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読書感想文ほか

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ファンタジーやSF(いずれも広義の意味での)の感想文です。 Photo at header by NordWood Themes on Unsplash https://unsp…
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#海外文学のススメ

【ネタバレ有】音楽好きじゃない?『鑑識レコード倶楽部』のこと

レコード倶楽部に所属しているのに音楽好きじゃない、と非難されてしまった主人公はどんな奴なのか?と考えつつ『鑑識レコード倶楽部』について語ってます。 レコードつながりでヘッダー画像をお借りしました。この場をかりてお礼申し上げます。 この作品を読みましたマグナス・ミルズ 著 柴田元幸 訳, 鑑識レコード倶楽部, 2022, アルテスパブリッシング, (諸事情でkindle版を購入) 原題はThe Forensic Records Society, ハードカバー版が2017年

意外なところで好みに出会ったこと【読書感想文】

初めて読んだレオ・ペルッツ作品が、ばっちりストライクゾーンだった。こういうのに飢えていたんだ。 この作品を読みましたレオ・ペルッツ著 垂野創一郎訳『スウェーデンの騎士』国書刊行会、2015年(原著1936年) あらすじ18世紀、冬のヨーロッパ。泥坊の名無しと、脱走兵にして貴族のクリスティアンは、寒さと飢えに耐えかね、粉挽き小屋に忍び込んだが、不意に現れた粉屋に無銭飲食の現場を押さえられ、支払いを要求された。 支払いの代金を肩代わりしてもらうため、泥坊はクリスティアンのお

ファンタジーの水源「サガ」を読んでみた

指輪物語やコナンがペーパーバックになるまえ、ファンタジーに飢えた人はサガやゴシック小説を読んでいた、という文章をどこかで読んだ気がする。 どこで読んだのかと、手元の本をあさってみたけれど、どこにも見当たらない。英米のヒロイックファンタジーのうちどれかだった気がするのだが、どこにも見当たらない。 ひとまず、先人たちは自分たちのファンタジー欲を満たすためにサガを読んでいたことにするとして、本記事の筆者も先人たちの感覚を追体験したくなった。だから、読んでみた。 (サガといえば

宝石髑髏: 「リチャード三世」と「盗賊の館」の共通点

その髑髏はどこから?シェイクスピアの「リチャード三世」でクラレンスが夢を語る場面こそ、フリッツ・ライバーの短編小説「盗賊の館」に登場する髑髏オーンファルの発想の源なのではないか? なにをいまさら。ライバーの経歴(後述)はもちろんのこと、英米のフィクションを読めば八月に真夏日が出るのと同じくらいシェイクスピアにでくわすものだし、髑髏オーンファルについても、きっとファンの交流会とかでは何度も話題になったにちがいない。 「盗賊の館」以外で筆者が偶然に出会えたものだと、タニス・リ

【読書感想文】「ベルゼン急行」フリッツ・ライバー著

雑誌掲載オンリー幻の短編「ベルゼン急行」は、まさにライバーな名品だった。一週間で二回読んだ。 収録誌は以下の通り。 フリッツ・ライバー(金子浩 訳)「ベルゼン急行」1975(『S-Fマガジン』1998年11月号に所収) 分量はというと、約14700文字の短編。ざっと以下のように計算した。 28文字*25行*2段*12頁-(28*25*3)=14700 あらすじ(全体で三分の一くらいのところまでのあらすじを書きます。本記事は、未読の人の興をそがないように-ネタバレ注意

【読書感想文】フリッツ・ライバー「円環の呪い」

ファファード&グレイマウザーというファンタジーが好きです。 どのようなお話か?というと、冒険活劇と幻想怪奇のマリアージュといった感じの小説です。 今回は前回の記事(↓)の続きみたいな感じです。 https://note.com/f_itoga/n/n188c43b8881b 『死神と二剣士』に所収の「円環の呪い」(原著1970年)の話をします。あらためてお話するのもなんですが、「円環の呪い」も「痛みどめの代価」も、1970年の単行本にあわせての書き下ろしです。対になっ

【読書感想文】フリッツ・ライバー「痛みどめの代価」

ファンタジーのなかでもファファード&グレイマウザーが好きです。 シリーズもの?と、いう質問がでたとしたら、 いいえ。一話完結の短・中編を集めて時系列順に並び替えたものです。初出のときは、一話一話で独立していた作品を、単行本化にあたって連作短編のようにしました、と答えます。 上のほうにも書きました「痛みどめの代価」は、1970年の発表(原著)の短編です。フリッツ・ライバー(1910-1992)の手になるファファード&グレイマウザーもの(1930年代後半に発表)のなかでは後

【読書感想文】シーベリー・クイン「道」初読

どんな作品?子どもたちにお馴染み、あの人の来歴を解き明かす短編ファンタジー小説。 どうすれば読める?「道」(以下、本作)を収録している物理書籍あるいは物理雑誌で読める。 筆者は『幻想と怪奇 7』(新紀元社、2021)で読んだ。 発表は『ウィアード・テールズ』1938年1月号(前掲書による)。 シーベリー・クイン著 荒俣宏訳「道」(牧原勝志編『幻想と怪奇 7』新紀元社、2021 末尾の注に「風間賢二編『クリスマス・ファンタジー』筑摩書房(1992)より再録」とあり) な