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国際バカロレア(IB)とASEAN諸国のインターナショナルスクール

国際バカロレア(IB)校を増やす日本

2021年6月29日、加藤官房長官が「現在167校ある国際バカロレア(IB)の認定校を増やして、2022年度までに200校以上にする」と表明したニュースを目にしました。この目的は、文科省のIBの説明ページを見ると、グローバル化に備えた人材づくりということです。

国際バカロレア(以降IB)には、小学校向けのPYP、中学向けのMYP、大学進学に向けたDP(以降IBDP)があります。PYP、MYPは特に国際転校をする子どもたちが、転校しても同じカリキュラムで学び続けられるようにするために参考にされていることが多く、英語で書かれた駐在員向けの情報では、類似の国際カリキュラムであるIPCプログラムやケンブリッジプログラムと比べられていたりします。IBプログラムは特に教師の質によって差が出るとも言われているようですが、IBDPは積極的に選ぶ人も多いようです。

本当に認定校は増えるのか?

官房長官がIB認定校を200校以上にするとは言っていますが、進学上肝心なIBDPについて、この文科省のページに認定校候補校のリストで見てみると、現在のIB校167校のうち、IBDP校は約1/3の57校。しかも、その半数弱の25校が元々外国人のためにできたインターナショナルスクール(もしくは外国人学校)です。したがって、日本人が規制を気にせず通える学校はわずか27校ということになります。私の身近なところでも、私立高校のIBDP導入に関して、日本の大学進学実績を優先し、費用と手間の面でも導入を見送ったという話を聞いたことがあり、認定校を増やすのには時間がかかりそうだという印象です。

東南アジア中産階級とインターナショナルスクール

アジアには、240万人の学生と4,181校のインターナショナルスクールがあり、世界のインターナショナルスクールの55%を占めています(2016年)。2024年には、アジア太平洋地域に7,000校、500万人以上の生徒が通うようになるという試算もあります。

特にマレーシアとタイには、IBプログラム、ケンブリッジプログラムを採用している学校が多くあります。日本のように母国語教師が自国の学校で教えているわけではありません。インターナショナルスクールが日本より身近で、意欲ある中産階級の家庭の子どもが、インターナショナルスクールでIBプログラムやケンブリッジプログラムなどを学んでいます。2015年の終りにASEAN経済共同体ができ、公用語を英語と定めたのをきっかけに、この傾向は、年々強くなっています。つまり、「子供に多くの選択肢を持たせたい」と思った時に、インターナショナルスクールという選択肢がある家庭が日本より多いということでもあります。

以下、2016年の記事ASEAN’s international school boom: How AEC is transforming the region’s education sectorを参考にASEAN各国の事情を簡単に記します。

マレーシア

2016年には、マレーシアは142校のインターナショナルスクールがあり(現在は約180校)、積極的に国際教育の発展を奨励している国として知られています。マレーシアでは、元々あった地元学生のインターナショナルスクールへの入学資格に関する制限がすべて廃止され、通いやすくなっています。政府は、学校経営者向けには、新しいインターナショナルスクールに対する5年間の所得税70%免除などの優遇措置を設け、積極的にインターナショナルスクールを誘致しています。

タイ

タイもマレーシア同様、国際的教育が充実している国で知られています。タイには176校のインターナショナルスクールがあり、65,000人以上のインターナショナルスクールの生徒がいます。1990年代半ばに、インターナショナルスクールにタイ人も通えるよう規制緩和して以来、タイのインターナショナルスクールは安定して増えています。イギリスの伝統的なボーディングスクールをはじめ、優良なインターナショナルスクールが多くあり選択肢も豊富です。インターナショナルスクール業界からは、タイはASEANにおける国際教育のハブであると認識されています。

インドネシア

インドネシアでは、好調な経済成長と中産階級の急増により、10年間でインターナショナルスクールは190校まで増えました。しかし、政府が保守化し、インドネシアの宗教、文化、言語に重点を置いた文化研究カリキュラムをすべての生徒に教える義務を課す、国粋主義的な政策の強化したため、インターナショナルスクール経営は委縮し、タイやマレーシアのようなインターナショナルスクール運営はできていません。

ベトナム

ベトナムでは、1つのインターナショナルスクールに入学できる現地の子供たちの数に制限があり、インターナショナルスクールに在籍する現地人生徒の割合は、小学校で5%、高校で20%に制限されています。

シンガポールとフィリピン

シンガポールは、日本、韓国、台湾などの東アジア諸国と同様に、地元の学生がインターナショナルスクールに入学することを制限しています。そのため、インターナショナルスクールは、シンガポールに住む多くの外国人のための学校という状況です。しかし、シンガポールには110校(日本は36校)のインターナショナルスクールがあり(2018年)、約6万3千人の外国から来た生徒が学んでいます。シンガポールでは、30年リースで新たな用地を開放するなど、インターナショナルスクールの増加に努めています。また、シンガポールとフィリピンは、そもそもインドに匹敵するほどの英語力があるため、インターナショナルスクール需要は高くはありません。

ミャンマー

ミャンマーは、軍事独裁政権からの脱却に伴い、33校のインターナショナルスクールがあるだけで、長期的には大きな成長の可能性を秘めていると、この2016年の記事では書かれています。しかし、クーデターによって今後は後退するものと思われます。

中国

ASEANではありませんが、中国は、4億人の学生人口を抱えており、インターナショナルスクールは564校もあります。ただし、法的規制によりインターナショナルスクールに通うのは難しいのが現状です。中国の一人っ子政策により、中国の親たちは子供に多額の教育投資をするようになりました。また、暗記中心教育を避けたいと考える家庭も多くあります。英国や米国は依然として中国の富裕層の子どもの進学先として好まれていますが、中間層の親の中には、タイ、マレーシア、シンガポールといった身近な場所にあるインターナショナルスクールの利点に気づいており、親子留学やボーディングスクールへの入学が増えています。

最後に日本のIBプログラム

ASEAN諸国のインターナショナルスクール事情を見ると、日本のインターナショナルスクールが36校なのは貧弱に見えるし、IBプログラムが日本人による日本語で内向きであることが気になってきます。インターナショナルスクール教師としてIBやケンブリッジなどの経験積み、国際引越しをしながら世界の様々な子どもに教えている先生が英語で教えているプログラムを、日本国内の学校では、日本人の教師が日本語で行います。どれくらいプログラム本来の良さが結果としてあらわれるかは未知数のように思います。また、インターナショナルスクールではIBDPスコアの実績を上げるためには、経験のある教師(高額)を引き抜くのが学校経営として一般的な戦略と聞きます。つまり、教師による差が大きいプログラムだとも言えるのでしょう。できれば、タイやマレーシアのようにインターナショナルスクールを誘致する形でもIBプログラムが身近になるのも良いようにも思うのですが、みなさんはどう思われますか?




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