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Burton side 1

この物語はフィクションです。
実在する人物、団体とは関係ありません。


これを読んでいる君へ

新型ウィルスの蔓延により、世界は各国主要都市の一斉ロックダウンを決めた。それから1年、未だ新型ウィルスは猛威を振るっている。治安は乱れ、強盗、殺人、性犯罪…。趣味の悪い映画の中のような現実が広がっている。特効薬などの研究が進められるが大きな成果はない。
政府への不満、未来への不安から人々は徒党を組み、それぞれで助け合いながらギリギリの状態で生きている。
もしも将来、今これを読んでいる君たちの世界で、今の俺と同じ状況に置かれた人がいるのなら、どうか同じ過ちを繰り返さないでほしい。

これは俺の懺悔の記録だ。            バートン


アレックスの見舞いに通って1週間。
やっと容体が安定したようだ。
持病の発作が悪化したことで入院したが、新型ウィルスにいつかかってもおかしくない。見舞いでも入室するためには看護師による除菌と検温をしないと入れてもらえない。

アレックスは変わらず明るく振舞っているが、入院前よりも痩せた気がする。手首が女性のようだ。

A「仕事は見つかった?」
B「いやー、なかなかね。でももうちょっと探してみるよ」

頑張れよ、と笑って励ましてくれるこいつは俺の唯一の親友だ。こんな状況になってしまってからはより一層大事な友人になった。

最近は知り合いの店も営業停止になり、気晴らしをする場所も無くなってきている。アレックスと会うのは最高の気晴らしだ。

B「それじゃ、俺はもう帰るよ」
A「うん、またな」
B「また明日」

また明日、それを言うのが決まりになっていた。約束と明日も当然会えるようにという願いも込めて。
店のママに仕事を紹介してもらう約束があるから、名残惜しいがいつもより早めに病室を出た。

「失礼、バートンさん。少しよろしいですか?」

アレックスの父親だった。表情は硬く、憔悴している。アレックスとよく似た優しげな目元は今は眉を潜めている。
約束はあるが、ただ事ではないと思い頷いた。

「息子と仲良くしてくださってると、話をよく聞いています。ありがとう」
B「いえ…こちらこそ」
「…アレックスの大切な友人にはきちんと伝えておきたいんです」

父親の話では、アレックスの容態は安定しているが、いわゆる嵐の前の静けさとも考えられ、様々な数値が日々大きく変化していて、いつバランスを崩すか分からない。覚悟をしておいてほしいと医者から言われたそうだ。

B「そうですか、ありがとうございます」

病院を後にした。どうやって出たかは覚えていない。Aは出会った時から病気がちで入退院を繰り返していた。だからどこかで安心していた。
こうやって不安定ではあれど死ぬことはなく続いていくんだと。


Bar apricotにて

ママ「なんて顔してんのさ、今から就職面接だってのに」

ママのビビアンは若くしてこの店を持った。軌道に乗っていたが新型ウィルスの影響で店を閉めている。
収入源はないはずなのに、この一年で身なりは変わらないどころか派手になっている気さえする。

ママ「腐ったチーズでも食べたのかい?食事はちゃんとしろってあれほど言っただろ」

そう言いながらサンドイッチを出してくれた。魔女のような見た目だが、なんだかんだ世話を焼いてくれる知り合いなら誰もが知ってる優しい人だ。

B「ママはどうやって生活してんだよ、みんなこんなにギリギリなのに変わらずド派手でさ」
ママ「女に秘密はつきものだ、聞くのは野暮だね。…あと、ビビアンとお呼び」

ママじゃ老け込んだ気がする、とぶつぶつ言いながら食器の片付けを始める。

この人は職業柄色んな知り合いがいる。今日も仕事を紹介してもらうために来たが、店には自分たち以外いない。間がもたないなと思い、あまり食べる気ではなかったがサンドイッチを口に詰め込んだ。

ハニー「ママぁ、聞いてないよぉ!あんなおじさんだなんてぇ」

ドアが開くと同時に甘ったるい声がする。見覚えのあるハニーブロンドとわざとらしいぐらい露出度の高いドレスの女が現れた。
店でも一番の売れっ子らしく、客には政界の人間や著名人も多いらしい。豊満なバストとソプラノの甘い声は確かに魅力的だった。

ママ「大きな声出すんじゃないよ」
ハニー「あっ、ごめんなさぁい。ってバートンさんじゃあん!一緒に飲も〜」
紅「ハニー、着替えて」

ハニーに続いて入ってきたのは黒髪のチャイナドレスを着た東洋人・紅はこの店の傭兵も兼ねているらしい。
高いヒールを脱げば一番小柄かもしれない彼女を見てなんの冗談かと笑ったが、実際にタチの悪い酔っ払ったゴロツキを一捻りしたのを目の当たりにしてから揶揄うのをやめた。

紅に引っ張られていくハニーに手を振ると、ママが食べ終わった皿を片付け終わるところだった。

ママ「さ、そろそろ面接官が来る頃だよ」

ドアの音がした。ママが悪そうに笑う。面接官なのだろう、緊張しながら振り返ると女性が立っていた。

「…お久しぶりなんだけど、分かるかな?」
B「えっ…と?」
ママ「あんた本当に野暮だね、この店で知り合っただろ」
「カリーナよ。酔っ払ってたから覚えてないよね」
B「ごめん…カリーナ、よろしく」

店がまだ営業していた頃に出会ったらしいが、全く覚えていない。握手をして席に着く。
カリーナは赤茶色の髪がよく似合う明るい雰囲気の女性だった。服に隠れて全貌は見えないが、首筋にタトゥーがある。

C「バートンが仕事を探してるって聞いたから、ビビアンさんに頼んだの」

聞けば恋人が体力の必要な仕事をしており、若い男性で動ける人を探しているという。

だからママは筋トレしてたらいいことがある、なんて言ったのか。占いでも始めたのかと話していたが、占いよりも確かだ。

B「僕でよければ喜んでやらせてもらうよ」
C「私もその仕事を手伝ってるからこれからは同僚ね、嬉しいわ」

これで来月の家賃は支払えそうだ。