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夏空に、涙とビール。

私が人生で一番美味しいと感じた1杯の話。

私は夏生まれで、小さい頃からずっと夏が好きだ。
そんな私がさらに夏を大好きになった日があった。

2015年、8月。
その頃の私は、友人の影響で音楽にどっぷりとハマっていた。
毎日耳にはイヤホン。通勤の間はずっと音楽に救われていた。
イライラした時も、悲しい時も、楽しい時も、ずっと頭には音楽が絶えず流れていた。

そんな私を、友人が夏フェスに誘ってくれた。
初めての夏フェス、その日が楽しみで毎日そわそわしていた。

グッズが欲しくてスタートの2時間前に到着する送迎バスにのり、ゆらり揺られて広い会場へと向かった。その日はとても暑くて、バスを待っている列にいる間にペットボトルのお茶は飲みきってしまっていた。

到着して、グッズを買って、スタートまであと1時間半。
友人と目を合わせて、一目散で向かった先。

【ビール冷えてます】

首から下げた小銭ポーチから小銭を出して、ビールがなみなみ注がれたカップをもらう。空いている席もあるのにそこまで待ちきれずに、2人でビールが溢れないようにゆっくりと乾杯した。

一口飲むと、空が広くてビールは美味しくて、今までの色んなことがどうでも良くなった。

ああ、この日の為に生きてきたんだな。

なんてことを、素で考えた。
それからその1日はものすごい速さで過ぎていって、あっという間に日は暮れた。涼しくなってきた頃、芝生に座ってまた乾杯をした。
そうしたら今度は無性に泣きたくなった。

この日が終わってしまう。

それが本当に本当に、ものすごく切なくて泣けた。
今までも泣きながらお酒を飲んだことはあったけれど、こんな気持ちの涙と一緒にお酒を飲んだのは初めてだった。

世の中には、こんなに幸せなことがあるんだ。
そんな気持ちのまま、帰りのバスに乗った。
日焼けが少し痛かった。

この1日が終わって、それが繰り返されて夏が終わる。なんだか清々しくて満たされていて、どうしようもなく幸せで切なかった。


今年はというと、夏フェスも何もかもが中止の連続だった。
ライブハウスは存続の危機で、音楽はこの耳に流れてくる音源だけ。
それでも、あの日があったから。あの日のビールと涙があったから。
生きていればあんな素晴らしい日が来るって教えてもらったから。

今日も生きていけます。

真っ暗な夜空の中で、1人で缶ビールを飲みながら、あの日やそれから出会った素晴らしい1日を思い出して夕涼みをする夏。

こんな夏も悪くないなと思えるのは、大人になったからでしょうか。

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