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噤みの午後 Diary

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「噤みの午後日記」の続編。ただし身辺雑記厳禁。
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2017年5月の記事一覧

佐野洋子未公開書簡集『親愛なるミスタ崔』その3:出版秘話と『日中韓三ヶ国語連詩』

佐野洋子未公開書簡集『親愛なるミスタ崔』その3:出版秘話と『日中韓三ヶ国語連詩』

この日記で先週『親愛なるミスタ崔』を取り上げたところ、吉川凪さんからさっそく速報メールが届いた。吉川さんは韓国文学の翻訳者で、この本の巻末に付けられた「ミスタ崔」の回想エッセイも彼女の日本語訳によるものだ。

『親愛なるミスタ崔』の版元であるクオンの若き女社長金承福さんが、その直営ブックカフェ「チェッコリ」で打ち上げパーティを開いた『日中韓三ヶ国語連詩』に韓国から参加した詩人金恵順さんの、大学での

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詩人の肉声:LUNCH POEM@DOKKYO-獨協大学 原成吉ゼミからの贈り物

詩人の肉声:LUNCH POEM@DOKKYO-獨協大学 原成吉ゼミからの贈り物

日本に帰国する楽しみのひとつが、尊敬する英文学者たちとの一夕だ。常任教授メンバーは獨協大学の原成吉さん、上智大学の飯野友幸さん、そして早稲田大学の栩木伸明だ。といっても僕にとって、原さんはなによりもゲーリー・スナイダーの翻訳者であり、飯野さんはかつては大岡信との共訳による名著、思潮社のアメリカ現代詩共訳詩シリーズ『ジョン・アッシュベリー詩集』の訳者であり、もっと後ではホイットマンの『おれにはアメリ

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佐野洋子『親愛なるミスタ崔』:その2

佐野洋子『親愛なるミスタ崔』:その2

『親愛なるミスタ崔』からとりわけ印象に残った箇所をいくつか。

まずは最初から二つ目に出てくる1967.5.15の手紙。書いているのは佐野さんで、あて先はもちろんミスタ崔だ。

「無教養の阿呆の私が、ショックで口もきけなかったのは、あなたが酔っ払って『日本への憎しみ』をはき出した時でした。
 私は『過去にこだわらずアジアの青年よ前に進もう』等、口がさけても言えませんでした。『一度しかない幼年時代』

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親愛なるミスタ崔:佐野洋子の手紙

親愛なるミスタ崔:佐野洋子の手紙

二年前の夏、思い立って韓国と中国の詩人に呼びかけて「日中韓三ヶ国語連詩」なるものをやった。おりしも日本は戦後七十周年で、首相が談話を発表するにあたって諮問機関を作り、どこまで戦争責任を認めるかを「有識者」で協議したり、安保法制をめぐって毎週国会議事堂前に大勢のひとが集まっていた頃だった。政治家たちが寄ってたかってが厚化粧した言葉のメイク(談話であれ法案であれ)に励むなら、詩人だって黙っちゃおれぬと

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