ターゲット明確化とUIUXリサーチ方法について

コインチェックが持つ課題として、多サービス化に伴い各サービスで最適なUIUXを提供できていないということがあります。UX部がUX戦略を行う意味の記事でも説明してきましたが、弊社のプロダクトは多サービス化を前提として作られたものではありませんでした。そこで、まず各サービスが持つ特性に対して、どんなユーザーをターゲティングすべきかを明確にする必要があります。その上でターゲティングしたユーザーが、弊社のプロダクトをどう利用しているかをリサーチし、提供すべきユーザー体験をデザインするための判断材料とします。そして、体験設計や開発の方向性にブレが生じないよう、確定したターゲット像を共通言語とすることを目的としています。

ここではユーザーをターゲティングするにあたり、セグメントする際の変数の設定、属性パターンの作成、さらにサービスを掛け合わせてよりターゲットを絞っていきます。

ターゲット明確化のステップ

  1. セグメントの断捨離

  2. 選定したセグメントを元に属性パターンを作成

  3. ターゲティングすべき属性パターンを言語化

  4. ターゲティングすべき属性を確定

リスク許容度とは

これまで弊社で見られていたセグメントは取引額、資産額、年齢 / 性別などで、これらの属性を用いてユーザー像を考えがちでした。
しかし今回は投資に対するリスク許容度を図ることのできる変数として、本当に見るべきセグメントと切り捨てるセグメントを断捨離します。

なぜそのようなことをするのか、取引額でターゲットをセグメントした場合を例に、どういったことが起こるか説明します。

「取引金額が10万円以上のユーザーをターゲットとする」と確定したとします。10万円の取引をしてくれるユーザーの収益率は一律なので、収益の貢献度という観点では同率ということになります。
しかしユーザー単位で余剰資金が異なる場合、その10万円の価値はユーザー単位で変わってきます。

下の図のように、余剰資金が1,000万円あるユーザーにとって10万円は1%なので、取引に対してあまりリスクを取りたくないユーザーである可能性があります。
逆に、余剰資金が10万円しかないにも関わらず、10万円を暗号資産の取引に投資するユーザーは、リスクを取ってでもリターンを期待しているユーザーの可能性があります。

余剰資金に対する取引金額の割合が多いユーザーは、リスク許容度が高いユーザーでこのユーザーをターゲティングした場合、リスク許容度の低いユーザーでは発生しない新たな問題が発生します。

例えば、取引において相場が50%下落し、損失が出たとします。すると、リスク許容度が高くなるほど、下の図のように投資後に残った余剰資金に与えるダメージは大きくなるものです。

同じ10万円でも、余剰資金という観点で見ると、その10万円の価値はまるで異なるものになります。また、明日使えるお金(評価額 + 投資後の残余剰資金)が50%残るか、99.5%残るかの差は離脱率にも大きく影響を与えることになります。
取引金額の多い、少ないでユーザーをターゲティングすることは困難になるのです。つまり、本当に見るべきセグメントは、リスク許容度を図ることのできる指標ということになってきます。
ここまでくると、リスク許容度を測ることのできる指標とは何かという話になってきます。

セグメントを断捨離する

ここで一度セグメントの断捨離の話に戻ります。
例えば下記のようにセグメントに使えそうな変数を洗い出し、本当に必要な順番にランク付けます。今回は◎ > ◯ > △ の順番に評価をつけるとします。

例えば、アカウントの区分は法人であろうが個人であろうが、リスク許容度は個々が決めるものであるためあまり関係ないものになります。また、所得の多い少ないは実はリスク許容度にあまり関係がなく、ここにおいてリスク許容度に関係するのは余剰資金であると言えます。一方で世帯構成は、リスク許容度に大きく影響が出やすい項目になります。

このようにリスク許容度ごとにセグメントの断捨離を行なっていきます。

属性パターンの作成と言語化

残ったセグメントに重要度(今回は、世帯構成 > 思考 > 知識 > 売買状況)をつけて、下記のイメージのように全パターンの属性を作成していきます。

各属性パターンを評価をし、評価の高いユーザーの属性パターンを洗い出し、下記のようにさらに言語化していきます。

世帯構成と思考からみるターゲティングすべき属性パターン
独身:ギャンブル思考/堅実投資思考両方のユーザー
配偶者がいる and 扶養がいる:リスクを避けるため堅実等思考のユーザー
知識量からみるターゲティングすべき属性パターン
ざっと暗号資産全体を網羅している程度のユーザー又は、他投資は経験あるが暗号資産初心者のユーザー

縦軸をリスク許容度、横軸を知識量として、それぞれのサービスを配置し、それぞれのリスク許容度の判定を表したものが下の図になります。

実際にはそれぞれのサービスを利用するユーザーをリサーチし、それぞれのサービスが持つ特性を具体化した上で配置する必要がありますが、一旦ここでは仮置きします。

このように各リスク許容度のユーザーがどのサービスに適しているかを、このようなイメージを元にターゲティングしていきます。最終的にどのリスク許容度のレイヤーをターゲットとするかは、定量・定性的な裏付けをもって決定します。

確定したターゲットをもとにUIUXリサーチを行う

調査方法

UXリサーチを行うにあたり、定量調査としてはアクセス解析やABテストがあり、定性調査としてはユーザビリティテストやヒューリスティック分析がありますが、今回はアクセスログからユーザビリティテスト(モニタリング)を行う方法を取ります。

なぜいずれの方法でもなく、アクセスログからユーザビリティテストを行う必要があるかを先に説明します。

大前提として、ユーザービリティテストでは普段の行動を再現することができないためやらないという問題点があります。

例えば購入体験を調査する場合、購入までのタスクを洗い出して、タスク設計をした上でテストを行います。タスクを洗い出すと、アプリ起動をしてチャート閲覧、通貨を選択して購入画面に遷移、そこから購入の流れになります。

ただこのタスクを前提とすると、購入に至るまでのUXを調査したくても、資産があるユーザーとないユーザーでは総資産画面にセッションするか否かに関わってきます。また、購入する通貨が決まっているかどうか、そもそも今購入すると決めているかどうかでもまた、ユーザーのチャート画面上のアクションが変わってきます。

普段のユーザーの行動をアクセスログを抽出してモニタリングするやり方をとりました。このやり方によってアプリ内の行動の全てを追うことができ、ユーザーの自然な行動から分析することを可能にします。


調査人数とユーザーの選定方法

今回は5名のユーザーで調査します。
5名という数はヤコブ・ニールセン氏による、5人でユーザテストすればユーザビリティ上の問題のうち85%が見つかるとの説を利用しています。

3人のユーザーテストでユーザビリティ上の60%を、5人のユーザーテストで、ユーザビリティ上の85%の問題を発見できます。つまり、ユーザーテストによる発見は人数を重ねるほど少なくなっていくため、5人以上を対象にしても新たに学べることはほとんどなくなっていくというものです。

5名の選定方法については、ターゲット明確化で特定したターゲット像のユーザーをランダムに5名抽出します。そのユーザーのアクセスログを日毎かつ時間ごとに並べ、それぞれの滞在時間がどれほどなのかも同時に見られるようにします。下記はあるユーザーの行動パターンをを参考にしたイメージです。

こうして1日の行動全てを見ていくことで、購入に至る行動までのリアルが見えてきます。
上の図のような行動をしていたとすると、購入の前日と当日にチャート画面での時間足変更のイベントが発火しており、価格の動きに興味を持ち始めていることがわかります。

そしてこの行動を例に最適なUIUXとは何かを洗い出します。
例えば、購入する通貨が決まっていない場合は、暗号資産の詳細を知って決めたい場合や、騰落幅で決めたい場合があります。

暗号資産の詳細を知って決めたいユーザーは、アプリ上の機能だとチャットや通貨説明画面がで詳細を知ることができます。チャットは販売所画面に導線があり、分かりやすかったものの、既存の通貨説明画面は総資産の中にありました。総資産画面内の導線は、既に資産を持っているユーザーは総資産画面へのセッション頻度が高く、導線に気付く可能性が高いものの、資産を持っていないユーザーにとっては分かりにくいものになります。

これを解消するために、取引の導線に通貨説明の導線を置くという画面の改修等を行うことに繋がります。そうすることによって、ユーザーはチャートの情報(時間足の切替)以外にも情報を得ることができるようになります。

また、騰落幅で決めたいユーザーは、チャートトップでチャートの形を通貨を切り替えてみたい場合と、リストなどの形で一覧で見たい場合があります。実際、上の図の行動パターンではETHとBTCしか切り替えてませんが、多通貨を切り替えて見ている例もありました。リストで見たいユーザーはリストで見れるように、かつ、チャートトップとリストトップ画面の切替が無駄に発生しないような設計にする必要があります。


さいごに

ここでターゲティングしたユーザー像は固定のものではなく、事業の推移や時代の背景によって更新していくものになります。ターゲットを設定して終わりではなく、設定したターゲットをどう活用するか、時代に遅れていないかを常にリサーチし、チューニングすることが最適なUIUXの提供に繋がります。

また、ターゲットに用いる変数やリサーチ方法はごく一部で、これらの裏付けとしてさらに定量分析や定性分析を重ねて説得力を付けていく必要もあります。そして、リサーチの段階まではアナリストで行いますが、ここからはデザイナーと連携しUIUXの設計をし、最適なUIUXの提供に繋げていきます。


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