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噤みの午後 Diary

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「噤みの午後日記」の続編。ただし身辺雑記厳禁。
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2018年10月の記事一覧

ファシズムの夏:その4 フォトエッセイ 「ニュルンベルク裁判所」

ファシズムの夏:その4 フォトエッセイ 「ニュルンベルク裁判所」

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』(和田忠彦訳 岩波現代文庫)は、戦争犯罪をめぐる考察のなかでニュルンベルク裁判についても言及している。

勝者が勝者の論理によって敗者を裁くという点について、「厳密な適法性もしくは国際的慣例の範囲からみて、あれは越権行為だった」としながらも、エーコは「ニュルンベルクでの議論は一点の落ち度もない。忍耐の限度を超えた振る舞いに対しては、法律を含め、規則を変える勇気

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ファシズムの夏:その3 ウンベルト・エーコ 『永遠のファシズム』

ファシズムの夏:その3 ウンベルト・エーコ 『永遠のファシズム』

『ぼくの兄の場合』を読みながらの日本滞在中、新宿紀伊国屋書店に秋山清の著作を買いに行ったのは、イタリア文学者の和田忠彦さんと対談をする当日だった。対談は「現代詩手帖」の主催によるもので、僕が去年に同時刊行した二冊の詩集『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』と『小説』をめぐる話だったが、『単ぼた』の方は政治的なプロテスト・ソングという性格の詩集なので、自然と日本の近・現代詩における叙事的な詩、社会性や

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ファシズムの夏:その2 秋山清 ニヒルから溢れ出るもの

ファシズムの夏:その2 秋山清 ニヒルから溢れ出るもの

『ぼくの兄の場合』(ウーヴェ・ティム著 松永美穂訳 白水社)を携えての日本滞在中、もう二冊どこへ行くにも持ち歩いていた本があった。いずれも秋山清の著作で、『現代詩文庫 秋山清詩集』(思潮社)と『ニヒルとテロル』(平凡社ライブラリー)である。

詩の雑誌「びーぐる」は、四人の編集同人が毎回交替で特集企画を組んでゆくのだが、最新号の特集は細見和之さんの番で、彼は秋山清を取り上げることにしたのだった。

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ファシズムの夏:その1 『ぼくの兄の場合』

ファシズムの夏:その1 『ぼくの兄の場合』

7月末、日本へ一時帰国しようとしている直前、東京新聞から書評の依頼があった。担当記者はYさん、一年ほど前にも詩の寄稿を依頼してくださった方だ。ちょうどその頃同じ東京新聞の望月衣塑子記者が官房長官を相手に勇猛果敢な質問を浴びせ始めていたので、その記者会見の模様に材をとった詩を提出したが、今回の依頼はナチス・ドイツ絡みの自伝的な小説、『ぼくの兄の場合』(ウーヴェ・ティム著 松永美穂訳 白水社)の書評だ

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