マガジンのカバー画像

□ 小さい物語、凝集

3
小さい物語。その一片。 詩音はゆる結合、こちらは凝集
運営しているクリエイター

記事一覧

□「サボタージュ/エスケープ」

□「サボタージュ/エスケープ」

発作的にバスを降りた。

仕事に向かうはずだった。
職場の近隣行きのバスに乗っていた。

ただし、遅刻は確定だった。



もう、何ヶ月もオーバーワークが続いていた。

5人の仕事を4人でやる事になった。
4人の仕事を3人でやる事になった。
「業務を軽減する為の業務」が新たに加わった。
業務を軽減する為の新たな手順の構築、マニュアルの全改定、検証及び周知が必要になった。

その後また4人になった

もっとみる
□ L

□ L

私はその時、その部署のチームリーダーと交際していた。
リーダーのLはさほど賢くはなく、情に流されいつも仕事を抱え込んでいた。本人は英雄ぶって、周囲は体のよい押し付け相手として、リーダーに仕事を回した。結果無茶な物量と締切で業務にあたり、雑なミスを犯した。
そもそも部署に配属された初日、私は嫌悪と陳腐さをLに感じていた。
これから世話になる歳上の先人に、全く生意気で失礼な話だが、そう感じていたのだか

もっとみる
□「皿を割る」

□「皿を割る」

先日、料理中に皿を割ってしまった。
右手の親指に絆創膏を貼っていたのが滑り、掴み損ねたのだ。
絆創膏は、缶詰のふたを開けた時、その鋭い角に皮膚が破れたから。
カレー用のスパイスの缶で、ちからの入れ方に難があり、プルリングがねじ切れたところにできた尖りにうっかり触れた。
まち針の玉のような鮮血がみるみる顔を出して、
キッチンペーパーで止血した指を高く掲げながら
自身の粗忽さを罵る。

がっかり、とい

もっとみる