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万博の記憶と匂いが残るドバイへ -🇦🇹リンツ3ヶ月滞在記 -

オーストリア・リンツ美術工芸大学への3ヶ月交換留学(2023年4月から7月まで)について書いていく。留学先はリンツ美術工芸大学(University of Arts Linz)のInterface Culutres Departmentだ。

今日はドバイ編。
オーストリアに到着する前のトランジットで寄ったドバイと2020年の万博のお話。

ドバイ近く、砂漠の上の朝焼け

長時間の飛行機に乗ったことがなかったので、飛行機で朝を迎えるのは初めてだった。機内での朝ごはんを食べながら外を眺めていると、真っ暗な空がゆっくりと赤く染まり、太陽が昇るとともにあたりが深く色づき始め、広大に広がる砂漠を照らし始めた。

ドバイ付近の砂漠の上の朝焼け

早朝のドバイは想像以上に美しかった。砂漠の上での朝焼けは、"何もなかった"。あたりには人も建物も植物も、山も川も雲も、何一つなく、その"何もない"ことが生み出す独特の美しさがあり、その嘘のようなコントラストが私の記憶に焼きついた。
人のいない自然への憧れと、壮大な無が作る深い色合いに圧倒されてしまう。

その朝焼けの美しさと、それが毎日繰り返されているという現実をしばらく考えていると気づいたらドバイに到着していた。

明らかに栄えた近代都市としての華やかさと、背後に広がる無限の空き地。そのような極端な景色が隣り合うのがドバイの風景だった。まだ人の気配が少なく、巨大なドバイモールには清掃員しかいなかった。

ドバイの景色

2020年ドバイ万博の開催跡地へ

ブルジュハリファやパームジュメイラへなどの有名観光地への興味はあったが、時間が限られていたことと観光料金もなかなか高かったことから、2020年に開催されたドバイ万博の跡地、Expo City Dubaiへ足を運ぶことに。2025年には大阪万博が控えているので、その万博への期待とともに、かつての祭りの名残を感じたくなったのだ。

駅を出たところのゲート

駅を出ると、奥行きがわからなくなるほどに壮大な空間を思わせる、歪な形をしたゲートや建築物が建ち構えている。壮大なスケールの敷地とは裏腹に、あたりには人一人いなく、人類がいなくなった街を描いたSFの世界のようだ。

エントランス正面の広場

敷地内には、おそらく著名な建築家がデザインしたであろう歪んだ形状の建物がいくつもあり、それとは別に各国をモチーフとしたパビリオンが立ち並ぶ。パビリオンでは各国が誇る文化や技術を凝縮した空間になっており、万博のスペースに世界全体が広がっていた。
壮大な敷地内では歩き出回るには広すぎるためバギーに乗るか、電動スケートボードに乗って移動するようだ。

昆虫のような展示貿易センター
ロシア館
スロベニア館

Dubai Expo Cityには主要なパビリオンがいくつかあり、それぞれのパビリオンではモビリティやサステナビリティ、女性の社会進出などをテーマにしている。各パビリオンごとにチケットがあったり、全て見れる1dayパスなどがある。

  • Terra – The Sustainability Pavilion

  • Alif – The Mobility Pavilion

  • Vision Pavilion

  • Women’s Pavilion

Alif - The Mobility Pavilion

次の飛行機まであまり時間がなかったため、Teraというキノコのようなパビリオンに入ることにした。
TerraのテーマはSustainabilityということで人類の選択が環境に与えている影響を探求し、次世代のために地球を保護するために海の底から生物と人間の関係を考えさせるようなテーマ設定になっていた。

Terra - The Sustainability Pavilion(公式HPより)


パビリオンの中では海のプランクトンや微生物から、クジラなどの哺乳類に至るまで、あらゆるスケールでプロジェクションマッピングされた映像やサウンド、照明などが使われた展示が続いている。
中には気候変動に関するクイズにレバーを引いたりなど、2択で答えていくようなインタラクティブな展示もあった。
海底のプラスチックの問題や温室効果ガスなど、未来の希望!というよりは少し気候変動に対する負のメッセージが強すぎると感じてしまう。

特に印象的だったのは、イギリスアーティストMat Collishawの立体ゾートロープの彫刻「Equinox」。花を模した立体物がゾートロープという映像装置になっており、回転することで中の昆虫がアニメーションとして見えるという作品である。
花びらがシャッターの代わりになって昆虫が舞い踊るアニメーション、そのインパクトとアニメーションそのものの美しさが印象に残った。
静止した物の連続を見ることで物に動きが生まれ、そこに物語が生まれていくプロセスは人間が生み出した唯一の表現としてとても素晴らしい。

Mat Collishaw / Equinox
Art's & Collection より

時間がなかったので美人な現地のガイドさんが急ぎでツアーしてくれ、私のために全部の作品を丁寧に説明してくれた。そのガイドさんに挨拶をしてTeraのパビリオンを後にし、急いで時間のある限り他のパビリオンを見てまわりながら駅へと戻る。

Terraの外からの眺め

岡本太郎「太陽の塔」での生命のエネルギーの洗礼を受けたこと

ここで、日本の万博である太陽の塔で洗礼を受けた話をする。

渡航する前に大阪に行って岡本太郎作の太陽の塔の展示を見ることができた。
太陽の塔は、芸術家の岡本太郎がデザインし、1970年に開催された日本万国博覧会のシンボルゾーンにテーマ館としてつくられたパビリオンであり、博覧会閉幕後約50年近く内部の様子は公開してこなかった。だが、博覧会以降原則非公開だったものを復元・再生し、2018年3月より公開された。

太陽の塔の背中

太陽の塔は万物のエネルギーであり、生命の祭りや祈り、をテーマにした作品で、仮面や民族をテーマにした地底から入り、生命の樹を階段を上がってたどりながら、生命の誕生から現代の人間、そして未来へと続くような展示になっていた。
その生命の樹にいる生物たちのエネルギーに圧倒されてしまった。
それぞれの生き物の目が鋭く、力強く、何か現代の人間を拒絶されているような気持ちになり、「もう二度と入りたくない」と思うほどにある種の恐怖を感じてしまったのだ。

太陽の塔の最後には「芸術は呪術である」という岡本太郎の言葉が壁に描かれており、まさに自分は生命の呪いを受けたかのような感覚があったのだ。

万博は国や世界の発展や未来の希望をテーマにしているが、彼はそれに対する警鐘を共に鳴らしていたことが実感としてあった。そしてそれは芸術だからできたことであると言える。
両義性や矛盾、負の力強いメッセージなどは表面的には表せないものの、作品として圧倒され、空間として身体に直接訴えてくる力があるのは芸術が持つ力である。

ドバイ万博はとても壮大で綺麗で、明るいイメージの万博であり、未来への期待とともに、気候変動に対しても直接的なメッセージを受け取った。
それと岡本太郎から受けたエネルギーの強さに比べた時に、何かしらの物足りなさを感じてしまったのだ。

2025年には大阪万博が控えているが、彼の太陽の塔のようなエネルギーのある作品が作られるだろうか。
芸術しかなし得ないあのエネルギーを密かに期待している。

オーストリアへ向かう

短い滞在だったが、ドバイの風土と万博の名残に触れることができた。
その祝祭の重要性や場所として残していくことの重要さを考えながら、乗り継ぎの飛行機に向かう。

ドバイでの短い期間で色々なカルチャーショックを受けたことで、オーストリアでの生活がだんだんと楽しみになってきた。それとともに、果たして現地でのエネルギーや芸術がもつ力を受け止め切れるか、という一抹の不安を抱えながらドバイを後にするのであった。


オーストリア到着後のジェームス・タレルの「skyspace Lech」についての記事はこちら。


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