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ファシズムの夏:その4 フォトエッセイ 「ニュルンベルク裁判所」

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』(和田忠彦訳 岩波現代文庫)は、戦争犯罪をめぐる考察のなかでニュルンベルク裁判についても言及している。

勝者が勝者の論理によって敗者を裁くという点について、「厳密な適法性もしくは国際的慣例の範囲からみて、あれは越権行為だった」としながらも、エーコは「ニュルンベルクでの議論は一点の落ち度もない。忍耐の限度を超えた振る舞いに対しては、法律を含め、規則を変える勇気を持つべきだ。オランダの法廷がセルビアやボスニアでのだれかの行いを裁くことができるだろうか?いままでの規則では不可能だが、新しい規則なら可能となる」と述べて、国際社会による「未曾有の堪えがたい事態」への介入の必要性を説いている。

そのニュルンベルク裁判所へ、偶然にも訪れる機会があった。小雨のちらつく八月後半、晩秋のように肌寒い土曜日の午後だった。

裁判所はいまも地方裁判所として使われている。ナチスたちが裁かれた法廷600号室は、通常の裁判のない週末のみ一般公開されている。

上階のガラス窓から被告席があった場所を見下ろす。

上階にはニューレンベルグ裁判に関する詳細な展示があり、数十名の人びとが熱心に見学していた。

裁く側の国家の配置。

裁判で実際に使われた照明スイッチ。

窓から外を眺める。

いまもまだアーカイブ作業が続いているのだろうか。

ナチスの被告人たちが座ったベンチだそうだ。

ところでニュルンベルクの町外れには、もうひとつナチス時代の残滓がある。「帝国党大会会場文書センター」と呼ばれる巨大なアリーナである。ヒットラーはここを第三帝国の神殿と位置づけ、繰り返し大規模な集会を行った。

以前訪れたときにはほとんど展示のない、さびれた廃墟の趣きだったのが、久しぶりに立ち寄ってみると立派な展示会場に様変わりしていた。レストランやショップもあって、立派な観光名所となっている。

いわゆる「ダークツーリズム」のひとつだろうが、ニュルンベルク裁判所の展示に比べると、いささか展示が派手でエンターテインメントに傾いている嫌いがある。


戦争中、ヒットラーの頭部彫像が大量生産されていたとは知らなかった。

ホロコーストをイメージした現代アートの展示も。

このあと再び街の城壁のなかへ引き返し、中世の画家デューラーの生家の近くで夕食をとったのち、ミュンヘンへの帰路についた

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