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「女性と教育」の視点で自分の人生を振り返ってみる 高校時代(男子校と比較して)

GHQによる共学化指導は東日本では比較的緩かったことから、埼玉県立高校は、伝統的な男子校と女子校が別学のまま残っています。私は浦和第一女子高等学校(浦和一女)という県立女子高校を卒業したのですが、この学校には対になる男子校が存在していて、浦和高校がそれに当たります。私の頃(1986年入学)は、埼玉県の公立高校入試はどの学校を受験するにも同じ試験問題で、浦和一女と浦和高校は入学時の学力は、ほぼ同じでした。私が卒業してから約30年経ちましたが今も同様なのではないかと思います。

さて、この二校、入学時は同じ学力なのに、進学実績は今も昔も明らかな差があります。たとえば、2020年の合格者実績(含浪人)をみてみると、

浦和高校: 東大33、一橋16、東工大13、慶応70、早稲田135
浦和一女: 東大  4、一橋  8、東工大  1、慶応31、早稲田  58

といった具合です。私の頃も似たようなものでした。

さらに、浦和高校は英国留学のプログラム(400年以上の伝統のあるウィットギフト校との長期交換留学制度)があることもあり上記の他に、ケンブリッジ大学にも1名進学しています。一方の浦和一女は留学プログラムはなく海外大進学者はゼロ、国立の主な進学先は、お茶の水女子、埼玉大学、千葉大学。私立だと早慶に次いで、明治、立教、日本女子、東京女子、となります。

入学時の学力は同じなのに、進学実績に差があることに疑問を感じる人は、私の他にもいるようで「インターエデュ」という受験情報コミュニティの2012年の書き込みに、「浦和高校と浦和一女の進学実績に見る男女差の背景とは?【2799332】」という質問が上がっています。

現在の学内の状況はインタビューなどしてみないと分かりませんが、とりあえず当時私が感じていたことを書いてみます。まずこの学校の学区は南北に長く、よくも悪くも保守的でした。友達の進学の悩みでは「埼玉の公務員になるために埼玉大学しか受けてはいけないと言われている」というのも聞きましたし、「東大や一橋に行ったら結婚できなくなるから慶応くらいがいいんじゃないか」とか「就職しやすくて結婚相手もいい人が見つかる女子大をとりあえず受けておこう」と言う話もよく耳にしました。志望校を決めるにあたって、無意識のうちに結婚できなくならないかを考えているといった具合です。

休み時間には「この高校に来てしまった女子は婚期が遅れる」という話が度々出て、先輩でもある先生が独身だったりすると、自分たちも結婚できないんじゃないかなどと本気で心配したものでした。例えば、ことあるごとに先輩方の平均結婚年齢が28歳であることを話題にしてたのは良く覚えています。1980年代は女性をクリスマスケーキに例えて、25歳で「売れ残り」などというのが当たり前に言われていたので、平均結婚年齢が28歳という事実は大変ショックなことでもあったのです。

他校生徒と知り合いになって「へえ、頭いいんだね~」と言って後ずさりされるのも良くあることでした。思春期に高校名を言っただけで引かれてしまうというのは、なかなか傷つきます。「男の子は勉強できる学校に行くほどチヤホヤされるのに、女の子はその逆なのか…。」と思い知らされるのです。勉強が得意な自分を、女性と言うことだけで否定しなくてはいけないような自己矛盾を抱えたような状態が、学校の中の雰囲気として蔓延していたように思います。

また、前回の投稿で、先生の存在感がなかったのが不満だったと書きましたが、生徒の中には兄弟が浦和高校という子もいて、「浦和高校では先生は熱心だけれども、浦和一女で先生はラクをしてる(手を抜いている)」といった先生比較の話はよく耳にしました。当時は、40歳代は若手の部類というほど、年配の先生が多かったのですが、これは「教員すごろく」の上がりのごほうび学校だからだというのです。さらに、自主自律の校風を尊重していたからなのかどうか分かりませんが、先生からは授業以外は何の指導もなく、進学の指導も全くありませんでした。

他に、進学実績に差ができる理由としては、男子校と女子校ではロールモデルとなる先輩の差もあるのではないかと思います。Wikipediaで書き込まれているだけでも、両校卒業生は雲泥の差で、「女子に生まれた時点でどんなに頑張っても政治経済での活躍はないし、学問の分野でも名を残すのは難しい」と確信するしかないような気分になり、力を削がれます。以下リンクです。

浦和高校卒業生 Wikipedia と 浦和一女卒業生 Wikipedia

学校の先生の中には、卒業生もいましたが「伝統と誇り」の話をするばかりで、均等法以降の時代を生きる高校生には窮屈なだけで、響く話はあまりありませんでした。

なんというか、中学までと違って「社会は女性に期待をしていない」「女性にとって勉学できるのはマイナス」というのが、あらゆる場面でひしひしと伝わってくるわけです。高校受験の勉強している頃に薄っすら思った「男子には期待するが女子には期待していない」のが、高校に入学してから、確信に変わります。このことが、進学実績に表れているのだと思います。

ちなみに、私の両親はどうだったかというと、父は喧嘩した時に「生意気になって…。浦和一女に入れなきゃよかった。」とこぼし、母は「女の子は短大がいいに決まってる。」と均等法以前の価値観(短大の方が良い結婚相手が見つかり大手企業に就職ができた)を押し付けてきました。80年代の終わりはまだこんな時代だったのです。あれから30年、2020年の進学実績みてもいまだに進学実績の差があるというのはどういうことなのでしょうか。機会があれば、最近の卒業生や現役学生から話を聞いてみたいものです。


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