系の仕事なんてしてないど素人(※転職活動中ナレーター)なのですが、それでもとても楽しい経験となりました。参加者の方はお仕事も居住地も性格もバラバラだったのですが、人が何を感じているのかを知ることとか曖昧な概念を細かく掘り下げていくことが好きという共通点があって(※あると思っていて)皆さんお話しやすそうな雰囲気でした。

普段とは違う頭の使い方をして、多くの気付きを得られました。とはいえまだまだそれらの反芻は続いていて、日常の何かとリサーチキャンプでの何かが突如リンクしてエウレカ体験をするなどしています。

特に何度も書いている抽象⇔具体は、まだまだ頭の中をぐるぐる回る存在になりそうです。例えば帰り道にX(旧Twitter)アプリを開いて「抽象物の海じゃん…(多くの人に刺さるように書こうとしたり匿名性をあげようとしたりしてるからかな)」と思ったり、短歌で字数が合わない時は抽象化したり具体化したりすることで揃えようとしていることに気づいたりしています。

思ったことをだらだらと書き連ねただけなので長くなってしまいましたが、それだけ楽しかったということです。
企画していただいた皆さま、ここまで読んでいただいた皆さま、どうもありがとうございました。

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