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おぼろ月夜と春の足音

今宵の月は嫌というほど明るく、静まり返った路のコンクリートを照らす。

絶えず流れる霞んだ雲の隙間から朧月が顔を覗かせる。
なんとも禍々しく、それでいて凛としたその姿に憧れながら
ふらつく足どりで夜の街を歩く。

人はいない。響くのは自分の足音。
ポケットの中の擦れる音。
ゆったりと流れる川の音。

たまの線路の音と車の音。
静寂の中に柔らかな音と少しの硬さが混じった気配を聴きながら、
進む足取りに身を任せている。

道の端には桜が咲いている。
全ての時間が止まっているようにも、進んでいるようにも感じる。

霞がかった雲が月光を発散させる。
その絶えず変化する光景に何かしらの面影を探している。

彼らは私に何も言ってこない。何も求めてこない。
ただそこに在るだけである。

その身勝手さに羨ましさすら感じる。
春の夜に私を溶け込ませようとして、受け入れられず、
ただ、間を彷徨っている。

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