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YOASOBIチームに学ぶ、ファンエンゲージメントを最大化するライブ戦略

ようこそ!
次世代ライブハウスを創りたい、いーじーです。

今回はずっとやりたかった、音楽マーケティングにまつわる考察を書いてみたいと思います。

初回のテーマは、「ファンエンゲージメントを最大化するライブ戦略」です。
2/14に行われたYOASOBIさんの初ライブ『KEEP OUT THEATER』を例に、YOASOBIチームがどんな仕掛けをして、ファンを拡大・強化していったのか、一緒に見ていきましょう。


情報解禁前

そもそもこのYOASOBI初ライブプロジェクトは、いつ頃から始動していたのでしょうか。
その答えは、Ayaseさんのライブ当日のツイートにありました。

開催日が2/14でしたので、2020年の8月頃からスタートしていた計算になります。
ちょうどその頃、スタッフアカウントでこんなツイートがありました。

もしかしたらこの時には、プロジェクトが始動していたのかもしれませんね。

では早速、8月頃~情報解禁前までの動向を見ていきましょう。
大きく2つの視点があるかと思っています。

<ライブ情報解禁前の施策>
① とにかく知って・聴いてもらう
② 紅白歌合戦出場

① とにかく知って・聴いてもらう

これは言うまでもなく当たり前のことなんですが、でもその当たり前を愚直に正しくできているところが、YOASOBIチームの凄さです。

ライブありきではなく、まずはちゃんと自分達のことを知ってもらって、聴いてもらって、それからライブに来ていただく
そのストーリーが描けているからこそ、1つ1つのリリース施策が巡り巡ってライブに返ってきます。

今回は本筋から少し逸れるため具体的な事例紹介まではしませんが、コンスタントなコンテンツ発信、そして株式会社arne・松島さんの記事にあるように、明確なCTA優れたUGC戦略によって、着実にファンを拡大しています。

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<参考>
■ YOASOBIのSpotify Monthly Listeners推移+主なニュース 

画像1

新しい情報を継続的に投下して話題を作り続けた結果、4ヶ月でリスナー数は1.5倍にまで増加しました。
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② 紅白歌合戦出場

紅白出場は狙ってできるものではないですが、結果的にこの紅白出場は後のライブに大きく繋がりました。

もちろん国民的番組への出演で認知が広がったのは大きなことです。
ですがそれ以上に大きかったのは、「YOASOBI=ライブ」という新しいアーティストイメージを付けることに成功したことだと感じています。

「小説を音楽にするユニット」らしい、コンセプチュアルな舞台演出。カメラワークや照明のこだわりも素敵でした。何よりバンド編成による生演奏は、これまでのYOASOBIイメージを覆すようなパフォーマンスで、衝撃的に感じた方も多かったはずです。

放映直後にちゃんとツイートしているところも素敵なのですが、バンドというイメージを強調しつつ、バンドメンバーのアカウントもしっかりと掲載し、1回限りのチームではないことを示しているところが素晴らしいです。

このセンセーショナルなライブパフォーマンスの6日後にライブ情報が解禁されるわけですが、私も含めファンたちは、脳裏に紅白の映像が残ったまま解禁のニュースを受け取りました。

紅白の演出と生バンドによる演奏、凄かったな。
きっとワンマンライブは、もっと凄い演出と生演奏が観れるはず。

こんな動機で、チケット購入を決めた方も多いのではないでしょうか。
もちろんその動機を誘発するツイートも、抜け目なく投稿されています。

このように1回のTV出演で、効果的にアーティストブランディングを行い、ライブへのファネルを作り出してしまうあたりは、お見事としか言いようがありません......


情報解禁~ライブ直前

1/6の公式情報解禁から、ライブ当日2/14までの約1ヶ月。
ここでは大きく4つの施策を取り上げてみます。

<情報解禁~ライブ直前の施策>
① ファン発信による情報解禁
② 音楽番組でのライブパフォーマンス
③ noteライブレポート募集企画
④ YOASOBIチームによる煽り発信

① ファン発信による情報解禁

YOASOBIチームはこれまでのアーティストにはない新しい取り組みを、次から次へと行っている印象ですが、この情報解禁のアイデアも面白いものでした。
それはライブ情報解禁を、公式からではなくファンから行うというものです。

具体的には、公式発表前日の電話企画でアーティスト本人と繋がった人が、「スペシャルミッション」としてSNS上でサプライズ発表をするという内容でした。

ファンの発信力や拡散力を大事にしてきたYOASOBIらしい企画ですね。情報解禁1つとっても、ファンとのコミュニケーションをするチャンスとして捉える発想は、見習うべきポイントです。


② 音楽番組でのライブパフォーマンス

1/18の「CDTVライブ!ライブ!」、1/22の「ミュージックステーション」と、大型音楽番組への出演をこのタイミングで入れるあたりも、抜け目が無いですね。
しっかりと「YOASOBI=ライブ」のイメージを強化しつつ、露出も増やしてライブに誘導する流れが、とてもスムーズです。
ちょうど1/20~チケット販売が開始しており、初動に大きく繋がったのではないかと推察します。


③ noteライブレポート募集企画

視聴者からのライブレポートを公式に募集するという企画。
これは非常に興味深く、斬新で、秀逸なアイデアでした。

秀逸さを語りたいポイントはたくさんあるのですが、ここでは一旦、チケット販売促進にどう繋がったのかという観点で考えてみましょう。
私がこの企画発表を受けて感じたのは、ライブのクオリティに対する圧倒的な自信です。

ライブレポートを書くという行為は、文章の良し悪しに関わらず、かなりのカロリーを要します。
どうしても書き留めておきたい、観た人と分かち合いたい、観ていない人に伝えたい、という動機を起こすためには、余白のある芸術性の高いクリエイティブが必須です。

冷静に考えると、かなりチャレンジングな企画であることが分かります。

でもこれを企画にできてしまうのが、YOASOBIチームの強さです。
しかもその自信を、決していやらしくない形で、「ライブレポートを書きたくなるぐらい良いライブをしますよ」と暗に伝えているところが、上手です。

またこの発表と共に、カツセマサヒコさんがオフィシャルレポートを担当することも共有されました。

カツセさんのファンと、noteユーザーにも周知の輪を拡げながら、ライブのクオリティアピールもしっかりと行う。発信施策としてはあまりにも周到すぎて、言葉が出ません......


④ YOASOBIチームによる煽り発信

「煽り」という言葉をあえて使いましたが、「心から観てほしい」「観ないと損するよ!」という想いを込めた力強い直前メッセージが、とても印象的でした。オンラインライブだからこそ、このツイートから駆け込みでチケットを購入した方も、多かったかもしれません。

気持ちいいぐらいに、自分たちのクリエイティブに対する矜持を伝えてくれています。ここまで言われたら、観たくなってしまいますよね。既にチケットを購入しているファンにとっても、嬉しい投稿だったことでしょう。

こうした様々な訴求によって、チケット購入者数4万人(公式レポート参照)という大きな結果に繋がったのではないかと考えます。


ライブ終了後

ライブが終わっても、YOASOBIチームのアクションは続きます。
ここでも4つ、気になった施策を取り上げてみました。

<ライブ終了後の施策>
① アーカイブ配信も観てね!
② 当日中に改めて感謝を伝える
③ ライブレポートという名のアーカイブ
④ THE FIRST TAKE

① アーカイブ配信も観てね!

まず時間軸を整理したいのですが、生配信が18時に開演して、19時に終了します。
そして1回限りのリピート配信が21時にスタート、という流れでした。
この19時~21時の2時間、公式Twitterがアーカイブ視聴を全力でオススメしているので、注目してみましょう。

ライブレポート企画が発表されたときは気付かなかったんですが、なるほど「スクショ撮り放題」はここで活きてくるのかと膝を打ちました。

私もたくさんスクショ撮るぞと意気込んでいたのですが、いざライブが始まると夢中になって全然撮れず笑

スクショのためにもう1回観るという体験は新鮮だなと思いつつ、意外とこのツイートに乗せられて観てしまった人もいた気がしますね。

それからこんなツイートも。

終演後すぐにレポートを上げる人が出るだろうという仮説があったのでしょう。それにしてもnoteが投稿されたのが20時20分で、このツイートがされたのは20時27分。ウォッチ力とレスポンスの早さに驚きます。

そしてもう一押し。

「チケット21時まで」というハッシュタグで、まだチケットが購入できることをさりげなく訴求しています。
ギリギリまで「観てほしい!」と伝え続ける姿勢は、あっぱれです👏


② 当日中に改めて感謝を伝える

これも当たり前と言えば当たり前ですが、特にYOASOBIチームは、アーティスト本人や公式アカウントだけでなく、バンドメンバーやライブスタッフも発信しているところが素敵でした。

特にオンラインライブはファンとの距離が希薄になりやすい分、こうして終演後すぐにアーティストとコミュニケーションできる場づくりをすることは、大切であるように感じました。


③ ライブレポートという名のアーカイブ

今回のライブはオンラインライブとはいえ、アーカイブ視聴は当日1回のみ、しかも収録ではなくリアルタイム中継で演奏するという、ライブの刹那性臨場感をとことん追求した設計になっていました。

にもかかわらず、ライブ終了後も「YOASOBI初ライブ」の話題が尽きることがなかったのは、先に述べた「ライブレポート企画」がアーカイブの役割を果たしていたからです。

この新しいアーカイブ化により、当日観た人たちは何度も追体験をし、観れなかった人たちも疑似体験をすることができました。

それにしても、1つのライブで100を超えるライブレポートが綴られたことが、かつてあったでしょうか。
楽曲だけでなく、ライブもファンに広めてもらうというのは、とても美しいストーリーですね。


④ THE FIRST TAKE

初ライブの12日後に公開された、「THE FIRST TAKE」。
このタイミングも実に効果的で、計算されているように感じました。

ライブの最後に演奏された「群青」を「THE FIRST TAKE」として選んだのは、まだ初ライブの余韻が残るファンの心理に寄り添った、この上ない選曲だと感じました。

また、"完全版"や"本当の声"という言葉が強調されていますが、これは初ライブの合唱パートが音源だったことを暗に示しているようにも考えられます。

初ライブを観た人が、「あの『群青』を超える『完全版』が観れるんだ」という期待から思わずプレミア公開で視聴したくなる、とても優れたリード施策です。
(結果12万人が同時視聴するという盛り上がりになりました)

このようにライブで高まったファンの熱量を、その場かぎりにせず、終演後も再燃させる仕掛けを絶やさないYOASOBIチームは、ファンベース作りの鏡と言えるかもしれません。


おわりに

いかがでしたでしょうか?
これまで音源を中心にファンエンゲージメントを強化してきたYOASOBIチームが、自身初となるライブをどう活用するのか注目していたんですが、やはり凄かったですね。

ミュージシャンにとって言うまでもなく、ライブは最大のファンエンゲージメントの場です。
それを心に留めたた上で、ライブを点ではなく線で捉え、ライブの前後で何ができるのかどうすれば熱量を最大化して継続的なファンになってもらえるのかを真摯に考え続けたからこそ、これだけの施策を打ち出せたのだと思います。

私自身も「次世代ライブハウスを創る」という夢がありますが、いかにライブハウスがアーティストのファンエンゲージメント強化をサポートできるか、というのは大きなテーマの1つです。

引き続きYOASOBIチームの動向は観察しながら、学びを深めていきたいと思います!

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