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家父長制の男性への害、克服するためのセラピーと自己ケア

家父長制(パトリア―キー)とは、他者に対する権威と支配力を男性に与える価値観、人間関係、信念の総称です。これは、歴史上、そして世界中で性別による権力の不均衡を支える、一般的かつ長年にわたる考え方です。

家父長制は、女性を従属させる仕組みなので、女性にとって不健全な価値観です。家父長制の環境では、文化の伝統的に男性的な特質が女性的なものよりも重視されます。

この「家父長や有害な男性性(トクシック・マスキュリニティ)がどのように男性を傷つけるのか」というメンタル・ヘルスケアの記事があったので、自分用のメモも兼ねて、日本語訳とまとめを書き留めておきます。



男にとって「自然なこと」として受け継がれている「有害な男らしさ」

家父長制の社会では、政治やビジネスの分野におけるジェンダー間の不均衡、女性と男性間の賃金格差、メディアにおけるジェンダーバイアス、女性や少女の生殖に関する選択を犯罪とする法律、反LGBTQIA+の態度、そして、 少女、女性、ジェンダーに当てはまらない人々を狙ったハラスメント、性的暴行、暴力、家庭内暴力の発生率が高いことが挙げられます。

伝統的なジェンダー観を良いこととするのは、家父長制を支える重要な構造であり、頑なである傾向があります。家父長社会における男性や少年は、たとえその規範の一部が破壊的であったとしても、そのコミュニティの男性的規範に適合するよう、生涯にわたって絶え間ないプレッシャーを経験します。

「有害な男らしさ」は、時代とともに意味合いが変わってきた用語ですが、今日では、男性や少年にとって「男にとって自然」であると考えられて受け継がれていて、暴力的、破壊的、あるいはアンチ女性的行動を表すために使用されています。「男にとって自然」だと考えられているものには下記のようなものがあります。

  • 女性や少女を性的対象物、二級市民、または能力が劣るものとして扱うこと

  • どの性別の人々においても、伝統的な女性的特質や行動を軽視すること

  • 伝統的に男性的でない男性や少年を軽蔑すること

  • ホモフォビアやトランスフォビアを表現すること

  • 支配権を得るため、権力を振るうため、または困難な感情を表現するために暴力や攻撃性を使用すること

  • 性的嫌がらせや暴行を行う、またはそれを容認すること

  • 脆弱に見えることや「男性らしくない」感情(恐れ、悲しみ、心配など)を表現することについて恥じること

  • 助けを求めること自体が、弱さの一形態と見なされるため、助けやケアを求めたり受け入れたりすることを拒むこと


支配権を獲得したり、 支配力を誇示したり、 これらの規範や行動は、家族、宗教的共同体、学校、職場、政治など、さまざまな場面で大きな影響力を持つことがあります。 規範に従わない男性は、嘲笑、拒絶、敵意、差別を受ける可能性があります。

家父長制が男性に利益をもたらすのであれば、なぜ同時に害をもたらすこともあるのでしょうか?

家父長制的な考え方は、伝統的にマスキュリンな(男性性の強い)男性を支配のヒエラルキーの頂点に位置づけるものですが、一方で、ある集団が他の集団に対して優位性を確立する、例えばエイブリズム(ableism:能力のある人が優れているという考えに基づいた、障害者に対する差別)、階級差別、白人至上主義といった他の偏見も、容易に組み込むことができます。そのため、家父長制文化においては、男性自身が軽視されることもあります。

有害なジェンダー規範の中で生活することは、次のような形で男性や少年の幸福に影響を与える可能性があります。

【不安、うつ、その他の健康上の問題】
恐怖、悲しみ、心配、その他の脆弱性を認めることや表現することが気まずく感じられる場合、そのような感情を無視したり抑えつけたりしようとするかもしれません。その結果、不安やうつ、その他の精神的な問題が悪化することがあります。最近の大規模な研究では、「女性を支配する」といった有害な男性的規範に従う男性は、精神衛生上の結果が芳しくなく、助けを求めることも少ない傾向があることが明らかになっています7。

社会的孤立】
他人と感情的につながることが心地よくない場合、あるいは人を支配したり、思いやりがなかったり、暴力的になったりするような関わり方をしてしまった場合、孤独で孤立してしまう可能性があります。

内面化された同性愛嫌悪とトランスジェンダー嫌悪】
伝統的な男らしさの性別役割に順応するプレッシャー、そして異なる結果に対する恐れは、非伝統的な性別表現は悪い、あるいは問題であると信じさせる可能性があります。

薬物乱用】
男性は女性よりも薬物やアルコールを乱用する可能性が高く、過剰摂取により死亡する可能性も高いです。

暴力行為】
 世界中で、男性は女性よりもあらゆる種類の対人暴力(親密なパートナーによる暴力、暴行、レイプ、殺人など)を犯す可能性が高いことが知られており、こうした暴力の根底には男性らしさに対する有害な規範があることが研究によって示唆されています9。

自殺】
男性は女性よりも自殺で命を落とす可能性が3倍以上高い。

平等をめざして

家父長制の価値観や規範は広く浸透していますが、決して避けられないものではありません。世界中の公民権運動家は、世代を超えてジェンダーに基づく不平等をなくし、誰もが社会的、政治的、文化的、経済的に平等になることを目指して活動してきました。しかし、自分自身やコミュニティの破壊的な信念や態度を変え続けるためには、まだまだ多くの努力が必要です。

人々がジェンダーの平等と正義を尊重し、その実現に向けて努力するとき、その成果はしばしばあらゆる人々に恩恵をもたらします。

2007年の米国大学生を対象とした恋愛関係に関する調査では、フェミニスト的見解を持つパートナーがいる場合、女性はより健全な恋愛関係を築いていることが示されました。14 同調査では、フェミニスト的見解を持つパートナーがいる男性は、恋愛関係の安定度が高く、性的満足度のレベルも高いことが報告されています。

セラピーがどのように役立つか(米国)

メンタルヘルス専門家が、有害な男らしさによって傷ついた男性をサポートする事柄、男性が日頃から心がけると良いことは以下の通りです。(家父長制、有害な男らしさにとらわれていると以下が不足する)

  • ストレスに対する健全な反応を身につける
    自分の感情や行動を観察し、管理し、状況に合わせて適応させるという自己調整方法を学び、ストレスを前向きに管理する方法を習得する。

  • セルフケアを実践する
    精神、感情、社会、身体の健康を優先するこ。これには、十分な休息、バランスの取れた食事、適度な運動、社交、つらい時や体調不良時にケアを求めること、そして喜びをもたらす活動のための時間確保などが含まれます。

  • 自分自身に思いやりを持つことを学ぶ
    自己への思いやりは、ストレスの軽減や抑うつ症状の減少と関連しています。また、健康的な生活習慣や行動を取り入れる力を与えることで、間接的に健康状態を改善することにもつながる可能性もあります。

  • 感情を健全な方法で探求し、認識し、表現する
    感情的知能を高め、健全な対人関係スキルを身につけ、非暴力的なコミュニケーションスキルを磨き、建設的な方法で難しい感情を表現できるようになることで、人間関係が改善されます。

  • 固定観念が自分に当てはまるかどうかを見極める
    健全な男性らしさ、女性らしさ、ジェンダーにはさまざまな形があります。自分自身(そして他人にも)固定観念や規範を捨て去る自由を与えることで、視野、人間関係、支援ネットワークが広がるでしょう。

  • 健全な境界線(バウンダリー)を築き、尊重する
    健全な境界線(バウンダリー)を設定する方法を学び、他人の境界線を尊重する方法を学び、特に恋愛関係や性的関係において、お互いの合意を優先する方法を学ぶのに役立ちます。

  • 異なる視点も考慮する
    共感力と思いやりを養うことで、自分以外の視点からも物事を理解できるようになります。これにより、他者との関わりを深め、コミュニティを築き、困難な状況に対して適切な対応を他者と協力して見つけることができるようになります。

米国では有害な男らしさで傷ついた男性もセラピーによって回復を目指すサポートを受けることができます。セラピーを受けられない場合、サポートグループに参加する、マインドフルネスや瞑想のテクニックを学び自宅で実践することもできます。その他、信頼できる友人や家族に相談する、メンタルヘルスに関するアプリをダウンロードする、自分の考えを書き留めるなど、さまざまな方法でバランスの取れた本来の自分を取り戻す努力が推奨されています。

強さや能力、自己主張、家族を養うといった伝統的な男性的資質そのものに不健康な要素はありません。男性性のもとに攻撃的な支配関係にとらわれることが不健康でありサポートが必要です。適切なセラピーがあれば、男性性の他の有害な要素と向き合い、乗り越えることも可能です。ジェンダーバイアスを克服し、自分自身を大切にし、健全な方法で自分の正直な感情を表現し、お互いに満たされる関係を築くことを学ぶことは、精神的な健康を増進するのに役立ちます。


まとめ箇条書き

家父長制とは
家父長制(パトリアーキー)は、男性に権威と支配力を与える価値観や信念の総称であり、歴史的にも広く浸透しています。以下は家父長制の特徴と影響についての概要です。

家父長制の特徴

男性優位:男性が女性や他の性別の人々よりも優位に立つこと。
ジェンダーの不均衡:政治やビジネスなど、さまざまな分野での男女間の不平等。
賃金格差:男性と女性の間の給与の差。
メディアのバイアス:メディアにおけるジェンダーの偏見。
法的制約:女性の生殖に関する選択を制限する法律。
反LGBTQIA+の態度:LGBTQIA+の人々に対する偏見や差別。
暴力の発生率:女性やLGBTQIA+の人々を対象とした暴力やハラスメントの多発。

有害な男らしさ(有害なマスキュリニティ)

女性や少女を軽視:女性や少女を性的対象物、二級市民、能力が劣る者として扱う。
非伝統的な男性を軽視:伝統的な男性的特質に従わない男性を軽蔑。
ホモフォビアやトランスフォビア:LGBTQIA+の人々に対する偏見。
暴力の使用:権力を振るうためや困難な感情の表現として暴力を使用。
性的嫌がらせや暴行:性的嫌がらせや暴行の容認。
感情表現の制限:恐れや悲しみなどの感情を表現することを恥じる。
助けを求めることへの抵抗:助けを求めることを弱さと見なす。

家父長制の影響

精神的な問題:不安やうつなどの精神的な問題が悪化。
社会的孤立:感情的なつながりの欠如。
薬物乱用:薬物やアルコールの乱用と過剰摂取のリスク。
暴力行為:対人暴力の高リスク。
自殺のリスク:男性の自殺率の高さ。

家父長制の克服ためのセラピー

家父長制の価値観を克服し、健全な男性性を育むためには以下の取り組みが重要。

セラピーの利点
ストレス管理:健全なストレス反応を学ぶ。
セルフケア:精神的、感情的、身体的な健康を優先する方法を学ぶ。
感情の表現:感情を健全に探求し、表現する方法を習得。
境界線の設定:健全な境界線を築き、他人の境界線を尊重する。
共感と思いやり:他者の視点を理解し、共感力を高める。

自己ケアの方法

サポートグループに参加:他の人々とつながりを持つ。
マインドフルネスや瞑想:自宅で実践する。
信頼できる人に相談:友人や家族に話す。
メンタルヘルスアプリ:アプリを利用する。
日記を書く:自分の考えを書き留める。

最後に

家父長制は不健康な男性性を助長し、男性のメンタルヘルスを害するものです。男子男性が家父長制と有害な男らしさを理解し距離を置けるようになること、自己ケアの方法を身につけること、これらの実践を通じて、有害な男らしさのない社会へと自らの手で変えていくことができるのが理想なのだと思います。

*過去の家父長制の記事*



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