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噤みの午後 Diary

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「噤みの午後日記」の続編。ただし身辺雑記厳禁。
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2019年5月の記事一覧

小池昌代の〈詩と小説〉: 『赤牛と質量』を読む その4

小池昌代の〈詩と小説〉: 『赤牛と質量』を読む その4

あともうひとつだけ、どうしても論じてみたい詩があるとすれば、「釣りをした一日」で、それは詩集の4番目に配されているのだった。困っちゃうな。これじゃきりがないよ。

実際、この詩集の最初の4作品には、異様な力が込められている。登板早々、いきなり連続三振を奪うベテラン投手の迫力である。選手生命を賭けて投げているのだ。『赤牛と質量』は、きっと小池さんの代表作になるだろう。(ここで前言撤回。どうしても論

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世界を繋ぐふたつの書店:Traga Mundosとワールドエンズ・ガーデン

世界を繋ぐふたつの書店:Traga Mundosとワールドエンズ・ガーデン

先月、復活祭のさなかにポルトを訪れた。ポルトガルの北部の古都である。

(ポルトの町の様子はこちらから↓)
https://note.mu/eyepoet/n/n5a22350d3f8b

本当の目的地は、スペイン・ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラだったのだが、地図を見るとそれほど遠くないようなので、寄り道することにした。街自体もさることながら、会いたい人がいたのだ。

そのひとりが、

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映画「US」と小林敏明「故郷喪失の時代」(文學界 2019年6月号)

映画「US」と小林敏明「故郷喪失の時代」(文學界 2019年6月号)

今ミュンヘンで公開中の映画「Us」(ドイツでの題名は「Wir」)は、ホラー映画の形を取りつつ、そして実際に観てみるとすごく怖いわけだけれど、現代米国社会への批評をこめた風刺劇でもある。

監督はJordan Peele。前作の「Get out!」もホラーにして社会風刺、怖くて悲鳴を上げつつも、鋭い批評性が感覚的な恐怖と絶妙のバランスをとって、観終わったあとには、なぜか爽やかで力強い印象が残るものだ

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