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趣味と出会いの提案をされた話

「区のふれあい広場で、新しい趣味を始めてみませんか?」
ケースワーカーからそう提案されたのはたしか去年の春くらいだった。
「新しいことを始めて、色んなひとと会ってみたらいいですよ」
提案された時もその後も「はあ…」という感じで、結局一度もふれあい広場に出向いたことはない。

ケースワーカーさんとしては、趣味そのものというより新しいひとと出会う機会として勧めてくれたようだった。

編み物とか絵本作りとか詩歌とかウォーキングとか、色々あって、参加するひとの年齢層も様々で面白いらしい。
詩歌やウォーキングには興味があるが、ひとと出会うことを求めてそれをするというのが全然ピンとこないし、なんだか理屈として据わりが悪い。

趣味だったら趣味に没頭したい。
チームやパートナーが必要な趣味だったら別だろうけど、そうでないならひとりで夢中になっていたい。

わたしはどちらかと言えば人見知りをしない人間だし、ひとと一緒にいるのも嫌いではない。
誰かと食事するのも会話するのも好きだ。
映画を観に行くのもライブに行くのも誰かがいれば楽しみが増える。
ライブに通う中で出会った友人のことはすごく好きだし、会場で待ち合わせて一緒に公演を観たりもする。

とはいえ、誰かと出会うことを目的に映画に行ったりライブに行ったり食事をしたりはしない。
誰かがいなければそれらができないということもない。
楽しいことや趣味はそれをしたいからするのだし、すごく不遜な言い方をするなら、その瞬間他人のことなどどうでもいい。
他人と自分が互いに迷惑にならない距離感を保てていればそれでいい。

それに、誰かと一緒にいるととても気を遣う。
誰かと一緒になにかをする時、目的の多くは一緒にいる誰かのことを気遣うこと(一般的な気遣いと同じかは分からないが、わたしの主観における気遣い)にすり替わってしまう。
それはとても楽しく面白いことだけど、同時にものすごく消耗することだ。

ほかのひと達は違うんだろうか?

実際わたしは友人知人が多いわけでもないし、見識が広いわけでもない。
年齢を重ねるごとにライフステージは変わっていくし、それによって人間関係も変化する。
生活保護で暮らすことで人間関係が狭まるのはよろしくないだろうという意味で提案されたのなら、ありがたいことだと思う。
やりたいことや観たいものを求めて知らない場所に行き、知らないひとに会うのは面白いことだ。今までの友人はそうやって増えていった。
だから別に提案自体は間違っていない。
でも、かなり余計なお世話だ。

ああ、よっぽど気に入らなかったんだなあ…
ここまで書いてだいぶ整理されたというか、納得がいった。
生活保護を利用する者として色んなケアがあるのはとてもありがたいが、ひととの出会いのために新しい趣味を提案するというのもそのひとつなのか。
これがありがたいというひともいるだろうけど、わたしにはいらない話だったのだ。

ものすごく偏屈な考え方かもしれないが、ひとと出会うためになにかをするというのを、わたしはしたくないのだ。
誰かに出会いたくて“趣味”をしているひとがそばにいるかもしれないというのも、ちょっと気持ちが悪い。
最後のは、コンサート会場にひとりで来ている若い女をナンパして回るおっさんに遭遇した経験に、関係しているかもしれない。

邪魔をされたくないのだ、多分。

それにしても、趣味か。
わたしは読書と音楽と映画が趣味で、それ以外にもちょっと個人が特定されそうで言えない趣味がいくつかある。
みんなどうやって物事に出会い、趣味としていくのだろう。
考えるとちょっと興味深いことだ。

わたしの一番の趣味は、こうして埒もない考え事をすることだと思う。


では、また。

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