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読書感想文ほか

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ファンタジーやSF(いずれも広義の意味での)の感想文です。 Photo at header by NordWood Themes on Unsplash https://unsp…
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記事一覧

ポーランドのボクサー榴弾砲

ある本から別の本へ、つながりをたぐりよせて読んでいくのは楽しい。 『フルメタル・パニック! FAMILY』という長寿シリーズ(略称フルメタ)の最新作をきっかけに『ポーランドのボクサー』を手に取り、それぞれの登場人物について身勝手な憶測をめぐらせる、そんな読みをした。 ヘッダー画像は、移動や引っ越しといった、上記二冊の本に共通する点にちなんでお借りいたしました。この場を借りて御礼申し上げます。 読んだものこれは、以下二冊の話をする記事です。 エドゥアルド・ハルフォン著・

【ネタバレ有】音楽好きじゃない?『鑑識レコード倶楽部』のこと

レコード倶楽部に所属しているのに音楽好きじゃない、と非難されてしまった主人公はどんな奴なのか?と考えつつ『鑑識レコード倶楽部』について語ってます。 レコードつながりでヘッダー画像をお借りしました。この場をかりてお礼申し上げます。 この作品を読みましたマグナス・ミルズ 著 柴田元幸 訳, 鑑識レコード倶楽部, 2022, アルテスパブリッシング, (諸事情でkindle版を購入) 原題はThe Forensic Records Society, ハードカバー版が2017年

登場人物の性別が想像と違っていたこと

シールバに性別を含意する単語が使われていて驚いた。フリッツ・ライバーの未訳短編小説「The Curse of the Smalls and Stars」(ファファードアンドグレイマウザーのうち一作)を読んでいたら、シールバの性別が書いてあったのだ。 (この場を借りてヘッダー写真の撮影者さんに御礼申し上げます。上述の小説の登場人物の描写、および描写から私が想像したイメージは、影絵のようなものなので、こちらのモノクロ写真をお借りしました) ちょっと深呼吸。本記事の趣旨は、翻訳

ありがたや、冬の王三部作が完結 読書感想文

14世紀のルーシが舞台で、けなげな魔女やきえかけの精霊たちの歴史ファンタジーを読みました。 冬の炉端で活字に触れるというイメージに胸を打たれ、ヘッダー画像をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。 この作品を読みました冬の王三部作は『熊と小夜啼鳥』『塔の少女』『魔女の冬』からなる小説です。 原著はそれぞれ2017,2018, 2019年に出版されていて、翻訳は一作目が2022年、二、三作目は2023年に出版されました。著者はキャサリン・アーデンという方で、訳者は

そのドクターは信用できる?【読書感想文】

新しい作風を浴びるのは気持ちがいい。そう思える読書体験ができました。 この作品を読みましたエマ・トルジュ 田辺千幸訳「はじまりの歯」(『SFマガジン』2023年4月号、早川書房) (ヘッダー画像は作品の主題ーー次の世代ーーに合わせてお借りいたしました。この場を借りて御礼申し上げます) SFマガジン解説によると初出はLightspeed誌(2018年6月)。英語なら無料で読めるのだが、本記事の筆者は英語が駄目なので日本語訳で読んだ。翻訳というのは本当にありがたいのです。

泡で頭を使う。シャンプー、否ベーコンの話。

「世界は泡」で始まるフランシス・ベーコンの詩が、おなじく世界を泡と表現※した作家フリッツ・ライバーの好みに合いそうだなと思って読んでみた。 ※『ランクマーの二剣士』(東京創元社)の153pおよび410pに、世界を泡とする表現があります。 ヘッダー画像は泡つながり、そしてお酒とは腐れ縁の仲であるフリッツ・ライバーにちなんで、お借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。 詩の原文出典はこちら。PDFのページ数でいうと136 / 397ページ目です。 拙訳勢いあまって、

『イラク水滸伝』がエルリックに繋がった喜び【読書感想文】

新刊ノンフィクションを読んだら、60年代ファンタジーを新しく楽しむことができました。 この作品を読みました高野秀行, 『イラク水滸伝』, 2023, 文藝春秋  この本は、高野秀行さんが、2018、2019、2022年の3回にわたってイラク南東部にある湿地帯を取材した記録をまとめた本です。  ヘッダー画像は、本と本が繋がるイメージとしてお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。 あらすじ(構成) 全8章で、第1〜3章が2018年の取材に、第5章が2019年、第6

ぐるぐるまわるは質屋さん『ジャーゲン』【読書感想文】

身も固めて地に足をつけてる質屋さんが、地に足をつけてる人間なら絶対にしないような冒険へと放り出されてしまう小説を読みました。 そんな不思議な作風に寄りそうと感じて、ヘッダー画像を使わせていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。 この作品を読みましたジェイムズ・ブランチ・キャベル著, 中野善夫訳, 『ジャーゲン《マニュエル伝》』, 2019, 国書刊行会。原著は1919年刊行。 一言でいうならファンタジー小説なのですが、2019年初版の帯には「こんなのファンタジイ

白馬と盗賊のニューヨーク【読書感想文】

盗賊と馬が出ればヒロイックファンタジー、たとえNYが舞台でも。と、いうのは言いすぎかもですがヘルプリンの『ウィンターズ・テイル』はヒロイックファンタジー(剣と魔法、Sword & Sorcery)好きとして大満足でした。 この作品を読みましたマーク・ヘルプリン 岩原明子訳『ウィンターズ・テイル』上下、早川書房、2014の電子版(ハヤカワ文庫epi)、原書は1983年、同訳者によるハヤカワ文庫FT版は1987年。 本作はニューヨーク(市)を舞台に、19世紀末から約100年に

ロキと穴掘りとダウジング【読書感想文】

地の底へ引きずり込まれた相棒を救う手段は、必ずしも魔法じゃなくても、剣じゃなくても良いらしい。 この作品を読みましたFritz Leiber "Mouser Goes Below"(“The Knight and Knave of Swords”, ‎ Open Road Media, 2014に収録) Mouser Goes Belowはフリッツ・ライバー自身によるファファードアンドグレイマウザーもの(剣と魔法ジャンルの一つ)の最終話で、1988年の発表らしい。発表順で

アイアイだけど北の島【読書感想文】

ファファードアンドグレイマウザーは人生 この作品を読みましたFritz Leiber, Rime Isle (Swords and Ice Magic, Open Road Integrated Media, 2014所収) (アイスランドのような島が舞台の小説についての読書感想文のため、アイスランドの写真をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます) Rime Isleは『ランクマーの二剣士』の訳者あとがきで、浅倉久志先生が氷の魔法の二剣士として紹介なさっていた本

意外なところで好みに出会ったこと【読書感想文】

初めて読んだレオ・ペルッツ作品が、ばっちりストライクゾーンだった。こういうのに飢えていたんだ。 この作品を読みましたレオ・ペルッツ著 垂野創一郎訳『スウェーデンの騎士』国書刊行会、2015年(原著1936年) あらすじ18世紀、冬のヨーロッパ。泥坊の名無しと、脱走兵にして貴族のクリスティアンは、寒さと飢えに耐えかね、粉挽き小屋に忍び込んだが、不意に現れた粉屋に無銭飲食の現場を押さえられ、支払いを要求された。 支払いの代金を肩代わりしてもらうため、泥坊はクリスティアンのお

外套と酒場の小説を読んだ【読書感想文】

「赤いマント」という短編小説が剣と魔法らしくて大満足で、かつフリッツ・ライバーらしさもあって、大大満足だった。 唐突にライバーを出したことへの弁解は後ほどするとして、書誌情報は以下の通り。 エレン・カシュナー(井辻朱美訳)「赤いマント」(『剣の輪舞〈増補版〉』2008、早川書房に収録) 分量約7900字 40文字*18行*11頁 短編ファンタジーの中でも短めなほうだろう。 あらすじ剣の腕はからきしなのに挑発癖のあるアレクと、彼のそんな欠点すら好んでいる剣客リチャード

ファンタジーの水源「サガ」を読んでみた

指輪物語やコナンがペーパーバックになるまえ、ファンタジーに飢えた人はサガやゴシック小説を読んでいた、という文章をどこかで読んだ気がする。 どこで読んだのかと、手元の本をあさってみたけれど、どこにも見当たらない。英米のヒロイックファンタジーのうちどれかだった気がするのだが、どこにも見当たらない。 ひとまず、先人たちは自分たちのファンタジー欲を満たすためにサガを読んでいたことにするとして、本記事の筆者も先人たちの感覚を追体験したくなった。だから、読んでみた。 (サガといえば