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アイアイだけど北の島【読書感想文】

ファファードアンドグレイマウザーは人生

この作品を読みました

Fritz Leiber, Rime Isle (Swords and Ice Magic, Open Road Integrated Media, 2014所収)

(アイスランドのような島が舞台の小説についての読書感想文のため、アイスランドの写真をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます)

Rime Isleは『ランクマーの二剣士』の訳者あとがきで、浅倉久志先生が氷の魔法の二剣士として紹介なさっていた本に収録の中編だ。

この電子書籍には解説も、初出年も載ってないのだけれど、こちらのブログ日本語版Wikpediaによると1977年にCosmosという雑誌に登場したのが初出らしい。

日本語訳されたものを全部読み終えたあとの方が、本作を楽しめるだろう。なぜなら、Swords and Ice Magic所収作の時系列は全て『ランクマーの二剣士』より後のもので、日本語訳された全ての作品(どれも1970年かそれ以前に発表されたもの)より後に発表されたものだからだ。

あらすじ

(結末を含むネタバレがあります)

いくつもの出会いと別れを経て、ファファードは放埒、というよりは内省という言葉が似合う感じになってきた。グレイマウザーは、そんな彼を茶化しつつも引きずられつつあった。

そんな二剣士は、〈霜の島〉から来た二人の美女AfreytとCifの頼みで手勢を駆りあつめ、大海賊団に対する用心棒のつもりで島に上陸した。しかし、島民に歓迎されないどころか港の使用料まで請求されてしまう。石頭の港長Gronigerは海賊の危機などないと言いはるし、顔見知りのはずの美女たちは知らんぷりを決め込む。

人目を盗める状況になってようやくAfreytとCifに教えてもらったところでは、彼女たちはオーディンとロキという死にかけの神々を救い、その際に海賊が〈霜の島〉を襲うと予言されたのだという。二人は聞き覚えがあるようでそうでもないような名前の神々に引っかかりを感じるも、思い出すことができない。

ファファードは陸上で海賊を迎えうつべく部下を連れて出発し、マウザーは海賊を一網打尽にするために〈大渦巻〉を使えるのではと企み、調査のため海に繰り出す。彼らが留守になったあと、港町では独断で二人を雇い入れたAfreytとCifが横領で告発され、査問会に召喚されていた。

Cifの窮地にグレイマウザーは、無策ながら態度だけは堂々と、査問会に出向いた。神々の予言などこれっぽっちも信じる気がないGronigerを前にして、マウザーは不意に意識を失う。目を覚ますとマウザーを除く全員が、海賊と戦うという決意に満ちているのだった。

その頃ファファードは、はやる部下(みな狂戦士berserkであった)を抑え、弓矢だけで海賊の先遣隊を返り討ちにしていた。しかし、昔の因縁が二ついっぺんにやってきて、ファファードをして本隊から離れさせ、島の少女を救うための単独行動を決意させる。

マウザーは、自分が何を語ったのか尋ねて回るが、周りのものもまた記憶が曖昧だった。答えは得られないまま、マウザーは松明にロキが宿っていると主張するCifたちに引きずり回される。Cifたちは目印のない洞窟を駆け足で進み、慎重にいこうというマウザーの諫言に耳を貸さないが、走っているにもかかわらず炎が前方になびくのを見ると、マウザーもCifたちの信仰を認めざるを得なくなった。

ファファードは因縁を精算、あるいはこじらせて部下のもとに戻った。マウザーは火山でさらなる疑問に見舞われたのち、艦隊を率いて洋上にでた。もはや主導権は二剣士の手を離れ、無神論者から狂信者に転向した島民たち、あるいはオーディンとロキに移っていた。

島民たちは首に輪縄をつけよというオーディンの不吉な教えに従っていてファファードをぞっとさせ、マウザーはといえば、自分が島民に戦術ではなく死の栄光を説いたのだと、老水夫オウルフを通して知った。

結局、人智ではなく、神々の黄昏さながらの神威が大海賊団を退けたが、危機が去ってみると島民たちはおろか、AfreytやCifさえも狂信からさめていた。そして、すっかり無神論者に戻った港長Gronigerが、各種費用やら横領やらの話を持ち出すのだった。

感想

永遠の戦士は神話、キンメリアのコナンは文学、ファファードアンドグレイマウザーは人生。ググッてみたら、文学、芸術、人生の並びになってるから、神話が出てくるのは私の記憶違いかも。

本作(Rime Isle)で二剣士は、自分と相棒の心配だけをしてればいい、なんてお気楽な立場から、より大きな責任を持つ立場になっちゃってる。キンメリアのコナンが盗賊から傭兵隊長、そして……、というのとは似てるようで違ってて、ファファードアンドグレイマウザーが人生だなって思うのはこういうところだ(コナンをくさすつもりはないです、念の為)。

比べると、いうのはあまり軽々しくやるべきじゃないと思うのだけど、上に並べた三シリーズのうち、不本意な事態がおきたとき逃げる以外の手がないことの割合が最も多いのはどれだろう?

答えはファファードアンドグレイマウザーかもしれない。たとえば、「クォーモールの王族」の結末や「ランクマーの二剣士」の結末のように。数えてないから間違いかもしれないけど。

もうちょっと言葉を足すと、二剣士はうまくいかないなりに日々を過ごしている。二人は、膝の痛みこそ訴えないけど、老化(老成?)はしている。後続の作品”The Curse of the Smalls and the Stars”では昔より酒量が減ったと二人がこぼしたりしていて、読めば読むほど、そうそう、それが人生、なんて気分になってくるのだ。


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