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読書力があれば、知の獲得から自由になれる

「本を読めば、なんでも理解できる人間になりたい」

編集者というと、子供の頃から本の虫だったように思われるが、僕は違う。読み書きは遅咲きだった。「ひらがな」でさえ小学3年生までまともに書けず、高校になるまで主体的に読んだ本は皆無だった。

転機は大学3年のとき、初めての海外旅行でインドに行ったことだ。30年以上前のインドは経済とは無縁の、ありのままの地球が剥き出しのままのような国だった。南部の小さな村に滞在したのだが、寝室にコウモリは入ってくるし、朝起きるとカメレオンが部屋の前にいる。

自然が豊かといえば聞こえはいいが、経済途上国であり衛生状態も決して良くない。それでもインド人は堂々と生きていた。彼らは信心深い。物質的な豊かさには目もくれないかのように、生きる幸せを語る。神への感謝を語る。村では滞在中も亡くなる人がいたが、輪廻転生を信じる彼らの生き方は、生も死も受け入れる力強さを感じた。

インドから帰国してから貪るように本を読んだ。生まれて初めてのカルチャーショックだったのだ。自分や日本人とは全く異なる価値観に触れ、それはどこから生まれてくるのかを知りたくなったのだ。インドに関するあらゆる本を読んだ。さらに、社会学、文化人類学、民俗学、宗教学、心理学などの本を片っ端から読んだ。その中には十分に理解できるものもあればあまり理解できないものもあったが、自分が知りたいと思ったことに対し、本を読めば理解できることの喜びを初めて知った。

近所には比較的大きな本屋さんがあった。ある日のこと、そこで本を探していたとき、ふと思った。

「ここにある本を読みたいと思ったら、どれでも読んで理解できる人間になりたいな」

どんな本も理解できるということは、知りたいことは本を読んで学べる。こんな自信が得られたら、僕は知識の習得から自由になれるのではないか。教えてくれる学校を探さなくても、自分自身で知識を獲得できるとは、何と素晴らしいことだろうか、と。

就職では海外協力の仕事をしたいと思って入った経済団体だったが、配属されたのは出版部だった。これが社会人デビューであり、僕は編集者という道を半ば偶然で歩み始めることになった。
編集者は本を読むのが日常の一部である。年間100冊以上読むのは当たり前。経営や経済についての知識はもちろんのこと、認知心理学や複雑系、脳科学などの未知の領域も本を読むことで学ことができた。本を読むのはアウトプットするためであり、勉強してるのか、仕事しているのかわからない魅力が編集者の仕事にはある。

大学生の時「どんな本も読めば理解できる人になりたい」という思いがどこまで実現されているか、日々測るように本を読んできた。間違いなく、僕は本によって知識の領域を広げ、本によって考える力を身につけ、本によって一流の著者との出会いも実現されてきたのだ。本はまさに僕にとっては知の相棒であり、自分の思考を作り上げる上で欠かせないものとなっている。

本に代わるメディアはあるか

一方で、「分厚い本は読まれなくなった」という風潮がある。それは僕が扱っていたビジネス書界隈でも言われており「300ページを超える本は売れない」のが一般論である。人はますます忙しくなり、まとまった時間が取れなくなった。なので「手軽に、すぐに読める本が求められている」と。

そもそも、今の日本では日常的に本を読む人は1割程度とも言われる。情報を得たければ、テレビ、新聞はもちろんのこと、ネットから無数の情報が得られる時代である。しかもそれらはマスメディアからのものだけでなくS N Sであったり、文字ではなく、映像は画像などの豊かなコンテンツもますます魅力的になっている。「本を読む」という行為の相対的な価値は下がっているのか。

僕はデジタルメディアの可能性を信じて疑わないが、同時に本の価値は変わらないと思う。いまや誰もが自分の考えや知識を様々手段で表明することができる。Twitter、facebook、Instagram、noteなど自分で簡単に発信できる。おまけにネット記事や動画、最近ではオンラインセミナーや音声メディアなど、さまざまなメディアで知識や情報は得られる。それでも、本の立ち位置は別物ではないか。

もし誰か専門家の人に興味を持ち、その人に会う機会が訪れるとする。そんな時、会う前にその人のことをネットで調べると、S N Sがいくつも出てくるし、ネットでの記事や動画のコンテンツも見つかる。これらすべてに目を通そうとすると限界があるが、もしその人が本を買いていたら、僕はまずそれを読むだろう。
人が最も伝えたいこと、積み重ねてきた知識や経験を、最も体系的に正確に伝えようとするメディアは、いまだ本ではないか。そのポジションを本から奪うメディアはいまだ見当たらない。

わかりやすく言うと、人が自分の考えや知識を最も本気を出して表現するメディアが本なのではないか。これまで多くの書籍作りを通し、数々の著者を見てきたが、書籍の執筆をおざなりにする人はいない。まさに「命を削って書く」というプロセスが書籍にはある。それはブログで書く記事やS N Sで発信するコメント、それに講演などとも異なる真剣さを感じずにはいられない。いわば、人が生み出す知の結晶が積み重なっているのは、いまだに本である。

本物の読書力とは何か

本は本物である。これほど妥協の入りにくいコンテンツは少ない。知とは人間が作り出すものであり、その人の言葉にその知の源流がある。

もしあなたが進化論について知ろうと思えば、Googleで検索すればいい。「ダーウィン 進化論」で検索すると53万に及ぶ記事が出てくる。最初に出てくるWikipediaの説明を読めば、それが「生物の遺伝的形質が世代を経る中で変化していく現象」を指していることがわかり、ふむふむと理解できる。ダーウィンの進化論についても多くの本が出ている。解説本や「100分で読める」という本までさまざまだ。しかし、提唱者であるダーウィン自らが書いたのが『種の起源』に勝るものはない。文庫本で800頁を超えるので、決して「手軽」ではない。しかし、もしこの『種の起源』を読みこなすことができたら、ダーウィンがどのような思考と推論から進化論を生み出したかを、自分の頭で理解できる。

仮に読む時間がなくても「進化論を理解したいと思えば、『種の起源』を読めばいい」と思える自信があれば、あなたは知の獲得から自由になれる。
コロナウィルスを詳しく知りたければウィルスの構造について学ぶ、ベラルーシ情勢に興味を持てば旧ソ連の歴史について学ぶ、経済の歪みを資本主義の源流から学ぶ。自分が世界との折り合いをつけるために、考えるための材料を自らの力で獲得できるという自信、これが「読書力」である。

思考力を伸ばすためのアウトプット型の読書講座

自分自身、この「読書力」を身につけられたことは生きる力になっている。「知らない」ことは本を読めばいい。だから知らないことへの恐怖感は薄らぐ。興味を持った分野は、日常生活で自分自身で広げることができる。異なる分野の人との対話を楽しむことができる。自分を超えた知と触れることができる。そして自分で考える力ができた。「本物の読書力」を身につけた恩恵は計り知れない。

NewsPicks パブリッシング編集長である井上慎平さんとは、以前から「薄くて手軽な本ばかりでなく、分厚くても本格的な本の魅力を広めたい」という話をしていた。井上さんは、社会に骨太のコンテンツを生み出そうと格闘する現役の編集者である。そんな彼と一緒に作り上げたのが、「本物の思考力を養うアウトプット読書ゼミ」である。2ヶ月かけて易しくはないけど、知の領域を膨らませ考える材料が詰まった本を読み通す、というコンセプトの講座である。
ゲスト講師には、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一さんに引き受けていただいた。情報科学者である暦本さんは、世界初のモバイルA R(拡張現実)システムを開発された方としても知られるが、想像を超える未来を思考されている方であり、その自由な発想は憧れだ。そんな暦本さんに共感いただき、選んでいただいた書籍はマックス・テグマークの『L I F E3.0』である。物理学者でもあるテグマーグが広大な領域と壮大な時間軸の中から、A Iと人類のあり方を問う、今世紀を代表する大作であろう。

講座では本を読むことだけでなく、参加者自らがアウトプットし、さらに対話を重ねて思考力を磨くことを主眼としている。いまだ試みたことのない講座であるが、あの暦本さんに導かれて『LIFE3.0』を読む経験を思うと、ワクワクしかない。この本を読み終えた自分の知識の広がりは想像以上ではないか。また参加者の皆さんとこの本の内容から、A Iと僕らの未来について語り合うことで、異質な視点と出会い、どんな遠くの世界を妄想できるか。これを考えると、楽しみでしかない。

最後は宣伝になってしまったが、こんな体験を一緒にしたいと思う方々からのご応募をお待ちしています。


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プロデューサー/編集者。ダイヤモンド社にてビジネス書編集者、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長などを歴任し2017年に独立。2018年3月からハノイに3か月在住し、6月よりラオスのビエンチャンに3か月滞在。現在は東京。書籍『シン・ニホン』などをプロデュース。

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