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意外なところで好みに出会ったこと【読書感想文】

初めて読んだレオ・ペルッツ作品が、ばっちりストライクゾーンだった。こういうのに飢えていたんだ。

この作品を読みました

レオ・ペルッツ著 垂野創一郎訳『スウェーデンの騎士』国書刊行会、2015年(原著1936年)

あらすじ

18世紀、冬のヨーロッパ。泥坊の名無しと、脱走兵にして貴族のクリスティアンは、寒さと飢えに耐えかね、粉挽き小屋に忍び込んだが、不意に現れた粉屋に無銭飲食の現場を押さえられ、支払いを要求された。

支払いの代金を肩代わりしてもらうため、泥坊はクリスティアンのおじの屋敷を目指す。悪禍男爵率いる盗賊狩りの竜騎兵たちに用心しながら、泥坊は屋敷にもぐりこみ、マリア・アグネータという美少女に出会った。

少女は領主であったが、周囲の大人たちは少女の無知につけこんで私腹を肥やす者ばかりであった。泥坊は彼女と一緒になるためなら、旅仲間のクリスティアンですら犠牲にする決意をした。

感想

個人的なツボは、なによりも粉屋だった。超自然的な要素というのは他にいくらでも出てくるのだけど、粉屋が一番ツボに刺さった。家族愛と作者の信仰といった点からも読めると思うのだけれど、私の興味を最後までひっぱりつづけたのは粉屋だった。

粉屋はどこからともなく現れる。常識が通用しないような登場の仕方をする。粉屋は世間の噂通りの存在なのか、それとも粉屋自身が語るような存在なのか。粉屋の語りだって、噂と同じくらい信用できないのだけれど。

本作はヒロイックファンタジーやSword & Sorcery(剣と魔法)といったジャンル名が出来上がるより前、1936年に書かれた。コナンと同時代だが、原著とアメリカのパルプ雑誌との関係はなさそうだ。言語が違うし、関係があったら訳者解説に書いてあるだろう。

関係はなくても、この『スウェーデンの騎士』にはヒロイックファンタジーらしい雰囲気がある。ヒロイックファンタジーの構成要素として怪奇があると思うが、その怪奇の部分に、粉屋がぴったりとはまっている。

どちらかというと時代小説なのかなと思って手にとった本書は、私好みのヒロイックファンタジーのようでもあった。読めてよかった。

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